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姫プは遊びじゃありません!!  作者: ひな
第4章 木霊木珠樹は躊躇わない
20/130

03

 目を覚ましても、意識が醒めてこない。

 ここはどこで、今がいつで、私は誰なのか。記憶さえも曖昧だ。


 視界に映っているのは真っ黒な部屋。明かりは点いているけれど、壁紙も絨毯も   

装飾品も概ね真っ黒だ。本棚には黒魔術の本がいっぱいで、机の上にはヒビの入っ

たガイコツやら怪しげなオーラを纏った水晶玉やらが置いてあり、異様な雰囲気が

垣間見える。


 そんな事はお構いなしに、身体が勝手に起き上がる。私の意志と無関係に、私の

身体が動いているようだ。


「こういう言い方をするのもなんだが……起きたのか」

 私の声が、私の意志とは無関係に口から出る。

「残念ながら、合体は期待外れな結果に終わったようだ。オマエの意識は乱れて掠

れているようだが、ボクの方ははっきりしている」


 あまり自分の言っている意味がよく分からないけど、脚はそのまま部屋を出て、

大きな廊下を進んで突き当りを曲がる。辿り着いたそこは脱衣所のようで、洗面台

の前には鏡が付いていた。


 そこにいたのは……ああ、思い出した。これはボクであり、私でもある顔だ。


 木霊木珠樹。瞳に描かれた赤色の魔法陣が、鏡の前に映された存在の証明だ。


「見ての通り、これがボクらだ。元の姿と全く変わらない。どうやらボクはオマエ

と合体したというより、オマエを吸収したようだ。魔神に比べて、人間の自我は小

さすぎるのかもしれないな」


 またしても勝手に紡がれた言葉とともに、思考までもが頭の中に入ってくる。


 たとえば何千億リットルもの貯水量を持ったダムの中に、ほんの一滴の血を流し

込んだようなものだ。ゆめじの意志はボクという魔神の中に埋もれ、まるで影響を

及ぼさなかった。それでもこうして意志が霧散せずに残っている辺り、かろうじて

合体の体を成しているのかもしれないが……ボクとしてはもう少し見た目に変化が

欲しかったな。


 などと、ボクの中の彼女に解説しつつ、髪を梳く。長い黒髪は魔女っぽくてかっ

こいいから切らずにいるけど、整えるのが面倒でならない。こういうのも魔法でな

んとかできればいいんだが……眠った途端魔法が解除されてしまうから、完全に無

意味だ。まったく、融通の利かない能力を得てしまったものだ。黄泉丘の『ブリタ

ンの憐れな子羊(ダブルバインド)』辺りの方がよほど使えるぞ。ボクもああいう能力が欲しかったも

のだ。


 ……あれ? ボクって三途璃さんの能力知ってたっけ? あの魔神が公に使って

いたのは『破壊と(リボーン・アンド)創造の鎌(・デストロイヤー)』だけで、『ブリタン』の方は私が彼女と個人的に交流

して、はじめて知ったくらいなんだけど……あれ?


