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姫プは遊びじゃありません!!  作者: ひな
第4章 木霊木珠樹は躊躇わない
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02

 一口に黒魔術といっても、その範囲は膨大で曖昧だ。


 一般的なイメージは、中世ヨーロッパの伝説に登場する魔女が使う危険な術……   

という感じだろう。実際、多くの黒魔術がその時代と場所をルーツにしているとか

いないとか。


 ただ、それだけが黒魔術というわけでもない。


 極端な話、ネガティブな過程や効果をもたらす不思議な力や儀式は全て黒魔術と

して括ってもいいくらいだ。そしてそういう類の儀式は、時代や場所を問わず行わ

れるものだ。古くは殉死や人柱による安全祈願、新しいので言えばそれこそ丑の刻

参りまで、多岐にわたる。


 科学が発展し、魔女も魔術も迷信だという認識が広がっても尚、迷信に縋る人間

は少なからずいる。ちっぽけな人間にとって魔術という存在は、それほどまでに甘

美だ。

 特に昨今は、魔神なんてバケモノが大手を振ってまかり通る世紀末。私だって、

縋れるものなら縋りたい。


「黒魔術って人間の生贄を使う事が多いだろ? だからこれまで試せない事が多く

て歯がゆかったんだ。その点、魔神になったら楽でいいな。誰もボクを咎めないん

だから」

「……」


 平然とそんな事を言い放つのだから、魔神というのは恐ろしい。人間の縋る先に

まで魔神が待ち構えているのだから、どこへ行っても救われないなあ……


 いやいや、私まで諦めてどうする! しっかりしないと!


