田舎話
「ほれでねぇ、孫と来たらもーかわいいかわいいで……」
「村井の兄ちゃん、スイカの漬物食うか?」
「隣の組のツジイさんとこの娘さん、やっぱアメリカ行くってねえ。あっこんとこは旦那さんも早くに亡くして、寂しいやろうに……」
同僚2人が村を出て行ってから、2ヶ月。桜もすっかり散り、木々はみずみずしい青に包まれている。
小豆は今日も午前中から町の人たちのところを回る。こうすることで、田舎のじいばあを狙った犯罪や、突然死、孤独死などを防ぐ役割もあるが、じいばあとしてはなかなか会えない孫と同じくらいの年頃の青年と触れ合うことができて嬉しい方が強いだろう。正直、会うたびにお菓子や果物を出してくれるのは(本当はだめなのだが)一人暮らしのこちらとしては買い物の手間が省けて嬉しい。
それにじいばあの噂話や自慢話は、退屈そうに見えて意外と気づかないことに気づかせてくれる。それぞれの家族親類、家の話、地域の自然なんかも、警察として注意しなければならないことに気づくことが結構、あったりする。
「小豆くんも、同僚がいなくなって寂しいのお」
「でも、近いですし、また遊びにきますよ」
「そしたらあれか?銃で撃つやつ、やるんか?」
おじいは手で銃を作って頭に向かって撃つマネをする。サバゲーのことである。
「まぁ、そうですね」
わしもやってみようかのぅ……、じじいがやっても怪我するだけじゃろ、違いねぇ、ははは。ツッコミから笑いが生まれて響いていく。こうやって日々平和な時間が流れていく。田舎とは、そういうところなのだ。
「ところでよぉ、向こうの牧場で牛が襲われたいうんは、聞いとるかい?」
さっきまで親父ギャグを言っていた声色に急に影が入った。
「牛?」
「かわいそうに。まだ見つかってないんじゃけど山側の牧場の、放牧んとこに、血がいっぱい落ちてたんだと」
向こうの牧場とは、この間サバゲーをやっていた山の向かい側にある大きな山の麓にある牧場だ。
「しかも何頭も行方不明なんじゃと」
怖いわぁ、何の仕業なんやろう、うちの鶏やられんといいが。口々に不安がついて出てくる。
牧場で牛が行方不明。放牧をしている牧場では起こり得ることではあると思うが、襲われた、というのは流石に気になる。
小豆はわざとらしく髪の毛を払って、
「こう言う時こそ、僕の出番だね」
と言うと、じいばあの黄色い歓声を浴びながら職場へ戻った。