「疑問に思う事は無い。オマエはボクの一部だから、その知識もボクのものだ」


 どうやら彼我の境界がおかしくなっているようなので、わざわざ口に出して解説

してやると、ボクの中の彼女は納得したようだ。それと同時に、畏怖めいた感情を

抱いたみたいだ。でもすぐにその矛先が自分自身だと分かると、混乱している。適

応力の低い人間だ。やっぱりゆめじは面白いなあ。


「ああ、そうだ! 良い事を思いついたぞ!」


 なんて素晴らしい思い付きだ。ボクはすぐに自分の中の可能性と向き合い、自分

自身に両手を当てた。『テセウスの幽霊船』……応用だ。


 ボクの能力は、二つの物を合体させられる。その混ざり具合や強く出る部位なん

かはボク自身がある程度調整する事が出来る。この調整を、ゆめじと混じったボク

自身に適用する。今は心の奥底に埋もれてしまったゆめじの要素を、身体表面へと

押し出す。すると、鏡に映った姿が徐々に変貌する。


 髪は短く、背は低く。身体つきはよりしなやかで豊満に。瞳の中の魔法陣は絶望

の黒に塗りつぶされて消える。顔立ちは眩いばかりに美しく、細く弱々しい姿へ。


 ゆめじの姿そっくりだ。いや、本人だからそれ以上だ。こんなに簡単に外見が変

えられるとは……満更合体したのは無駄ではなかったらしい。これでゆめじらしく

振る舞ったら面白そうだ。


「……」


 表面に押し出されたゆめじは、それでも表情を表したりは出来ない。だがものす

ごく不満なようで、嫌悪感を吐き散らかしている。どうした?


 どうしたもこうしたも……汚らわしい私の姿なんて見たくない。せっかくボクは

魔神なのだから人間なんかの見た目は相応しくない。ただの悪戯心なら、品性に関

わるからやめた方がいい。


「汚らわしいなんてとんでもない。ボクはゆめじの顔が大好きだ」


 鏡に向かってそう言って、にっこりと天使のような笑みを浮かべてみせる。ボク

と違って格好良さは無いけれど、美しさは比べ物にならない。まさしく傾城と呼ぶ

に相応しい容姿だ。これを嫌がるなんて、ゆめじには何かコンプレックスでもあっ

たのだろうか。いずれにしても、もう関係の無い話だ。彼女はもう、ボクの一部な

のだから。


「さて、学校に行くとするか」


 未だ不満そうなゆめじの心情を放っておいて支度をする。どうせしばらくすれば

機嫌も治るだろ、多分。


 ところでゆめじの真似をするにはどう振る舞えばいいんだっけ。ちょっと記憶を

掘り返してみるか……ああ、いつも大神と一緒に登校しているのか。


 大神照。うちの学校の創立に関わった魔神だと聞いている。いつも明るく社交的

に振る舞ってるが、何を考えてるか分からない胡散臭い奴……という印象だ。ゆめ

じと仲良くしているのは知っていたが……


 え、照が胡散臭い? それ、忍さん辺りと間違えてない? 彼女は……


「はい、そこまで。ボクの中で他の魔神との思い出を語るな」


 薄ぼんやりとしているはずのゆめじの人格がボクの思考に反応したので、念のた

め口で制しておく。勝手にボクの思考を遮るのは一向に構わないが、他の魔神の話

をされたら面白くない。必要があればボクから勝手に探るから、自分の事だけを考

えて欲しい。


 やれやれ。自分の中に人間を飼うというのは、意外と難しい。まあ、根気良く付

き合っていくとするか。


 妙に静かになったゆめじを胸の中に仕舞いつつ、外へ。他の魔神に見つからない

よう気を付けながら、記憶の中の大神との待ち合わせ場所へと向かう。


 待ち合わせといっても大抵は大神が道中で待ち構えているかたちのようだ。まる

で縛りのきつい恋人みたいだな。あいつ、ああ見えて面倒くさい奴なのかね。


 ゆめじの返事を待たず、ボクの視界が当人を捕らえた。


「おーい、むーちゃん! おっはよー!」


 遠くから大神が駆け寄ってくる。まるで主人を見つけた犬のようだ。ゆめじの主

人はボクなのだから、あいつは間接的にボクに尻尾を振っている事になる。ふん、

悪くないじゃないか。


 ボクが得意げに鼻を鳴らしているところ、私は駆け寄ってきた照の金色の瞳に、

困惑の色が差したのを見た。


「……むーちゃん?」

「そ……そう、だよ? どうしたの、照? 何か変だった?」


 何故そこで疑問形になるのか、意味が分からない。ボクは今、完全にゆめじの見

た目になっているはずだ。実際、オマエの目の前にいるのは本物のゆめじと言って

も過言じゃない。それなのに、何を疑問に思う事がある……?


