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猫からトカゲ、そして死体へ

「あなた何……?皺だらけにシミだらけ、まるで汚ならしいお爺ちゃんみたいね」

「……」

「ねえ、あなたもしかして人間だったりする?」


鈴の音を思わせる可憐で透き通った声だが、その言葉は私を激しく動揺させた。


まずい、これは非常にまずい。


このまま素直に『うん、僕は人間だよ』と答えれば命はないだろう。

かといって『いいえ、私は魔物です』と言えば、嘘を咎められ、殺されるかもしれない。となれば残された道はこれしかあるまい。


「み゛ゃお!うびゃお!」

「……」


私は必死で猫語を駆使して鳴いてみた。

すると魔女は不快そうに眉間にしわを寄せる。


「おじいちゃま……あなた何やってるの?そんな気持ち悪い猫ちゃんがいるわけないでしょ?」

「み ゚っ!」


しまった、魔女は猫の言葉を理解しないのか。これでは会話が成立しない。


「フォギィィイィッ!!」


私が返答に窮していると、突然トカゲの一匹が私の背中に飛び乗り、魔女に向かって飛び掛かって行った。


「えーちょっとー?やだぁ~!」


だが、トカゲはそのまま魔女の脇をすり抜けると、何処かに走り去ってしまった。どうやら魔女が恐ろしかったらしい。この女は部下に愛されるタイプではないようだ。


「フギッ!?」

「ジュィィッ!?」


「待ってよぉ!もうっ!」


仲間が逃げたことに驚いたのか、あるいは魔女がいることに気が付いたのか、他の二匹も慌ててその後を追いかけていく。


一匹が逃げていく最中に私の脇腹に蹴りを入れる。なんて奴だ。

しかし、今は文句も言っていられない。


「ああもう!なんでみんな逃げちゃうの?ねえ、おじいちゃま、どうしてだと思う?」

「にゃぅおっ、なぉっ、まおっ、あおっ」


魔女はぷっくりと頬を膨らませながら私を睨み付ける。だが残念なことに今の私は猫ちゃんなので、そんな難しいことを聞かれても答えることはできない。


そして猫になりきることで知能も獣並みに低下した私はありえない結論に至る。

そうだ。私もトカゲのフリをして逃げ出せばいいんだ。


「ほぎっ、ふぉぎぎいいぃぃ!」


そうと決まれば行動は早い。私は地面に手をついた姿勢のまま、犬のように駆け出そうとする。

だが、次の瞬間、私の身体は見えない力によって宙に浮かんでいた。


「ねぇ、教えてくれないなら勝手に答え合わせするけどいいでしょ?」

「み゛ぃっ!」


空中に浮かぶ私の目の前には魔女の顔がある。

いつの間にか彼女は私の真上に移動させられていた。


これが魔法!これが異世界!

一体、どんな力学がこのようなことを可能にするというのか?


「ねえ、あなた何者なの?」

「みけえっ!」


私を拘束している見えない力はどんどん強くなっていく。

このままでは握り潰されてしまう。


いや、いっそ殺してくれ。こんな苦しい思いをするくらいならば、死んだ方がマシだ。そう思った次の瞬間、私は地面にべちんと叩きつけられていた。


女と出会って一分も経たないうちに私は瀕死になっている。

たしかにこんな恐ろしい存在に一般人が何十人と束になったところで敵うはずもない。


家財をまとめて逃げるのが正解だろう。

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