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鉄の体を持つ女

「あー、いいですねー。これいいですねー。すごくいいですねー。へへ、へへへ、へっへっへ」


私はゆっくりと力を込めていく。

すると、カチリという音と共に、するりと剣が抜けた。


「おっほおっ!」


次の瞬間、刀身から真っ赤な蒸気のような煙が立ち上り、私は思わず感嘆の声を上げる。


身体がみるみると熱を帯びていくのを感じる。

全身が燃え上がるように熱い。疲れも痛みもどこかへと消え去り、気分は高揚していく。


なんだこれは!?


すごい、すごいぞ!素晴らしく気持ちいいがいいぞ!


これのどこが呪いなんだ。こんな爽快な気分は今までに味わったことがない。

思考が晴れ渡り、瑞々しいエネルギーがつま先に至る隅々にまで行き渡っていくようだ。


「おい、どうだ?」


「はい!おほは!おほほは!それはもうバッチリでございます!私、正気でございます!正気の正ちゃんでございます!正気の正ちゃん!正気の正ちゃんに清きご一票を!清き、狂気、ビョーキ!あひひひひっ!みんな死ぬんだよ!いひひひっ!ぎゃははっ、ぶち殺しちゃるけえのう!」


「まったくダメだな」


……何を言っているんだ?


私は正気だ、完全に自分をコントロール出来ている。

彼女には理解できないだけなのだ。


「うはっ、うはははひっ、わはひあは」


腕に力を込め、大上段に剣を構える。

ほら、私には意志があるぞ。私はこうやって自分の意志で剣を振ることが出来る。


私は生きている。

私には意思がある。


彼女にわかって欲しい。

彼女ならわかってくれるはずだ。


私は物ではない。


いや、この女はわからなければならない。


この鋼鉄の体には心がある。思い知るべきだ。

私は貴様の所有物ではない。


このまま刃を脳天に叩き込んでやれば物分かりの悪い貴様にもきっと理解できるはずなのだ。


「やれやれ、仕方のない爺さんだ」


カリエンテは小さくため息をついて笑う。

しかし、よく見てみろ。彼女の顔はいつの間にか醜悪な怪物のように変わっている。

なんだこいつは!?殺される!!


「うわぁあああっ!悪魔だあぁああぁっ??!」

「カリエンテだ」


彼女はそう言うと私の腕を掴み取り、私の鼻っ柱を叩き折らんばかりに思い切り殴りつけた。あまりの痛みと衝撃で剣を取り落としてしまう。


「ぎゃぶがぼっ!?」

「ふん、これで少しは目が覚めたか?」


薄れゆく意識の中で彼女が剣を振り上げる姿が見えた。


ああ、殺されるのか……。


まあ、それも仕方ないのかも知れない。怪物に食われるよりはマシだろう。

ではこんな藁に塗れた血生臭い世界からおさらばして、さっさと次の世界に転生だ。


願わくば次の異世界では、例えばだな。

勇者パーティーから追放されるも実は強スキル持ちで、なんやかんやあってのんびりスローライフを送る、そんなのがいいな。


「さあ、次の世界に行くぞ!」


私の願いは聞き届けられたのだろうか……。

その答えを知る術はもはや無い。

しかし、この日、私は別の世界で新たな生を得るのだった。


「おい、アズマーキラよ。いつまでブツブツと一人芝居を続けているつもりだ?」

「……え、えっ?」


パチパチと薪の中の水分が爆ぜる音が聞こえてくる。

周囲にはいつの間にか魚を焼くような香ばしい匂いが広がっていた。


目を開けると焚き火の前に座るカリエンテの姿がある。炎に照らされた彼女の顔は私のよく知る、美しく凛々しいそれへと戻っていた。

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