 きちんとゆめじの口調を使って大神に向かい、言葉を返す。するとしばらく後、

取り繕ったみたいな笑顔が戻ってきた。


「あ、ごめんね! なんかむーちゃん、いつもと違う感じがして驚いちゃった!」

「ふ、ふぅん……ちなみに、具体的にはどう違った?」

「どうって事もなくて、単なるフィーリングなんだけど……強いて言うなら、そう

だなあ……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だったよ」

「そ、そう……照らしい感性だね」


 こ……怖っ! なんで分かるんだよ!


 うん、怖いね。私の知る限り、照の能力にこっちの正体を見破る効果は無いはず

なんだけど……時々鋭いんだよね。


 二人して……もとい一人して驚愕に怯えていると、突然手を掴まれた。


「ひっ!?」

「え、むーちゃんどうしたの? いつも通り手を握っただけだよ?」

「え? あ、そ、そうだね……うん、突然だったからびっくりしただけ」


 そうか……大神はいつもゆめじの手を握って登校しているのか。確かにそれはゆ

めじの記憶からの情報にもあるが……不意打ちには対応できない。くそっ……情け

ない反応をしてしまった。ボクにこんな恥を掻かせるなんて……今に見てろよ。


 しかし……落ち着かないな。大神の体温が伝わってくるし、ボクの体温もあいつ

に伝わっているだろう。そう思うと気分が良くないし、変に動揺してるのがばれて

悪戯が明るみにならないかも心配だ。幸い今のところ、奴がこちらを疑っている様

子は無いが……


 というかこいつ、いつもゆめじの手を握ってるのか。ちょっとボクより早くゆめ

じと知り合ったからって、好き放題しやがって……


 いや、まあいい。どうせもうゆめじはボクのものなんだ。大神はせいぜい、そん

な事も知らずに笑っていればいい。


 程なくして、ボクらは教室まで来た。途中危うく「木霊木」の下駄箱を使いそう

になったが……きちんと「不破」の方を使ったから大丈夫だ。席の場所も分かって

る。突然のハプニングさえなければ、ボクの悪戯は完璧だ。


 教室に来て、ようやく大神がボクの手を離した。ゆめじはいつもその後、自分の

席に行く。ボクも当然「不破」の席へと向かう。


 椅子を引き、腰を下ろす。その瞬間、机の下に一体の魔神が隠れているのに気が

付いた。紫髪の長身女……空々か。


 忍さん……なんでそんなところにいるの? 相変わらず、神出鬼没すぎる。ボク

の方は落ち着き払ってるけど、私の方はびっくりして、叫び声をあげそうになった

よ……声が出なくてよかった。


 無論、魔神であるボクがこの程度に心を動かすわけもない。反応速度が桁違いだ

し、人間と違って相手が何であれ脅威なんて無いのだから。


「おはようございます、忍さん。そんなところで何をしてるんですか?」

「……いえ、落とした消しゴムを拾っていただけですよ」


 空々は寒々しい笑みを浮かべ、のそのそとボクの席から出てきた。隣に座るこい

つは、ゆめじにちょっかいを出すのが好きらしく、いろいろとおちょくるような発

言をしてくるらしい。ふん、そんなのボクに利くものか。


「ところでむーちゃんさん」

「はい、何ですか?」

「あなた、本当は誰なんです?」

「えっ?」


 笑みをそのままに、空々が核心を突く。嘘だろ……二回目だぞ??


