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サンデイン

「……お願いです……私の話を……お嬢様……」


老人はどこか申し訳そうな表情で私を一瞥すると、静かに腰を落とし腕を引くとミチェリを迎撃する体勢を取る。


「……すまないな……爺さん。来い、魔女よ。この俺もかつては雷光の指と称えられた魔法使い、お前たちの手口も知っている……」


老人の前腕の周囲に電気のようなものが発生し、猛烈に火花を散らし始める。

魔法とやらについてまったくの無知な私ですら、老人の拳に大きな力が集まっていることがはっきりと感じられた。


だが、それを見るミチェリの目はまるで何も映していないかのように冷たく、そして空虚だった。


「消えて」


老人がどれほどの力を持っていたとしても、その差は埋めようもないほど隔絶しているのだろう。


恐らくミチェリと老人は、月とスッポンどころか、天の川と公衆トイレのなんか丸いやつくらいかけ離れた存在なのだ。

だが、そんなことはきっとお互いわかっているはずだ。私に感じられることがあの二人に分からないわけがない。老人は村や私を守るために死ぬつもりなのだ。


「うわあぁ……ダメだダメだダメだぁあ!やめてくれ~い!その子を傷つけるのは待ってくれ!ご老人、頼む!お願いだ!」


私はただ、地面に這いつくばり、泣き喚いて、震えることしか出来なかった。目の前に転がったトウメインの錠剤が涙で滲んでいる。


何が……何が透明になれば何でも出来るだ。

何が天才科学者だ。何が……。


老人の拳が激しく光を帯びる。

にもかかわらずミチェリは微動だにしない。杖を振り上げることも無ければ、指先一つ動かすことも無い。呪文を唱えるような素ぶりすら見せることはなかった。


それでも力の差は歴然だった。


次の瞬間、閃光と共に老人の上腕が粉々に弾け飛び、私は息を呑む。

溜め込んだ力をミチェリに向けるつもりだったのだろう。だがどういうわけか行き場を失ったエネルギーが暴発を起こし……そんな風に見えた。


「うっ、ふっ、ぐぅおおぉお……!」


痛みに耐えかねたのか老人は苦悶の叫びを漏らして、地面に膝をつくが、それでもミチェリから目を逸らすことはなかった。

ミチェリはそんな彼を見つめたまま、憮然とした表情で呟く。


「……そんな枯れ木のような腕一本を吹き飛ばすのがやっとの力。それで私が殺せると思っているなら……舐められたものね……」

「……ミチェリお嬢様……」


老人の額から大量の脂汗が流れ落ちる。彼は横目で私の様子を確認すると、まるで自分に言い聞かせるように言葉を搾り出す。


「……爺さん、あんたが魔女のことをどれだけ理解しているのか知らないが、あいつらは人の心を操る術に長けている。言葉巧みに惑わし、心を弱らせて、自分の都合の良いように操る。だから、気をつけろ。決して魔女の言葉には耳を傾けてはいけないんだ」

「……ご老人……」

「……爺さん。ここは俺が引き受ける。だから、早く逃げろ……何しろ、あんたが側にいたんじゃ……俺も本気を出せそうにないからな……はは、はははは……」


老人の肘の下からぶすぶすと白い煙が立ち昇っていた。

傷口は凍結しており、ドライアイスに冷やされた水蒸気のようなガスが漂っている。


戦闘など不可能に見えたが、彼は震える足で再び立ち上がると残された腕で構えを取る。しかし、それは諦めていないと言うよりは、もうこれ以上戦えないことを悟った上での悪あがきに思えた。

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