なかよし3人組
「っし!!」
“最強”の影がガッツポーズをとる。
「うわーそっちか、くっそまーた負けた!」
連絡用のシーバーからも声が聞こえる。
「ってことで、焼肉奢りな、小豆」
「くそやろうがぁ!気づいたのに!」
小豆と呼ばれた男は、起き上がって地団駄踏む。やはり音がした時点で草むらに隠れていればよかったのだ。
「強すぎんだろ……福……」
福と呼ばれた男は、汗を拭きながら右手に持った銃を掲げる。
「それより、クマ出るから早く下山するぞ」
歩き始めた福に小豆は、石を蹴りながら着いていった。
ーーー
「くぅ〜!人のカネで飲む酒はうめえなぁ」
「お前は自腹だぞ」
小豆は生ビールで泡の髭を蓄えている同僚の小岩井に冷たく言い放つ。時刻はとっぷりと夜8時。ゲームが終わると、行きつけの居酒屋で飲むのがルーティーンだ。
村井小豆、結木福大、小岩井葉一。これが牛村警察署の通称、なかよし3人組。
3人とも警察官で、村井と結木は刑事を、小岩井は交番勤務をしている。
非番が重なった日で天気のいい日には、今日みたいにサバイバルゲームをするために山に登る。この辺りにはしっかりした施設がないから、地元の小さな小山でオリジナルのルールを作りやっているのだ。
サバイバルゲームはそれぞれ自前のゲームグッズを持ち合い、電動銃を使って直径7ミリほどのBB弾を当てることで相手をダウンさせられる。今日は集まる時間が遅かったから、小豆1人をターゲットにして、結木と小岩井でダウンさせた方が勝ち、2時間逃げ切ったら小豆の勝ち、というサドンデス戦を行っていた。
「しっかし、福だけじゃなくて俺も飛ばされるとは思わんかったな」
口についたビールの泡を拭き取りながら小岩井が言う。
「しかも、福は天下の警視庁だし、葉一も交番勤務から刑事に昇格だろ?」
人事異動の通達が入ったのは2ヶ月前だった。十年も肩を並べて働いてきて、むしろ今まで離れたことがないという方がラッキーだったのかもしれない。
結木は近年、田舎に不法滞在する外国人の取り締まりを重点的に行い、全国でもトップレベルの検挙率を上げた。それが評価されてか、天下の警視庁から声がかかった。
小岩井は隣の県警に刑事として異動になった。のほほんとしておちゃらけた性格の裏で妙に感が鋭いところがあって、お年寄りの詐欺被害防止に一役買っていたところを県警に買われた。
このグループの中で唯一異動がないのは小豆だけだ。頻繁に住民のもとに通い、優しくてかっこよくてなんでもやってくれるという田舎のじいばあには孫のような存在である小豆は地元住民からの信頼が厚い。思ったより後ろ盾が強かったらしい。
「俺だけだよ、居残りは」
小豆は口を窄めながらビールに口をつける。
「でも、江崎さんも残るって噂だし、この際アピールしちゃえよ〜」
と脇腹を突っついてくる小岩井。
「刑事同士か、お似合いじゃないか」
クールに生ビールを呷る結木。
「う、うるさい。俺はまだ、別に」
と、小豆はからかってくる2人を睨む。
どういう運の回りなのか、結木は既婚者、小岩井は先月婚約を取り付けた。小岩井にいたっては、刑事になったら籍を入れるという約束をしたが、わずか1ヶ月で達成された。つまり、
「未婚なの、お前だけだからな」
そういうことである。
「早くしないと、江崎さん結婚しちゃうかもよ?」
2人はがははと笑う。悔しい、の極みだが、どれも正論で言い返せない。
「いいから!」
恥ずかしさをごまかすべく、生ビールを追加する。
「でも、寂しくなるなあ。研修の時からだから、何年?」
笑いがおさまった小岩井が数え始める。
「10年目かな?」
小豆が言う。あっという間にみんな三十路だ。
「うわーん、俺はな、もっどざんにんでいっじょにやりだがっだのにぃー!!」
酒のせいか、いきなり泣きだした小岩井は結木の腕にしがみつく。結木は冷静に振り払って水を飲ませる。
「ま、言っても西と東に分かれただけだ。非番が重なったらまた来ればいいだけじゃないか」
「そうだね」
「じゃ、じゃあ今度やる時のために、新しくクソ強え銃買っちゃうもんね」
「前みたいにへっぽこ買うなよー」
「わーってら」
数ヶ月前に銃を新調した小岩井が海外製の偽の銃を買ってしまったのを思い出し笑いながら小豆も応じる。
「望むところだ!」
3人のグラスが、がちん、とぶつかった。