 とりあえずこの間の三途璃さんとの一件を反省し、早速スマホを新調した私は、

さっきの空き教室に黒服を呼んだ。彼がきっと、釘まみれの憐れな人々を救い出し

てくれるだろう。

 あちらは彼に任せて、私の方はジュジュさんの黒魔術信仰を何とかしないと。


「あ、あの……ジュジュさんってそもそも儀式が必要なんですか?」

「言ってる意味が分からないな」

 私の指摘に、ジュジュさんの瞳の中の魔法陣が瞬いた。

「もちろん儀式が要らない黒魔術だってある。だがせっかくゆめじ、オマエもいる

んだ。手の込んだやつに取り掛かりたい」

「え、えと、違くて……あの、今私達が空を飛んでいるのは、その……」

「ああ、そういえば説明してなかったか」


 そう言ってジュジュさんは夜空に浮かんだまま右手に持っている杖をくるりと回

した。すると夜空を駆けるように飛んでいた私達の動きが徐々にスローになり、ゆ

っくりと地面に降りていく。


 降り立ったのは、魔神の街から遠く離れたとある市街地の一角だった。表通りで

はないけれど、競うようにビルが建ち、まばらに人々が行き交う。夜に差し掛かっ

た街には、食事処の香ばしい匂いや飲み屋街の喧騒が漂ってくる。けれどさすがに

彼らの興味は、突然空から降ってきた私達に向いていた。


「ジュジュさん……私達注目されてませんか?」

「どうでもいい。目の前にいるボクを無視して有象無象を気にするな」

「そ、そう言われても……」

「この杖について訊きたいんだろ?」


 周りの喧騒も私の呟きも無視して、ジュジュさんは杖を掲げて見せた。見た目は

普通の樫の杖だ。先端が大きく曲がって半円を描き、その中央に水晶のような物体

が取り付けられている以外は。


「これはボクの能力……『大魔導(ワールドワイド・)師の杖(ワンダーワンド)』だ。持っていると、魔法が使える」

「魔法……つまり、黒魔術ですか?」

「違う。魔法はあくまで魔法でしかない。儀式も生贄も要らない、ただの力。ボク

が好きな黒魔術を準備するための便利な道具でしかない」

「え、ええと……」

「少し見せてやるよ。ほら、『服飾(ドレスアップ・)魔法(カルセドニー)』だ」


 軽い調子でそう言って、ジュジュさんが杖を振る。すると、彼女が着ていた制服

が一瞬にしてどす黒く変色した……否、変わった。


 ジュジュさんはいつのまにか、真っ黒なドレスを身に纏っていた。丈が短く、闇

を纏ったようなミニスカート。おまけに頭の上には魔女らしい黒のとんがり帽子。

 単なる早着替え……というわけではなさそうだ。何故ならその恰好は、私自身に

も及んでいたから。


「なかなか似合ってるぞ。オマエ、明日からその恰好で学校に来たらどうだ?」

「……冗談はやめてくださいよ。三途璃さんに殺されちゃいます」

「……ふん、黄泉丘か。あんな口うるさい奴は放っておけばいい」


 委員長の名前を出すと、ジュジュさんの表情に鼻白んだものが浮かぶ。同じ魔神

同士、思うところがあるのだろうか。


「ボクの前で他の魔神の名を出すな。それよりこれが魔法だ。分かったか?」

「え、ええと……確かに黒魔術っぽくはないですよね」

「そうだろう。手軽で便利だが、それだけだ」

「ちなみに他には何が出来るんですか?」

「ボクが魔法だと思った事なら大抵出来る。例えばそうだな……」


 言いながら、ジュジュさんが私の肩越しに背後に焦点を合わせた。振り返ると、

すっかり人だかりになった路地の一角でこちらを見ている人達の何人かが、スマホ

を構えてこちらを見ている。


「あー……私達の事、コスプレ集団か何かと思ったんでしょうか」

「……ボクは見世物じゃない。こっちを見て笑うな」

「え?」


 その言葉が私に向けられたものではない事に気付くのに、一瞬時間が掛かった。

気付いた時には、ジュジュさんの右手の杖は高々と空に掲げられていた。


「ボクを笑った罪は、死で贖え……『火炎魔(クリメーション・)(ルビー)』!」


 静止する間も無く、轟音とともにスマホ集団の身体が一人ずつ順番に爆裂した。

全身が数百の肉片となって、そこら中に飛び散り、それらが燃え、炭となって風に

乗り、消える。あまりにもあっけなく瞬間的に、何人もの人間が風とともに霧散し

ていった。


「うわあああああっ!」


 誰がはじめに悲鳴を上げたのか、オーディエンスが蜘蛛の子を散らすようにして

