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その名はトウメイン・エクソダス

私の名前は東明あずまあきらだ。透明ではない。

天才科学者だ。


そんな私は今、異世界にいる。もちろん夢ではない。


夢ならば、私の顔を覗き込む者はもっとこう、この世のものとは思えないような絶世の美女かつ巨乳剣士のはずだからだ。だが今、私を心配そうに見つめているのは白髪の交じった髭面の薄汚い老人なのだ。


「爺さん、あんた大丈夫か?」

「……ああ……なんとかなあ……」


爺さんはお前だろという言葉を飲み込み、上体を起こして、自分の体をまさぐる。

怪我をしている様子は特にない。


「とりあえずあんた服はどうしたんだ?」

「うっ?!」


言われてみれば、確かに全裸だった。

言われなくてもわかるはずだが、それどころではなかったのだ。


「さっきまで、着ていたはずなんだが……」


ついさっきまで私は、飲むと透明になる薬、その名も『トウメイン・エクソダス』を飲み、透明になる実験中だった。

透明になるのはもちろん薬の方ではなく私の方だ。

私はその、飲むと私が透明になる薬、その名も『トウメイン・エクソダス』を飲んで透明になるという実験中だったのだ。


しかし、服とか下着とかは薬を飲むことができない。

わかっていると思うが薬というのは飲むと透明になる薬のことだ。

つまり、服を着たまま飲むと透明になる薬を飲むと、私の体だけが透明になった状態で服を着ていることになるわけだ。


私も自分で言っててわけがわからなくなったので説明が難しいのだが、要するに、だから、その、ほら、ゲームとかでよくあるパンツが空中に浮いているシーン。

あれと同じ現象が起きるのだ。

実はそのようなことにならないように私は元々、全裸で実験していたのだ。つまり、異世界に来た衝撃かなんかで裸になったわけではない。

したがって『さっきまで、着ていた』という発言は嘘だというわけだ。


でも、もういいんだよ。そんなことは……。

それよりも重要なことがあるではないか。トウメイン・エクソダスは飲むと透明になる薬であって、異世界に転生する薬などではないということだ。


おそらく私は実験中、なんらかの要因により異世界に来てしまったのだろう。


そして異世界に来て最初に出会った人物が老人だった。それが運が悪いのか良いのか、それは神のみぞ知るということにしておこう。


とにかく私は今、全裸でいるところを薄汚れた老いぼれに心配されているという状況にある。


「すまん!この辺に服は落ちていたりしないか?できればズボンとか」

「ないよ……でもとりあえずその辺の藁でも巻いてみたらどうだ?」

「ああそうだな……」


藁を体に巻きつけるなんて、原始人みたいじゃないかと思ったが仕方がない。

なんせ今の私は一糸纏わぬ姿なのだから。

自分の体を見てため息をつく。なんて醜い姿だ。


脂肪の詰まった腹は奇妙に膨らみ、顔だってシミとシワだらけ……。

頭皮にはわずかな毛髪がだらしなくへばりつき、ところどころ抜け落ちてしまっている。こんな姿がイヤだからこそ、私は透明になろうとしていたのかもしれないな。


私は自分の体を恨めしく思いながら藁を巻きつける。

すると少しだけマシな見た目になった気がした。


「ところであんたの名前は何て言うんだ?」

東明あずまあきらだよ」


「アズマーキラ?変わった名前だな」

「ああ、名前が変わってるね。まあいい。ところでご老人よ、私のように行き倒れの者が倒れているなんてことはよくあったりするのか?」


「いや、そんなことはないかな。たまに魔物に襲われてる奴がいるくらいで」

「そうなのか……」


私は落胆した。

なぜならば少なくともこの辺りでは、全裸で歩いている女はいないということになるからだ。


しかも魔物、これでここが異世界だというのは確定的になってしまったようだな。

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