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魔女と秘密の隙間

「フゴォッ!フギーーッ!」


突然、トカゲの一匹がイラついた様子で床を槍で叩くと、他の二匹もそれに続いて奇声を上げ、槍で私の尻の下を指し示す。

どうやら私が手に持っている焼き魚や尻に敷いている野菜を気にしているようだ。


「もしかしてお前ら腹が減ってたのか?ほれっ」


私は焼き魚を連中に向かって投げつける。


「ハアーッ!?」

「フギッ!」

「シュギョアッ!!」


どうやら正解だったようだ。私の狙い通り、三匹のトカゲは一斉に唾液に塗れた焼き魚に殺到すると掴み合いの喧嘩を始めた。


「どわはは!今のうちに逃げるとするか」


私は立ち上がり、その場から逃げ出そうとするが運悪く足を引っ掛けてしまい再び転んでしまう。

さっきから何なんだ。


「ばびっ!」


扉から転げ落ちるように勢いよく地面に叩きつけられてしまった。

背中を強く打ち、一瞬呼吸が出来なくなる。


ああ、苦しい、痛い、息ができない。


「はひっ、はひっ、い、痛い……苦しい……」


仰向けに横たわる私の頭上には異世界の空が広がっていた。

複数の月、昼もなお輝く色とりどりの星。

ああ、綺麗な空だ。こんな状況でなければ見惚れていたに違いない。


「ああっ!!」


一瞬、気を失いかけたその時、私は確かに見た。空を横切る人影を。

それは翼もなく、鳥のように滑空していたわけでもない。重力を無視して、空中に静止し、そのまま滑るように移動していたのだ。


あれは……女か?


ちなみに私は赤ワインか白ワインかも区別がつかないほど目が悪い。しかしこの時ばかりは驚異的な集中力が視力を底上げし、その姿をはっきりと捉えることができた。


それは若い女だった。


それもとびきり愛らしい。

まるで天使のような神々しさと子猫のような可愛らしさを兼ね備えた女だ。

おまけに下半身の肉付きがいい。だがおっぱいは小さい!この点ではカリエンテに軍配が上がるが、それ以外は完全に私の好みだ。


私は目を凝らす。もっとよく見えないだろうか?

だが、次の瞬間、全身の毛が怖気立つ。


女は笑っていた。


愛らしい顔を不気味に歪め、歯を剥き出しにして笑いながら村が破壊される様子を眺めている。私は思わず悲鳴を上げそうになったが、慌てて息を呑む。


なんてことだろう。

あれが魔法使い、いや魔女という存在なのか?


黄緑色の長い髪に星の煌めき思わせるドレスをはためかせ、踊るように空を飛ぶ小さな女。それはこの世のものと思えないほど美しく、そして恐ろしかった。


水車小屋で巨人を見た時とは比較にならない。

心臓が凍りつくような恐怖が体を支配する。左脳も右脳も小脳も全く機能しない。

ただ細胞だけが私に命じている。


あの女には絶対に関わってはいけない、あの女を見てはいけない。


「ひっ、ぃひぃっ!」


私は腰を抜かしたまま後ずさる。

あの化け物から逃げなければ、一刻も早くここから離れなくては。そうだ、さっきの小屋に隠れるんだ。


だが間の悪いことに食事を終えたトカゲの一団が小屋の扉から出て来くるところに鉢合わせてしまった。

トカゲたちは腹を撫で、顎から突き出した二本の牙を小骨でシーハシーハと手入れするなど大変ご満悦の様子だ。


「フギィイッ!?」

「フガーッッ!!!」

「グッ!?クァーックァーッ!」


トカゲは後ろ向きに迫りくる私の汚い尻に困惑し大騒ぎする。


うるさいんだよこのチビども!

魔女に見つかったらどうしてくれるんだ!


私はトカゲの群れを押しのけようと問答無用の後退りを試みる。

だがトカゲも必死だ。悪臭漂う尻をなんとか押し出そうと、野菜の屑を投げつけたり小石をぶつけてきたりと懸命に抵抗する。


「こ、こら、いい加減にしろ!こっちはお前らの相手をしてる場合じゃないんだよ!命がかかってんだぞ!邪魔をするな!」

「ブブキギィッッ!!」


痛い!トカゲの槍が臀部に突き刺さる。

だが負けてなるものか。ここで見つかったら終わりだ、なんとか小屋に避難しなければ。


だが、運命の女神様はこの世界でも無慈悲な裁判官だった。彼女が私の願いを聞き届けてくれることはないのだ。


強い耳鳴りを伴って、頭を締め付けられるような感覚と眩暈が私を襲う。

なんということだ、立ってられない。いや、すでに這いつくばっているのだが、それすらわからないくらい平衡機能に異常をきたしているようだ。


「……」


顔を上げると魔女の姿があった。

彼女は美しい顔に邪悪な笑みを浮かべ、脂汗を浮かべる汚らしい老人を楽しげに見下ろしている。


ロングドレスのスリットからシークレットプレイスを覗くチャンスだったが、あいにくそこまで余裕はなかった。

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