逃げていく。阿鼻叫喚の地獄絵図の中、災禍の真っただ中にいるジュジュさんはと

いうと、うるさそうに顔をしかめながら、どこか気が晴れた様子で私の方へと顔を

向けるのだった。


「と、まあ。攻撃にも使えるわけだ」

「え、えと、平然と言われると、心が追いつかないのですが……」

「なんだよ。オマエが巻き添えになっちゃ面倒だから、あの程度にとどめておいた

んだぞ。その気になればこっちを見てたやつら全員燃えカスにする事だって出来た

んだ」

「……」

「まあいい。とにかくこの街で狩りをしようか。今晩のうちに六百六十六人の生贄

を使って、悪魔を召喚する術式を試す。上手くいけば同じ要領で五十体くらい呼び

出して、適当に暴れさせても面白いかもな。オマエも手伝え」

「え、ええと……」


 置いてけぼりになっている場合じゃなさそうだ。一刻も早く止めないと、さらっ

と数万単位の被害が出てしまいそうだ。仮に悪魔なんてものが召喚されてしまった

ら、もっと被害が増える可能性だってある。


 いや、悪魔なんていないと思うけど……なにしろ魔神がやる事だ。たとえ存在し

なくたって、適当に具現化してしまうかもしれない。


 何としてでも止めないと。


「あの、ジュジュさん……」

「なんだよ。別にオマエに人間を攫えなんて言わないぞ」

「いえ、そうじゃなくて……さっきの話の続きをしませんか?」

「何の事だよ」

「あの……ジュジュさんって、魔法が使えるじゃないですか。あなたはただ便利な

だけって言ってましたけど、それってすごい事だと思うんです」

「褒めても何も出ないぞ」

「そういう話でもなくて……あの、単刀直入に言いますけど、ジュジュさんはどう

してそんなに黒魔術に拘るんですか? ジュジュさんが一体何を求めているのか分

かりませんけど、大抵は魔法で事足りると思うんですよ」


 私にとって黒魔術が魅力的に感じられるのは、無力で弱い人間だから。


 対してジュジュさんは何者にも脅かされない魔神であり、しかも万能な魔法が使

える。今のところ何が出来ないかは分かっていないけど、わざわざ準備が必要な儀

式や生贄を使ってまでやりたい事なんてあるのだろうか。


 私のこの問いは、極めて論理的で至極真っ当なものだと思う。けれどジュジュさ

んはそう思わなかったらしく、私の言っている意味がまるで分からないという風に

首を傾げていた。


「オマエ、おかしな事を言うな。ボクの求めてる事だって? それなら、今まさに

そのために活動してるじゃないか」

「と、言うと?」

「だから、黒魔術だよ。ボクは黒魔術が好きなんだ。だってロマンがあるからな。

本物かどうか分からない。あるかどうかも分からない、だからやるんだ。その結果

何が起きるかなんてのは、大して重要じゃない」

「え、ええと……」

「それに、楽しいだろ。どうして黒魔術を使う魔女を忌む魔女狩りなんて風習が生

まれたと思う? どうして黒魔術が禁忌だなんて言われてると思う? いけない事

だからだよ。人間が隠れて煙草を吸うのと同じだ。オマエも背徳感を愉しめばいい

んだよ」

「……」


 まずい……彼女、今までに関わった魔神達とタイプが違う。


 照は周りの危害を考えずに能力を使うしそれを悪びれもしないけれど、欲求その

ものは平穏だから、きちんと話が出来る状況にあれば無茶はしない。


 忍さんは気まぐれに人を殺すけれど、基本的に周りを揶揄うばかりだから、興味

を惹く事さえ出来れば悲惨な事にはならない。出来るかどうかは別として、ね。


 三途璃さんは論理的だから、筋道を立てて話をすれば受け入れられる公算が高い

と思う。まともにやれた事は無いけども。


 でもジュジュさんは、虐殺そのものに意味を見出しているし、それがいけない事

だと理解した上でやる。


 正論が通じないパターンだ。論を語るしか能が無い私には、どうする事もできな

い相手。どうしよう。どうすればいい? いっそ本当に煙草でも薦めてみる? 多

分意味無いんだろうなあ……


「……オマエ、ボクの話を聞いてるか?」

「えっ?」

「ぴんときてないみたいだな。ボクの言ってる事、分からなかったみたいだな」


 私の反応が薄かったからか、ジュジュさんの表情に不快感が差した。も、もしか

して、怒らせた……?


