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ベホケアルミ

「あ、ああ……あひぃ……!今ふぐご用ひいたします……」


私はよろめきながら立ち上がると、凍傷で痛む体を引きずり、物陰に隠しておいた黒い箱から道具を探る。

ここからの行動は慎重かつ的確に行わなければ命取りとなる。

もちろん私の作戦はトウメインで透明になってさっさと逃げることだ。


だが、いきなり薬を飲もうとしても失敗するだろう。まずはこいつの警戒を解き、油断させる必要がある。

そのためにもとことん下手に出るべきだ。


「うえへへ……ほえでは……こちらをご覧くらはい、えっとこれはですね、スマホと言います。なんというかこれは……そうですね。色々と出来るんでふが、ぶふへへ。まずは実際に使ってみましょう。ではお嬢様、よろしひですか?」


私が取り出したのはスマホだった。といっても、当然のことだが、この世界の人間が見ても何が何だかわからないだろう。

まずは感覚的にわかりやすいものを見せ、相手に理解してもらうことが重要だ。


「うん、いいよ。やってみせて~、うふふ」

「へへへ、では……お嬢様、こりらをどうぞほ」


私はスマホに保存していたアイドルグループのライブ映像を見せる。

魔女は一瞬、戸惑った表情を浮かべたが、すぐに画面に釘付けとなった。そしてその瞳からは疑念が消え去り、代わりに無邪気な好奇心が宿る。


「えっ!?えっ、えっ、わああ、なにこれ!すごい!綺麗!可愛い!素敵!きゃあああっ!」


私はこの世界のことも魔法のこともまったく知らない。


もしかしたら魔法を使えば、離れた土地と連絡を取り合ったり、あるいは写真やビデオのように物事を記録できるかもしれない。


だが、たとえそうだとしても、目まぐるしく光り輝く映像と電子音、そして踊り狂う派手な衣装の小娘達、これらはこの世界にとって未知であり、異質なもののはずだ。

だからこそ、私はこれを選んだ。


「ぶひひひっ……ひゃひゃはははっ、これが異世界でふ、これらはこも世界には存在しないものでござふまや」


実際、魔女にとっては刺激的なものだったのだろう。彼女は目を輝かせて食い入るように画面を見つめていた。


「ぶふふふ……うはは、ほは、ほほ、ほっ、はは!!」


私は笑いを抑えきれずに高笑いする。

そうだ、もっと夢中になれ!もっともっと……。


「……ねえ、おじいちゃま」

「はい?何でふか?何かわからな……」


突然、私の目の前に白い指先が突き出される。思わず腰を抜かしそうになりながらも、私は必死に平静を装いつつ答えた。


「うふふ、あのね、こっちに来て」

「あ、あひぃ、ひはは……お、お嬢様、失礼しまふ……」


魔女の柔らかそうな頬が間近に迫る。彼女の吐息が顔にかかるほどの距離まで近づくと、私の心拍数は恐怖で一気に跳ね上がった。


「さっきはごめんね」


そう言うと魔女は私の頬を氷の杖で軽く撫でてみせる。冷たく、滑らかな感触が肌の上を滑り、心地良い。


「え?あ、あぁあぁ……あへぇ……」


次の瞬間、体中の痛みが嘘のように引いていた。


……治っている。

膝も腰も、剥がれた皮膚も切り傷も擦り傷も、ついでに霜焼けも水虫も尻の刺し傷も全部。何もかもだ。

まるで時間を巻き戻したかのように傷は塞がり、痛みは消えていた。


「……へ……え???」


「おじいちゃまって、すっごく面白いんだもん。つい調子に乗っちゃって……ごめんなさい」

「あ、あぁあぁ……い、いえ、そんなことはございません。こ、こちらこそ、嘘などついて申し訳ございませんでした……むへ、むへへ」

「あのね、これプレゼントなんでしょ?私が貰っていいんだよね?」

「は、はい!も、もちろんでございます!」


「やったぁ!!ねえ、他にどんな使い方があるの?教えて?」


魔女はいたくご機嫌のようだ。

怪我を治してもらえるとは思わなかったが、どうせただの気まぐれだろう。


気を許してはダメだ。このまま慎重に次のステップに進むとしよう。

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