 鎌をかけている……というレベルじゃない。目の前にいるのがボクであると分か

っていないと出ないタイプの問いだ。なんだこいつ……わけわからん。


 忍さんは基本、こっちの考えてる事なんて全部分かってるみたいに振る舞う。だ

からこういう状況は日常茶飯事。ばれてるの覚悟で笑って誤魔化すしかない。


 ゆめじからのアドバイスだ。従う他無い。


「あ、あはは……忍さん、冗談がお上手ですね。私、不破夢路ですよ?」

「……本当にそうですか?」

「もちろんですよ! 疑うなら、ポリグラフでも自白剤でも持ってきてもらって構

いませんけど」


 疑うな。ボクは間違いなくゆめじだ。遺伝子レベルでもそうだし、嘘も言ってい

ない。ゆめじの中にボクがいて、ボクの中にゆめじがいる……それだけだ。


「……まあ、いいでしょう」


 ボクの自信満々な態度が功を奏したのか、空々はそれ以上追及しなかった。

 やれやれ、助かったか……


 しかしゆめじの周りの奴らは一体、どうなってるんだ? こいつらはどうしてこ

うも勘が鋭いんだろう。ボクだって人間なんかよりずっと勘が良いつもりだが、こ

れはさすがに異常過ぎる。こいつらとんだバケモノだな。


 一体どの口が言うのか……という、ゆめじの心の呟きは聞き流すとして、だ。


 そういう恐怖を差し引いても、他人のふりをするというのは面白い。特にゆめじ

の場合は見てくれが良いし、そのせいか他の魔神から気にされる傾向があるようだ

から、ロールプレイが楽しいのだ。しばらくはこっちの生活を続けてみるのも悪く

ない。


 新たな生活に胸を躍らせながら、ホームルームが始まる。いつものように日替わ

りの教師役が前に出て、出欠を取っている。このままごとにも慣れたものだ……


「……今日は木霊木さんはお休みですか」


 その言葉に、教室が騒めく。そういえばボクが不破夢路としてここにいる以上、

元々の木霊木珠樹は欠席になるのか。どいつもこいつも真面目に授業に出ている奴

らばかりだから、欠席は少々目立つらしい。最終的に委員長の黄泉丘が「静粛に」

と音頭を取ってその場は収まったが……


「むーちゃんさん、聞きました? 木霊木さんがお休みみたいですよ」


 何故か空々が小声で話しかけてくる。なんだよこいつ。ホームルームとはいえ、

授業くらいきちんと聞けよ……


「そうみたいですね。でも私達には関係の無い事ですし……」

「本当にそう思ってます?」

「え……な、何が言いたいんですか?」

「別に、何も? うふふ……」

「……」


 嘘つけ、明らかに何か含みがあるだろ!