「……ふん、まあいい」

 しかし予想に反して、ジュジュさんは殊勝な様子で目を落とした。

「オマエは人間だし、まともに話すのも今日が初めてだ。今すぐにボクの全てを分

かって欲しいなんて言わないし、そんなの無理だって分かってる」

「す、すみません……」

「いいよ。でもオマエはゆくゆく、もっとボクに依って貰わないと困る。おかしな

価値観は全部捨てて、代わりにボクと同じモノを愉しんで欲しい」

「そ、そう言われても……」

「全部ボクに任せろ。英才教育を施してやる」


 そう言ってジュジュさんは杖を掲げ、呪文を唱える。

「『転移(ディストーション・)魔法(サンストーン)』……開け」


 すると彼女の目の前の空間が直径二メートルくらいの円形に裂け、その向こうに

は、市街地にはあり得ない広大な草原が広がっていた。


「これ……別の場所に繋がってるんですか?」


 私の問いに、ジュジュさんが頷いた。


 瞬間移動に近い事まで出来るのか。照の『つらなり(チェーン・オブ・)の鎖(チェイン)』に似た力だ。これだけ

いろいろ出来るのなら、いよいよものすごいポテンシャルだ。


 あっけにとられる私をよそに、ジュジュさんは空間の切れ目を通り抜け、向こう

側から私を手招きする。


「ゆめじ、早く来いよ」

「え、ええと……儀式はもうやらないって事でいいんですよね?」

「そんなのは明日以降でいいから、ほら」


 急かされ促され、おっかなびっくり空間を通り抜けた。

 転移してきた先は、どうやら牧場のようだ。目の前には柵と看板があり、看板に

は首から大きな鈴をぶら下げた牛の絵と、見慣れない文字が並んでいる。


「英語……じゃなくて、スペイン語?」

「南米だからな。この辺りは何も無いから、秘め事にはもってこいなんだ」

「……」


 魔神の攻撃によって、国としての機能を失った地域は多い。特に南米諸国のいく

つかはそれが顕著で、直径何百キロという範囲丸ごと人間が住んでいないという地

域も珍しくない。ここもその一つというわけか。


 穏やかな風が吹く草原で、月と星が綺麗に見える。けれど遠くで怪しげな獣の唸

り声が聞こえてくるし、そこかしこから野性的な息遣いが聞こえてくる。自然が穏

やかな顔をしていても、五感全てが警鐘を鳴らしている。


 生贄を使った儀式が取りやめになっても、一息ついている暇もない。英才教育と

いうジュジュさんの物騒な物言いを考えると、ここでもっと凄惨な現場に立ち会う

事になっても不思議はないのだから。


「ここは、ボクの箱庭だ」

「箱庭……何かを飼っているんですか?」

「鋭いな。まあ焦るなよ。事には順序ってものがあるんだからな」


 不安でいっぱいの私の顔を見て、ジュジュさんは何故か愉快そうにほくそ笑む。

まるで小心者だと嗤われているようだ。


「……ここで私に何を教育しようと言うんですか?」

「虚勢張ってるのがばればれだぞ。オマエ、本当に面白いな」

「……」

「それより、ボクの能力についてもうちょっと話しておこう」


 そう言ってジュジュさんは、これまでずっと右手に持っていた杖を手放した。す

ると杖は空気に溶け、夜の闇と同化して消えた。『つらなりの鎖』をはじめとした

具現化するタイプの能力と同じカテゴリーなのだろうか。


 ただし、消えたのは杖だけではなかった。私達が通ってきた空間の裂け目や、魔

法でこしらえた魔女の衣装もまた、役目を終えた様子で元の状態に戻った。


「これが『大魔導師の杖』の弱点だ」

 自分の恰好を確認しながら、ジュジュさんが語る。

「杖を消してしまえば、魔法の効果も消えてしまう。もちろんボクらが移動した事

実や、ボクにスマホを向けた痴れ者の死まで無かった事にはならないが……かたち

に残るものは何も無い。オマエはさっき過大評価していたようだが……やっぱりこ

れは便利なだけの能力なわけだ」

「……十分すぎると思いますけど」

「ボクはそうは思わない。背徳感だって、一時的なだけじゃ飽きが来る。だからこ

うして、形に残るモノを作ってるんだ」

「作るって……」

「ボクのもう一つの能力の話だ……ああ、来たな」


 ジュジュさんは何かに気付いた様子で夜の虚空を見つめ、また杖を具現化して構

えた。私も夜の闇の中で目を凝らすと……段々と何かが近づいてくるのを感じた。

ライオンくらいの大きさの生物が、がさがさと不可思議な足音を立ててこちらに走

ってくる。はて、あんな音を立てて近づいてくる大型の生き物って一体何だろう。

そんな生物、自然界にいたっけ?


