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「――いやァ、、こんなことあるもんなんだね」
リビングでテーブルを囲み、来客の話で盛り上がっていた。
「まさか、あの可愛かったけーちゃんがこんなイケメンになるなんて思いもしなかったよ」
「ウチもびっくりしちゃったッ」
「あッ、 ありがとうございます」
けーちゃんは、ソファーに座ってマグカップを手に取り、紅茶に口をつける。
あの後、けーちゃんの服を乾燥機で乾かすついでにシャワーとパパの服を提供した。
最初、彼はさすがにと断ったが、ママがお詫びと説得し、家に招き入れることになったのだった。
ウチも2LのTシャツにショートパンツのラフな格好に着替え、タオルを頭にかぶせている。
けーちゃんとウチは、L字ソファーに座っているが、一人分も離れており、緊張しているのか、こっちを見向きもしなかった。
「落合さんのお母さんも変わらず綺麗で――」
「ちょっとやめてよォ!
もうッ、お世辞も上手くなっちゃってェ!」
ママは気分良く笑みをこぼしている。
「ちなみに、けーちゃん彼女いるの?」
ドキッ――。
ママのさりげない質問に、ウチは、微かに反応してしまう。
「いえ、いません。
欲しいんですけどね」
彼の返答に内心安堵した。
そっか、いないんだ…。
ウチは、自然と上がっていく口角をマグカップで隠した。
「毎年、長期休暇の時にこっちに来てるの?」
「そうですね、今回のGWもおじいちゃんの家でお世話になりますし」
「へェ、そうなんだ。
あッ、けーちゃん、紅茶お代わりする?」
「すいません、いただきます」
けーちゃんに対してすっかりご機嫌なママは、彼のマグカップを手にし、キッチンへと歩いていった。
「すいません、お手洗いお借りしてもいいですか」
「うん、いいよ。
お風呂場の隣だから」
これを機にけーちゃんも立ち上がり、トイレへと向かっていった。
「ねェねェ、最終的に結果オーライだったべ?」
すると、ママがキッチンから先ほどの事故を自画自賛しだした。
「そんなわけないでしょ!
ウチまでかかったし、最悪なんだけどッ!」
「ごめんて、謝ったべよ…」
ふてくされるウチを見て弱気になるママだった。
「でもママ、ナイスアシストしたと思ったべ?」
「…えッ!?」
「気になってんでしょ? けーちゃんのこと」
ドキッとしたウチは、とっさに否定する。
「そッ、そんなんじゃないしッ!」
「分かりやすいよ、あんた」
「ウチ、そんなちょろくないしッ!」
一気に顔が火照っていくのが自分でもわかるほど動揺を隠せなかった。
「まッ、愛娘がようやく恋に芽生え出したところ水をさすようで悪いんだけど――、あの子はやめときなさい」
ママに言葉のナイフを突きつけられ、浮かれていた気分が急速に鎮火したされていく。
「遠距離恋愛なんて絶対に続くわけないんだから、そのくらいわかるでしょ」
夢から強引に現実に戻され、ゆっくりと視線を落とす。
「そんなの、分かってるよ…」
かろうじて聞き取れない程度につぶやく。
ママがリビングに戻ってきては、紅茶をテーブルにそっと置いた。
「難しいと思うけど、友達として接しなさい」
「だからッ、そんなんじゃないしッ!」
強がるウチに対し、軽くため息をする。
そんな分かりきったこと、別に口にしなくたっていいじゃん…。
複雑な気分でいると、リビングにけーちゃんが入ってきた。
「お手洗いありがとうございます」
「いいえ〜」
「お帰りィ」
ママが対応しているうちに、ウチもすぐに切り替えた。
けーちゃんがソファーに座った途端、先ほどまで見向きもしなかった彼から視線を感じた。
「ん? どうしたの?」
「いや、なんか、さっきより元気が無いなと思って」
ドキッ――。
うわ。 勘付かれてる。
「そりゃ、一旦休憩すりゃ空気もクールダウンするべよ」
「そうそうッ」
ママがすぐさフォローしてくれたおかげで疑われずに済んだ。
「もしかして、ウチに気でもあんのォ!?」
「えッ!?」
はぐらかすためとはいえ、冗談交じりの本音を放った。
「いやいやいやッ!! それはないですよッ!!」
けーちゃんに全力で否定され、ウチの何かにヒビが入った。
自ら振った話題で胸を痛めるが、悟られぬために笑みを作り続ける。
ウチ、バカだなァ…。
とっさに出た自分のセリフに正直を驚いたが、少しでも気があるのならばと期待してしまった。
「だよねェッ!! ハハハッ!!」
自分で自分のことを傷つけて、ホント、バカみたい。
でも、これでママの言う通り諦めることが――。
「だって、こんな可愛い子、オレにはもったいないですし」
「ッ!」
彼の何気ないセリフに不意打ちを食らってしまった。
「当然ッ、日頃から女磨き欠かさないからねッ」
ウチは余裕を演じ、動揺を隠した。
けーちゃんが紅茶を含んだそのとき、時計が視界に入った。
「すいません、そろそろおじいちゃんが心配してると思うので、この辺で失礼します」
「ああ、そうなの?」
「はい、ごちそうさまでした」
彼は、ママに会釈してソファーを立った。
乾いた服に着替えたけーちゃんを玄関で見送る。
「今日はありがとうございます。
久しぶりに会えて嬉しかったです」
「こちらこそだよ。
懐かしい話もできたし、また遊ぼうよ」
ウチの背後に立つママにも挨拶を交わし、彼は踵を返して前を向いた。
家から距離が離れていく背中に心臓が騒がしくなる。
何故だろう、落ち着かない。
理由は分かっているが、素直になれない自分がいる。
「けーちゃんッ!!」
葛藤の末、ウチの足は家を飛び出し、けーちゃんを呼び止めた。
「連絡先、交換しよッ!」
「えッ?」
拍子抜けする彼に、ウチはスマホを取り出した。
「連絡先知らなかったら遊べないじゃん」
「あッ、ああ、そうですね…」
けーちゃんは、戸惑いながらもスマホを出してQRコードを表示する。
そのやり取りをママは遠くから眺めてほくそ笑んでいた。
「はいッ、これでOKッ」
登録を済ませ、スマホをポケットにしまうと、忙しなかった胸が一瞬で消え失せた。
「それじゃねッ、けーちゃんッ!」
「はい! それじゃ」
ウチが軽く手を振ると、けいちゃんは会釈して去っていった。
小さくなっていく彼の姿を見送り、ウチは踵を返して家へと戻る。
その時、玄関でママがニヤニヤしながら腕を組み、壁に寄りかかっていた。
「何?」
「べっつにィ? ただ――」
意味深な態度に、ウチは眉をしかめる。
「やっぱ、あんたはアタシの娘だなって思ってね」
「…はッ!? べッ、別にッ、友達として当然じゃんッ!!」
「そうねェ、 友達としてねェ」
ママがからかいながら中へと入っていき、ウチは、バカにされた気分で奥歯をかみしめたのだった。