 と言いたいが、ゆめじの性格上それが不自然なのは、いちいちゆめじの記憶から

確認を取るまでもない。言いたい事も言えないなんて、よっぽど普段から抑圧され

た生活を送ってきたんだろうな。彼女の苦労を慮ると、哀れな気持ちになる。今は

魔神になれて、ゆめじも満足だろう。


「では、ホームルームを終わります……」

「ちょっと待って!」


 普段通りの日常風景に、突如切り込みが入った。


 儀式めいた朝の慣例を普段通りに粛々とこなしたはずの教師を、大神が引き留め

たのだ。席を蹴飛ばし、ただならぬ様子で声を荒げている。


「ねえせんせー、木霊木さんがお休みなのはなんで?」

「なんでって……自分は何も聞いていませんが」

「嘘! あなた絶対何か隠してるでしょ! わたしの目は誤魔化せないよ!」

「え、ええ……」


 なんか難癖付け始めたな、あいつ。ボクの欠席の理由を、あんな奴が知ってるわ

けないだろうに……一体何を考えてるやら。


 当然そう思ったのはボクだけではないらしく、黄泉丘が照に苦言を呈する。


「ちょっと照、いきなりどうしたのよ。木霊木さんの事なら私が後で……」

「ごめん、三途璃ちゃん。ちょっと黙ってて」

「なっ……」


 有無を言わせない大神の態度に、黄泉丘の眉が吊り上がる。しかし抗議の言葉を

繰り出すよりも前に、大神の手に武器が現れた。


「『つらなりの鎖』……せんせーを狙え!」


 大神の腕にある一束の鎖……その一端が教師へ襲い掛かった。とても人間が対応

出来る速度ではない。瞬く間に教師の身体はぐるぐる巻きにされ、尚も余った先端

が苦無のように鋭く尖り、身動きが取れない人間の喉笛に狙いをつけている。


 ゆめじの心が騒めいている。この後に予想される凄惨な場面を恐れているのか、

単純に大神が怖いのか……今更何を怯えているのやら。


「さあせんせー、隠してる事を全部話して。三秒だけ待ってあげる」

「じ、自分は本当に何も……」


 教師の言葉を無視し、勝手にカウントダウンを始める大神。おいおい、あいつも

う絶対何も知らないだろ……


「さん……にー……いち……ぜろ!」


 無慈悲なカウントとともに、鎖の先端が飛び掛かる。拘束された教師の首元……

をすり抜けて、()()()()向かってくる。


「え……?」


 魔神といえど、悠長に構えていられる速度ではない。慌てて体勢を反らし、あわ

や額を掠める程度で攻撃を避けた。幸い出血するような怪我はしなかったが……さ

すがに肝を冷やしたぞ。


「ちょっと、照! 危ないでしょ! 突然こんな……」

「そう、突然だよ。どんくさいむーちゃんが反応できるわけがないくらいにね」


 気が付くと、大神がまっすぐこちらを向いていた。温度を感じられない絶対零度

の視線が、ボクを射殺すように刺し貫く。もはやその目に、教師はいない。


 はめられた……? こいつ、最初からずっとボクを疑っていたのか?