 などと考えていた私は、正真正銘の大馬鹿だ。ここまで木霊木珠樹という魔神の

異常性を目の前で見ながら、何を学んだというのか。


「ひっ……ぎゃあああああっ!」


 視覚で捉えたものを認識するよりも前に、恥も外聞も無く絶叫した。


 こちらに向かってきたもの……それは牛だった。


 暴れ牛。それだけでもか弱い人間には脅威だけれど、驚いたのはその勢いや鬼の

ような形相なんかじゃなく、脚。野生の牛にはあり得ない、ハリガネのような八本

脚。虫のようなその脚は一本一本が牛刀のように鋭く尖り、月明かりを反射してい

る。そしてその脚で、私達を刺し殺そうと突進しながら前脚を振り上げ……


「飼い主の顔も忘れたか……『電撃(プラズマウィップ)魔法(・ヘリオドール)』!」


 ジュジュさんの杖から轟音とともに雷が現れ、牛に向かって飛んでいく。牛は断

末魔のような悲鳴を上げながら、そのまま後ろにひっくり返った。身体中から煙が

上がっているけれど、ぴくぴくと痙攣しながら生きているようだ。


「殺さない魔法だ。せっかくの傑作を、ボク自ら殺すわけないだろ」

「傑作って、これ……」

「ボクが作ったんだよ。牛鬼って妖怪を模したんだ。いい出来だろう。こいつはば

かだから攻撃してきたけど、他はきちんと躾が出来てるはずだ……今呼ぶ」


 牛を踏みつけながら、ジュジュさんが口笛を吹いた。すると遠巻きに見ていたら

しいおぞましい姿の獣達が、続々と集まってきた。


 二つの頭が苦悶の表情を浮かべ、涎を垂らす犬。

「そいつはケルベロスだ」


 尻尾にも頭あり、前と後ろを行ったり来たりする蛇。

「アンフェスバエナ。本当はヤマタノオロチを作ろうとしたけど、材料が足りなく

なったんだ」


 すさまじい巨体の蛇で、人間のような顔と鷲のような翼に加え、猛牛の角と二股

の尾、長いたてがみを携えた謎生物。

「そいつは失敗作だな。まあタギュア・タギュア・ラグーンって事にしておけ」

「しておけって言われても……」


 他にもたくさん、神話や伝承に登場するような生物がいる。中には人面や半人半

獣の姿まである。どれもこれも生命を冒涜したような姿をしているし、ほとんどが

苦痛を訴えているような妙な挙動をしている。


「ボクの二つ目の能力は、『テセウスの幽霊船(ゴーストシップ)』って名前だ」


 ジュジュさんは、そんなバケモノ達に臆する事なく近づいていく。そしてその中

から、下半身がジュゴンのようになった男性と、さっき見た双頭の蛇を選び、それ

ぞれを掴んで見下ろした。


「や、やメて、くレ……」


 男性の方は人語を話し、許しを請うた。けれどその言葉がジュジュさんの心を動

かすには至らず、彼らは光に包まれ、消滅した。


 代わりにそこにいたのは、彼らを足し合わせたバケモノの姿。

 頭はジュゴン、身体は蛇、脚は人間の男性、ついでに両手は蛇の頭。二体のバケ

モノは、ジュジュさんによって……合体した?


「この能力は、二つの物体を合成するんだ。合成の調子はある程度コントロールで

きるんだが……どうしても人間と動物だと、人間が強く出るみたいだ。見ろよゆめ

じ。あいつ、あんななりで二足歩行してるんだ」


 ジュジュさんの言う通り、作られたバケモノはジュゴンの顔でふらふらと歩いて

いる。その滑稽な姿を笑うだけの気力は、私には残されていない。


 いかれている。


 黒魔術だって大概だし、人間を殺すのも酷い。


 でもこれは、そんなレベルでさえない。ただただ生命を弄び、遊んでいるだけ。

 これほどまでに醜悪な非道に対し、私は何も出来ない。その無力が、おぞましい

ほどに私の情緒を狂わせる。


 これを見て、一体なんて言えばいいのだろう。


「……この能力の効果は、杖の魔法と違ってずっと残るんですか?」


 現実逃避に近い私の問いに気をよくしたらしいジュジュさんが「そうだ」と首を

縦に振った。

「面白いだろう? 変な見た目になった奴を笑ってもいいし、強そうな見た目の奴

らを戦わせてもいい。こいつらに人里を襲わせたら、どんな反応が返ってくると思

う? 写真集とか出したら売れるかもな。おいゆめじ、オマエはどれが好きだ? 

