闘犬
「暴力でしか勝ち取れない未来がある。」
今も世界では、大規模なモノ 小規模なモノ含めて
様々な戦争が起こっている。
分断、レッテル貼り、差別発言者を社会から追放する差別活動
インターネットという、デジタル世界は
より、人の凶暴性と悪意を先鋭的に可視化した。
ネットを見れば、コイツとは一生分かり合えないだろうな… という奴が一瞬で10人は見つかる。
ぶん殴りたい奴は山程いる
しかし、殴れば捕まり、晒される。
そもそも、自分の拳はそんなに強くない
そんな奴らが、言葉で殴り合う
言葉はおもしろい
便所の落書きだ、口だけだ と、わかってはいても
それは人によっては、ナイフのように突き刺さり
時には爆弾のような破壊力を生み出す。
ネット弁慶なんて皮肉の言葉があったが
ネットの世界の強さは、そのままリアルで影響力や金として
本当の力を持ち始めた。
だが、どんなにネットが普及 発達しても
突発的に襲い来る圧倒的暴力の前では_
無力なのだ
「ゲホッ!!!おふっ!」
腹に膝を入れられ地面に転がる
俺たち1年の何人かは、先輩方の”ありがたいご指導”という
有難い挨拶を頂戴していた。
一列に並べられ、殴られたり、蹴られたり、ぶん投げられたりする
地獄のようだが、まるで工場の流れ作業のような正確で精密な一連の動きであった
「よしっ!次回の新入生歓迎会が楽しみだ!!」
この先輩たちのリーダー格であろう人が、ニヤニヤ嬉しそうに笑いながら そう言った
一体、何が楽しいんだ…?
「ぐはっがっ…」
同じクラスメイトが唇を切って血を流しながら、こちらに話しかける。
「あの人ら、2年も 去年に同じような事されてるのさ…はぁ」
やり返せるようになったから、殴る
その悲しい連鎖が、強固でキツイ伝統行事を作り上げていた。
伝統を重んじる事は賛成だが、もっと優しく気持ちよい事がいい…
そうだ、伝統といえば
今日は、前に乱入騒ぎで延期になった
再入学式の日だった。
「一同ッ!!!!! 起立!!!!!! 礼ッ!!!!!!! 着席ッ!!!!!!!!」
応援団らしき人々が壇上を陣取り、睨みと号令をかける
「校長先生はお忙しい為、不在であるッ!!!!!! 割愛!!!!!!!!!」
校長先生の長い挨拶がなくなってしまった
無いなら無いで寂しいものである。
全国一律で、学校中から秩序が無くなり 校長先生たちの忙しさは3倍になったと聞いた事がある。
後ろの方に、保護者席は無かった
代わりに警察が既に待機している
安全面を考えての警備だ
「それでは!!!!先輩方が校歌を合唱して下さる!!!!!!! 拝聴ッ!!!!!!!」
おそらく、比較的マジメなのであろう先輩方が起立した
この暴力高校で生き残り、まじめに合唱の練習をして下さった人種なのであろう
これは、しっかり聴きたいモノだ
と、その時だった
バーーーーーンと、物凄い音で扉が開き
ゾロゾロと、この学校の制服を極悪に改造した怖い人達が入って来た
前回の乱入騒ぎの倍の人数がいる
「警察も待機してるのに、マジかよ…」
警察はすぐさま、動き出し取り囲もうとする
「お待ちください…」
壇上にある、偉い人達が座っているスペースに居た 若い男がマイクで静止した
「警察の方々はしばらくお待ちください、前回に続き今回も我が校の問題でお手間を取らせるのは恥ですので」
既に、ここに待機してる時点で手間は取らせてると思うが
しかし、この男 イケメンである。
我が校の数少ない女子生徒も、なんだか聞き惚れてる様に感じる…
「ふん、学校の犬が…」
入って来た怖い人達の、先頭の人が呟いた
コソコソ「あの人が、ウチの生徒会長だよ…」
さっき、共に先輩にぶっ飛ばされて唇を切っていた奴が教えてくれた
「生徒会…」
学校が乱れ、不良の巣窟になろうとも
まじめに学びを得ようとする学生もいる。
そんな中で、生徒会が学校側の支援も受けて 権力を拡大
学校の秩序を守ろうとする組織として確立するケースが出て来た
『生徒会武力執行機動隊』
番犬にして、”闘犬”と恐れられる者達である。