「な……何言ってるの? 今のはたまたま偶然助かっただけで……」

「じゃあ、どうしてずっと席にいたの?」

「どうしてって……」

「普段のむーちゃんなら、わたしが鎖を出した辺りで止めに入ると思うけど?」

「……」


 そういえば、ゆめじがしきりに騒いでいたっけ。てっきり怖いからだと思ってい

たが……ボクの行動の不自然さを咎めていたのか? 確かにいつも魔神が騒ぐたび

にゆめじが出張っていたようだが……自分の生命が危ない時じゃなくてもいちいち

出ていたのか? くそっ……なんでそんな事してるんだよ! 弱っちい人間のくせ

に、どうしてそんな余計なリスクを負ってたんだよ……


「……木霊木さん」

 大神がボクを追い詰めるように近づいてくる。

「むーちゃんをどこにやったの? その格好はどういうつもり?」

「……」


 まあいい。所詮は悪戯だ。まさかこんなにスピーディーにばれるとは思わなかっ

たが、いずれは腹を割る機会が訪れるとは思っていたしな。


 観念して、ボクは自分の外見を元に戻した。


「大神……オマエ、意外と鋭いんだな」

「照でいいよ。わたし、人を見る目には自信あるから!」

「『人』を見る目、ねえ……」


 追い詰めた事で余裕が生まれたのか、大神は妙にフレンドリーだ。一層こいつの

精神状態が分からんが……ふん、主導権はまだボクの方にある。


「いいだろう、教えてやる。ゆめじはここにいる。ゆめじはボクだ」

「……どういう意味?」


 困惑する大神に、ボクは全てを話してやった。ゆめじはボクと合体し、もはやボ

クの一部なのだ。大神がいくらボクを咎めようと、無駄な事だ。


「なるほどね。珠樹ちゃん、なかなかいい能力を持ってるんだね」

「……馴れ馴れしいな。ボクの事を名前で呼ぶな」

「で、元に戻せるんだよね?」

「ボクの能力、『テセウスの幽霊船』はあくまで合体能力だ。合わさったものを再

び分解する事は出来ない」

「元に戻せないのに合体したの?」

「そうだ。悪いか?」

「……」


 てっきりドン引きされると思ったが……意外と大神は倫理観の無い方らしく、む

しろ興味深そうに「悪くないけど、ちょっと羨ましい……」などと言っていた。せ

っかくなので悪ぶってやろうと思ったが……ちっ、肩透かしだ。


「まあいいよ」

 大神は首を振り、肩を竦めた。

「珠樹ちゃんの能力で戻すのは無理でも、他に方法があるでしょ。ねえ、誰かそう

いう能力に心当たりある?」


 大神の言葉に、他の魔神達がぱらぱらと手を挙げた。どいつもこいつも、この状

況を面白がっているらしい。確かに退屈を紛らわすには丁度良い余興かもしれない

が……ボクは見世物じゃない。


「生憎だが、元に戻るつもりはない。ボクの事は放っておけ」

「は? 何言ってんの?」

 ボクの言葉に、大神が目を剥いた。

「だってこのままじゃずっとむーちゃんと一緒だよ? 珠樹ちゃん、嫌でしょ?」

「別に嫌じゃない。お互い仲良くやってるよ」

「でも、むーちゃんの意志だってあるでしょ。魔神と合体とかそういうの、多分嫌

いなんじゃないのかなあ……」

「どういう根拠でそんな事を言うのか知らんが……別に嫌がってないぞ」


 正直、そこに関しては自身が無い。ゆめじは今、その辺りが曖昧なのだ。なあ?


 ……さっきから皆が何を言っているのか、いまいち分からない。私はボクで、ボ

クは私。私が話す事はボクの思考になって、ボクは私の思考を行動に変える。だか

ら私はボクであって、それ以外無い。照が戻すとか分解とか言ってるけど、どうに

も抽象的で理解し難い。


「うん、嫌がってない。間違いないぞ」


 嫌がっているかどうかという以前に、ゆめじは未だに自分が誰なのか分かってい

ない。誰かと合体したというのは、人間の脳には受け入れ難いのかもしれない。


 だが合体を提案してきたのはゆめじだ。何より彼女は、普段からずっと魔神に怯

える生活を続け、不満が溜まっていたはずだ。


「ゆめじは魔神になって平穏を手に入れた。アイツもボクと一緒になって本望なは

ずだ。誰も不幸になっていない。問題あるまい」

「そうだね。でもわたしは納得できないから駄目。元に戻ってもらうよ」

「……」


 なんて強情な奴だ。これだけきちんと理論的に話をしているのに、頭からばっさ

り否定してくるなんて……やっぱりボク、こいつが苦手だ。


「大体、むーちゃんが嫌がってないっていうのも、珠樹ちゃんが言ってるだけだか

らね。わたしの経験上、むーちゃんは嫌がるはずだよ」

「それはオマエがそう思ってるだけだろ」

「もちろんそれは珠樹ちゃんにも言える事だよ」

「……」

「……」


 ボクは大神を睨んだ。大神もまた、ボクを見つめる。敵意は薄いが、闘争心が垣

間見える。最終的に、実力行使に出てくるか……?


 いやいや、冗談じゃない。照とまともに戦って勝てるもんか。戦うなら、ルール

を設けて互角に……いや、絶対こっちが有利な条件でやらなきゃだめだ。多少無理

を言っても、なんだかんだ照は受け入れてくれるから。


 などと、ゆめじが弱気な事を言ってくる。ボクだってこう見えて強いのだ。大神

にだって負けるものか。


「ちょっと二人とも……っていうか三人とも、よしなさいよ。魔神同士が普通に戦

ったら、学校が無くなっちゃうわよ?」


 一触即発なボクらの間に、黄泉丘が割って入った。委員長に咎められた以上、お

互いこの場は引くしかない。もちろん、引きっぱなしでいるわけもない。


「勝負は放課後。どっちが正しいかはっきりしようね」


 大神が柔らかく、まるでボクではない誰かに話しかけているように、屈託の無い

笑みを浮かべて見せた。


 いいだろう、望むところだ。

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