一体選べよ」

「……あ、あはは」


 乾いた笑いが出てきた。


 こんなものを見せて、ジュジュさんは私をどうしようというのだろう。英才教育

ってまさか、私をこの合成獣達の一部にでもする気だろうか。選んだ一体と合成さ

せて、倫理観をぶっ壊してしまおうって魂胆かな。


 いやいや、さすがにそれは怖すぎる。何としてでも避けないと。


「じ、ジュジュさんがいいですっ!」

「え?」

「私、ジュジュさんが一番好きですっ! 選べと言うなら、ジュジュさんしか考え

られません! そのくらい、あなたが何より印象深いのでっ! 他の連中と合体な

んて、とんでもない話ですっ! どうか思い直して下さいっ!!」


 我ながら、呆れるほどの擦り寄り方だ。要するに『合成なんてしなくても、あな

たの考えを理解したい気持ちでいっぱいです!』と媚を売っているだけだ。でも私

が生き残るには、もうこれしか……


「その、かっこいいやつを一体、ペットにどうかなってつもりだったんだが……」


 見苦しい私を見て、ジュジュさんはどうしてか、照れた様子で目を逸らした。

 あれ? 思ってた反応と全然違う。もっとこう……「しょうがないなあ」的なニ

ュアンスで来ると思ったんだけど……


 いや、照れたって面白くないですよ。だって周りはバケモノだらけですからね。


「あ、あの、ジュジュさん。私、ちょっと言葉選び間違ったかも……」

「……いや、いい。オマエがまさかボクと同じ事を考えていたとは思わなかった」

「え?」

「前々から思っていたんだ。人間や動物を材料にしたらこうなるが、もしも魔神を

使ったらどうなるかって」

「そ、そんな事は……!」

「分かってる。うちのクラスの連中は付き合ってくれないだろうな。やるならボク

が自分を使うしかないんだが……さすがにそれは抵抗があった」

「そ、それはもちろんそうですよね……」

「でもオマエは違った。オマエは積極的にボクと一緒になりたがってる。そこまで

言うのなら、ボクだって覚悟を決めるさ」

「え、ええっ?」


 そういう捉え方するの……?


 いや、確かに「一番はジュジュさん」って言ったし、「他の連中と合成は嫌」と

も言ったけど……だからって「ジュジュさんと合成されたい」なんて言ってない!


「で、でも、ジュジュさんの方が嫌ですよね……? 私とは感覚が合わないみたい

だし、第一人間だし……」

「……」


 ジュジュさんは何も言わず、私に近づいてきた。


「ちょ、ちょっと……」


 一歩後ずさる。すると背中に生暖かい感触が。振り返ると、合成獣達が私の逃げ

場を塞いでいた。


「……」


 こいつら、意識あるの? ジュジュさんに従ってるだけ? それとも「自分だけ

逃げるなんてずるいぞ」的なニュアンス? そういうの、よくないでしょ……!


 でもいくら睨んでも、道を譲ってはくれない。そもそも譲られたところで魔神か

ら逃げるなんて多分不可能だし、意味無いんだけど。


 かくなる上は、スマホで助けを求めるしかない! 照なら秒で来てくれる……


「今更弱腰になっても駄目だ。オマエから言い出したんだろ」


 しかしスマホを出す暇もなく捕まってしまった。片手で顎を掴まれて、もはやも

がいても全く動けない。


「ゆめじ……ボクはオマエとなら、混ざってしまってもいい」

「わ、私は……」

「これ以上の言葉はいらない。終わってからのお楽しみだ」


 そう言って、ジュジュさんが笑う。その笑みは美しく、おそろしく醜悪だった。


 そう思った瞬間、目の前に火花が散った。


 脳みそが蕩けるような感覚とともに、緩やかな死を感じる。


 私は今、どうなってる……?

 これからどうなるの……?


 そんな疑問さえも溶解し、そのうち何も分からなくなった。

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