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魔物と魔法と夢の力

「魔物が攻めてくるのか?」

「ああ、もうすぐこの街に魔物の大群が来るんだよ」

「魔物の大群か……それは大変だな」

「ああ、でももうすぐ来るといってもあと昼寝するくらいの猶予はある。だからみんなああして……」


「なるほど、わかったぞ、みんなで戦う準備をしているというわけだな」

「いやいや、荷物をまとめて逃げるんだよ。相手は凶暴な化け物だぞ?」

「ははは、冗談だろ。じゃあ、あんたはなんでそんなにのんきにしているんだ」


「そりゃ、わしはもう諦めているからな。わしは長く生きたし、家族もいなければ財産と呼べるような物もないんだ」

「そ、そうか……」


私は絶句した。この老人の思考回路が全く理解できなかったからだ。

やはり異世界だ。常識が違うようだ。

しかし、老人の真剣な表情から嘘ではないことが伝わってきた。

ここは慎重に行動するべきかもしれない。


心なしか空の色も暗くなって来ている気がする。

遠方からは金切り声のような鳥の声も聞こえて来て、いよいよもって不気味さが増してきた。

私も不安になって来た。

魔物というのは本当のことなのかもしれない。


いや、こういう時こそ落ち着くんだ東明あずまあきら

お前はこれまで多くの実験をこなし、その度に大きな成功を収めて来たではないか。

私は焦る気持ちを抑えながら、まずは情報収集に努めることにした。


しかし次の瞬間、そんな決意を嘲笑うかのように私の嗅覚が異常を捉える。

強烈な悪臭。間違いない。これは死の臭いだ。


「うっ、うわあぁあっ!!?な、なんだこの臭いは!ま、まさかゾンビが、ゾンビが襲撃しにきたのか!?」

「おい、大丈夫か爺さん。これは温泉の匂いだよ」


「ハァ、ハァ、ハァ……お、温泉?こんなにも恐ろしい腐った卵みたいな臭いを発生させる温泉があるものなのか……?」


そうだった、温泉があるんだった。思ったよりも私は焦ってしまっているようだ。

私は呼吸を整え、改めて周囲の状況を確認する。


街はまるで大分県のようだった。


「温泉を知らないのか。爺さんはよっぽどの田舎の出身なんだな」

「なんだと……私は都会出身だぞ。東洋のダイアモンドとまで謳われた大都市、名古屋で生まれ育ったのだ」

「ナ、ゴヤ……?聞いたことがないなあ、爺さんはそこで何してたんだ」


「私は科学者だ。色んな研究をしていたぞ、毒を作ったり薬を作ったり、あとは透明になったりとか……」

「へえ~……なんだか魔法使いみたいなことをやってんだな」


「まぁ、そういう言い方もあるかもしれんが、私は魔法ではなく科学の力で透明になったのだ。そこのところ勘違いしないでもらおうか」

「ふむ……よくわからんが凄いな。でも、爺さんはどうして透明になりたいと思ったんだ?」


「それは透明になればなんでも出来るからだ。たとえば若い女のエッチな姿を見たりもできる。これこそまさに夢の力じゃないか」

「はは、確かにそれは夢のある話だな」


「わはは!いやしかしご老人よ、この世界には魔法があるのか?」

「あるも何も当たり前じゃないか。この村だって魔法使いが作ったんだ」

「おお!本当なのか?是非とも見てみたいものだ。しかし、それなら魔法で魔物をやっつければ良いのではないか?」


「いや、無理だよ。魔物は人間よりも魔法に長けているんだ。強い魔物は普通の魔法使い十人が束になっても敵わないくらいにな」

「なるほど……それで逃げようというわけだな」

「そうだ。もうすぐこの街に魔物の大群が来る。だからみんな家財をまとめて逃げる最中というわけだ」


私は腕組みをして考える。


魔物は魔法が使える上に、とても強くて人間では太刀打ちできないらしい。

これは困ったことになった。私は生き残ることは出来るのだろうか。


だが、心配はいらない。

トウメインがあればこの難局を乗り越えることも容易い。

なぜなら透明になれば何だって出来るからだ。


そうだ、トウメインだ。どこにやったかな。

私は藁を巻き付けただけの体中をまさぐる。しかし見つからない。


おかしい。

確かポケットに入れていたはずなのだが。

いやおかしくない。ここに来た時にすっぱだかだったんだから当然だ。

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