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意味のない音

「……あ、あの、どうかなさいましたか?お身体の具合が……」


「……ぐすっ……ねえ、アキラおじいちゃま」

「はい、なんでしょう」

「……おじいちゃまは異世界から来たんでしょう?私もそっちに行けないの……?」

「え……?」


私は耳を疑った。


「私ね、私もね、私もね、こんな風に……なりたいの……この子たちと会って一緒に歌って踊って……キラキラしたステージの上でみんなにいっぱい応援されたいの……ねえ、お願い……」


ミチェリは涙を流しながら訴えかける。

だが、私は正直者の正太郎、彼女に嘘をつくことはできない。私は彼女の慰めになるような言葉を見つけられなかった。


「……それは、残念ですが、私自身どうやってこの世界に来たのかわからないのです。ですので、どうすればお嬢様をお連れできるのか私にもわかりかねるのです……」

「…………」


ミチェリは俯き、肩を震わせている。

私は自分の無力を呪いながら、彼女が泣き止むまでずっと自分の足元を眺めるしかなかった。


それに……。


私がいた愛知県……いや愛知県だけではない。

世界はとうの昔に壊滅している。


彼女が憧れているアイドル。それを応援するギャラリーたち。

そんなものはあの世界にもはや存在しない。

私は廃墟と化した名古屋でただ一人、カラスウリに話しかけながら透明化の実験を続けていた頭のイカれた老人に過ぎないのだ。


そんな自分に何ができると言うのだろう?

沈黙に耐え切れず、何か言葉を搾り出そうとするが、うまくいかなかった。


しばらくしてミチェリは顔を上げ、涙を拭いながら微笑んでくれた。


「あの……ごめんなさい……私、わがまま言っちゃった!」

「いえ、いいんです。大丈夫ですよ、気になさらないでください!私は天才科学者ですので、もしかしたら元の世界に戻る方法だって見つかるかもしれません。その時は、ぜひ、あなたを招待すると約束します!」


ミチェリの顔から笑みは消えなかった。


「ありがとう。私、待ってるね。アキラおじいちゃまのこと、信じてるね!」

「……ええ、もちろんですとも」


私はそう答えるのが精一杯だった。

なんの保証もない約束、慰めにもならない空虚な希望を口にするのがやっとだなんて、情けなくて泣けて来る。だが、彼女は信じてくれると言ってくれた。

それだけで私は救われたような気持ちになった。


彼女にもっと喜んでほしい。心の底から笑って欲しい。


「……」


……一体、私は何を考えているのだろう。

さっさとトウメインを飲んで逃げればいいものを。だが、なぜか私はそれができなかった。


しかし、ミチェリの次の言葉を聞いた瞬間、私は自分の考えの浅はかさを思い知らされる。


「……アキラおじいちゃま……そのお薬……飲まないの……?」

「ぇえっ、へえっっ!???」


バレていたのか?いつから?どうして?

私はパニックになりながらも必死に言い訳を考える。


恐怖と緊張で喉が締め付けられる。私の鼓動は早鐘のように激しく脈打ち、呼吸は浅くなっていた。

嘘は付けない。私は正直者の正太郎だからだ。


それに、嘘をついてもすぐバレるだろう。そして嘘がバレてしまえば今度こそ殺されてしまうかもしれない。いや、私が死ぬなんてことはどうでもいい。


私が逃げようとしていたことを知れば、彼女はきっと悲しむに違いない。

この子を傷つけたくはない。


「いやぁ、この薬はですね、えーっと、そのぉ……あぁのぉ~、そのぉおおぉ……」


しかし、私の口から出たのは意味のない音ばかり。思考は完全に停止していた。

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