06
後日談……というより、単なる補足。
大筋は大体もう語り終わったので、後の残ったのはつまらない事後処理だけ。
まずは、例によって政府からのお叱りだ。すっかり顔なじみになった黒服が、淡
々と事実ばかりを述べていく。
「事件が起きたのは空々忍の自宅付近……すなわち魔神の街ですが、当然被害は人
類の居住区まで及んでいます。人的被害だけでおよそ八万人、建造物や公道の破壊
による被害額は軽く見積もっても約一千億円以上。夢路さん、これは一体どういう
事ですか?」
「どうと言われましても、ええと、見たまんま、魔神同士の争いの結果です……」
「あなた、現場にいたんですよね? 事前に止められなかったんですか?」
「面目ない……いや、あの、最終的に止めたので、それで許して貰えませんか?」
「死んだ八万人がそれで許してくれるならいいのですが……」
「……」
相変わらず滅茶苦茶を言う。どうすれば良かったのか……知っているなら教えて
欲しいくらいなのに。
「で、大神照と空々忍の争いの原因は何だったんです?」
「さ、さあ……」
「は?」
「……すみません。私にもさっぱりです」
結局のところ、あの戦いが何だったのかは全然分からなかった。
戦う前、忍さんは言っていた……幸せになる方法が知りたい、と。
彼女に言わせると照は幸せで、そこに私が絡むらしい。
でもそれと先の戦いと、何の関係があるのかはさっぱり分からない。
忍さんは照との戦いで、幸せになる方法が分かったのだろうか。見たところ全然
そんな風には見えなかったけど。私にはただ、無意味に暴れているようにしか見え
なかった。
忍さんらしく、気まぐれに。
だとすると、幸せ云々というのも全て無意味な戯言だったのだろうか。ただ単に
こちらを煙に巻き、困らせるだけのもっともらしい口実。
分からない。何一つ分からない。
ここ数日、忍さんの行動原理を理解しようと励んだ末、抱いた感想がこれだ。
……結局のところ、弄ばれていただけか。
「原因が分からないでは困ります。それじゃあ対策すら立てられないでしょうが」
「……すみません」
「……まあ、謝って貰っても仕方がない。今更八万人の生命は取り返しがつくはず
もない。政府の者としては、今回の件はあなたのミスとして、今後同じような事が
起こらないよう深く反省してもらう他ありませんね」
「……」
返す言葉も無い。がっくりと肩を落とした私に、黒服は少しだけ付け加えた。
「一人の人間としては、あなたに感謝しています。あなたが駆けつけてくれなけれ
ば、私は空々忍に殺されていたでしょうから」
そんな言葉に感激し、にわかに元気を取り戻した私はきっと、人間から見ても分
かりやすい部類なのだろう。魔神から見てどうなのか……語るまでもあるまい。
次に、街の修復だ。辺り一帯に広がった白い空間を元に戻すのは、照にしか出来
ない事だ。
「まあ、むーちゃんがどうしてもって言うなら、戻してあげなくもないけどさ」
「是非やって。じゃないと私、また怒られちゃうから……」
「せーふの人なんて放っておけばいいと思うけどね。あの人達、むーちゃんに怒っ
てばっかだもん」
「まあ……私が悪いところもあるし」
「……むーちゃんがいいならいいけどね。でも約束して。今度からいきなり服を脱
ぐのだけは絶対やめてね」
「脱ぎたくて脱いだわけじゃないよ。普段なら絶対やらない」
「普段じゃなくてもだめ。年頃の女の子なんだから、もっと自分を大切にしてよ」
「……照達が人間を大切にしてくれるなら、私もそうしたい」
「それは……うーん、難しいかも。とにかく次やったら、世界滅ぼすからね?」
「脅迫のレベル高すぎない……?」
なだめすかし、なんとか了承してもらえたものの……照は相当お冠だった。次は
どうやって彼女の暴走を止めればいいのか……次なんて無ければいいのになあ。
後は……学校の方かな。結局その日は一日中事後処理に追われていたから、完全
に無断欠席になってしまった。当然、委員長の三途璃さんは鬼の首を取ったかのよ
うに私を叱る。
「とうとうやったわね、夢路。私があれだけ注意していたのに、遅刻どころか無断
欠席までするなんて、これはあれかしら。むしろ拷問して欲しいっていう意思の表
れ? それともまさか、私に対する挑戦なの?」
「ち、違います! あの、えっと、昨日は照と忍さんが街で暴れて、その後始末を
してまして……」
などという言い訳が、魔神に通じるわけもなく。結局拷問の予定が組まれてしま
った。不幸中の幸い、道具が揃っていないらしく、執行はしばらく先になるらしい
けれど……それまでにどうにかして彼女の手から逃れる術を考えないと。
また一つ、厄介事を背負ってしまった。私のキャパシティーはもうぼろぼろだ。
「今日も今日とて疲れてますねえ、むーちゃんさん。何かありました?」
「さすがに今回ばかりはその呆け方、通用しませんよ……」
三途璃さんの説教を終えた私が席に着くと、いつも通りの笑みを浮かべた忍さん
が、いつも通りに私を嘲る。
何一つ変わった様子はない。まるで照との戦いなんて無かったみたいに。
「……結局、忍さんは照から何か得たんですか?」
核心を突こうと口にした問いに、しかし忍さんはあっけらかんと首を傾げた。
「はて、何の事でしょう」
「え……だって昨日戦ったでしょう?」
「照とは一度戦ってみたかったので。まあ、意味はありませんが」
「……」
意味が無いなんて、あっさりとまあ……
やっぱり昨日のは全部でたらめか。どうやら真面目に考えるだけ無駄らしい。
「何か得たのか……敢えて言うならこれですかねえ」
いかにも腑抜けた感じでそう言って、忍さんが自分のスマホを取り出した。一
体何が映っているかと思いきや……げっ!
「ちょ……なんで撮ってるんですか!? い、いつの間に……?」
「むーちゃんさん、意外と着痩せするタイプだったんですね。ふふふ」
「ふふふじゃなくて! け、消して下さい!」
「嫌です。せっかくの思い出なんですから……あ、待ち受けにしちゃいますね」
「や、やめてくださいっ……!」
私のあられもない姿を収めた写真を見ながら、恍惚と笑う忍さん。
一体どういう嫌がらせなのか……多分、考えても無駄なんだろうなあ。
本当に……忍さんは分からない。




