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KEEP OUT  作者: 嘉久見 嶺志
2××3/5/2
4/35

: 2p.

慌ただしいHRを終え、授業が始まった。


鈴音は、 空いた席に座り、落ち着いてシャーペンを走らせている。


その際に、隣のナベショーが、彼女のことが気になりすぎて悟られぬようチラ見していると、髪のわずかな隙間からあるものが目に入った。


左耳の縁に、4㎜程の黒ピアスを3つ等間隔につけていたのだ。


大人しそうな外見とのギャップに、ドキッとしたナベショーであった。


「ヤッベ! 可愛いじゃんッ! メガネっ娘じゃんッ!」


一方、廊下側の列では、未来と後ろの森道(モリミチ) (ゲン)が彼女の話題に夢中だった。


玄は、見た目良く、成績優秀な上に生徒会長を務めている。


今回の件も担任から事前に話を聞かされていたため、今日という日を待ち望んでいたようだ。


「ケータ、ケータ!」


「うん?」


ノートを取っているケータに、小声で声をかけてきた。


「転校生が可愛い女子って、めっちゃフラグ立たね!?」


「分かったから、ちょっと落ち着きなさい」


ケータは、気持ちを抑えきれない彼をなだめる。


星 鈴音。


私立聖曙女学院からの転入生。


聖曙女学院といえば、容姿端麗、才色兼備で有能な生徒を輩出している女子校で有名だ。


そんなお嬢様学校から転入してきた理由については、自己紹介の時に詳しく触れられることはなかったが、そこはあまり気にならなかった。


なぜならこの高校は、訳アリな生徒が(・・・・・・・)多く通っているからだ(・・・・・・・・・・)


家庭事情が複雑な者━━。


素行に問題がある者━━。


学力に難がある者━━━。


様々な若者がこの高校に集まっているため、何も不思議ではない。


あの時、彼女の眼鏡の奥には、ひどく充血した眼とクマがあり、疲労困憊の印象を受けた。


きっと彼女にも何か事情があるのだろう。


あまり詮索しないようにしよう。


ケータは、黒板を眺めながらそう思った。


「なァ、ケータ」


「ん?」


先程から玄にしつこく声をかけられるので、仕方なく未来達の方へ姿勢を向ける。


「ケータってさァ、エロゲーの主人公キャラだよな」


「…いきなり何言ってんの?」


ケータは、一瞬固まってしまった。


「だってねェ、だいたいエロゲーの主人公って、イケメンで、優しくて、運動できて、頭もまあまあ良くて、たまに気が利いて、鈍感で、トラブルに巻き込まれやすいじゃん?」


「あ~、確かにね」


「途中からマイナスなんだけど!?」


持ち上げられといて、後半落とされた気分になった。


「腐女子にモテるよ、絶対」


「腐女子って…」


「女子のオタクってことだよ。

『ご主人様』って」


「…あ、そう」


玄の裏声に軽く引いてしまう。


「まあ、要するに━━」


玄は、意味深にウインクしながら、窓際の方へ親指を向ける。


ケータは理解が追いつかず、指し示す方へ素直に視線を送る。


玄と未来のニヤけ面を何度も見返し、ようやく言わんとしていることに気づく。


「いやいやいやいや!? 何考えて━━」


パシッ。


「痛ッ」


すると、ケータの頭に志保がノートで叩いてきた。


「何?」


志保は、顔をしかめながら、ノートに記したメモを見せる。


ちゃんと授業を受けなよ!


「何で俺だけ━━ぶッ!」


不服なケータに、再度ノートで叩く。


「わかりましたよ…」


志保の説教をしぶしぶ受け入れたケータだった。




休み時間になり、鈴音に興味を持つ生徒たちが席を取り囲んだ。


曙女(アケジョ)って、挨拶する時“ごきげんよう”って言うんでしょ!?」


「そう」


「毎日お祈りするんでしょ!?」


「そう」


「転入試験ってどんな感じだった!?」


「面倒だった」


スマホいじりながら、投げかけてくる質問を淡々と返答していく。


「いやー、もうびっくりしたし。

曙女(アケジョ)って身だしなみとか厳しいイメージがあったからさ。

ピアスってOKなんッ!? て、思っちゃったわ」


ケータがトイレに入ってる間、ナベショーが彼の席に座り、未来達に話していた。


「一部がそうなんじゃね?

どこの高校に行っても、そういう人達はいるってことだよ」


「マジかァ、女子高ってもっとおしとやかなイメージがあったわ」


「アニメとかそんなん多いからね」


ナベショーが幻滅していると、ちょうどケータが帰ってきた。


「ケータ」


未来は、ケータの姿を見ては、再度話を振る。


「行っちゃおう」


「まだ言ってんの!?」


親指で人だかりを指していたため、すぐに察した。


「ホント、オメェはイケメンの無駄遣いしてんな」


ナベショーが頬杖をつきながら、机によっかかるケータにつぶやく。


「そんなこと言ったって…。

皆、俺が女運ないの知って━━」


すると、鈴音が席を立った。


さすがに鬱陶しくなったのか、早足で出口を目指す。


しかし、ポケットからスマホを落としてしまい、それを見かけたケータが、すかさず拾いに行く。


「あの…」


「ッ!」


とまどいながらも声をかけ、鈴音を呼び止めた。


「こッ、コレ…」


ぎこちなくスマホを差し出すケータに、手を伸ばす。


「ありが━━ッ!?」


スマホを受け取る際、彼の指に触れた途端、自身の内なる何かがざわつき始めた。


不気味に這いずり出てくる感覚が伝わり、強引に彼の手からスマホをとっては、すぐにその場を立ち去った。


残されたケータは、呆然と突っ立っていると、志保がスマホを取り出し、ある文章を打ち込んで彼に見せた。


『変な目で見ないの! ムッツリ!!』


「ムッツリじゃねェし!?」


我に帰ったケータだった。




廊下に出た鈴音は、トイレに駆け込み、便座に座りながら丸くなっていた。


今までこんなことなかったのに…。


普段だったら、こもっているのになんで!?


体の奥に潜っている“モノ”は、自分の身が危うくなった場面の時のみ暴れ出すのだが、今回は違った。


男性に対して、無意識に恐怖を覚えたから!?


いやッ! それだったら、さっき私の周りに男子もいたし…。


激しく動揺している中、原因を探っていると、ある憶測にたどり着いた。


あの人を(・・・・)危険だと感じた(・・・・・・・)、から…!?


もしそうだとすると、あの人は一体…!?


狭い個室で息をゆっくり整える中、高鳴る鼓動と獣の猛声が、静寂の空間を支配したのだった。





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