#8
「私はそれで良いですよ」
「俺も大丈夫です。じゃあ、陽葵。俺のカードを引いてくれ」
陽葵が蓮の手札から一枚選択して引くと、
「・・・・・・っ⁉」
いきなりジョーカーを引いてしまった。さっきのアイコンタクトはなんだったのかと、陽葵は蓮を睨む。睨まれた蓮は、陽葵の態度に困惑しながらマヤの手札を引く。
「なんだよ~、睨むなよ。ウインクしたり睨んだり、忙しいなぁ。おっ、揃った」
「あらら、ババ引いちゃったのね、お嬢さん。顔に出てるわよ?」
「アハハ~、何の事ですか~?」
マヤの言葉で図星を突かれて、思わず一瞬目が泳ぐか、それを誤魔化すように笑ってとぼけた。しかし、誰が見てもまる分かりだ。陽葵はポーカーフェイスが苦手らしい。
「あら、お嬢さんありがと。揃ったわ」
陽葵が誤魔化している間に、スッと彼女の手札を引いて、揃ったカードを捨てるマヤ。
「ほら、次は陽葵だぞ」
「わ、わかってるわよ。あ、揃った」
陽葵がカードを捨てる。これで一巡した。現在の手札はマヤが六枚、ババ無し。陽葵が六枚でババ有り、蓮が五枚でババ無しとなっている。
それから再び順繰りに手札を取る。
「あらやだ~ん、ババが来ちゃったわぁ~ん」
マヤにジョーカーが回ってきた。マヤは敢えて言葉に出して、ジョーカーが手の内にある事を宣言した。
「ヤッター、やっとババから解放された~!」
ポーカーフェイスが苦手な陽葵からカードを引くのだから、逆を言えば自分の手の内も明かしているのと同じだからだ。宣言はするが、表情は崩さないマヤ。
それからまた妙な緊張感の中、カードの交換が続いた。しかし、三人の手札の枚数はうまくいけばあと一巡で終わる枚数になっていた。次に引くのは蓮。マヤの二枚のカードを睨む。
(このターンでうまくいけばタダ! 右か、左か・・・・・・・・・どっちだ?)
(ウフフ、面白くなってきたじゃな~い。でもこの子・・・・・・迷う姿も可愛いわねぇ)
(どっちなんだ・・・・・・右、と見せかけて左か? いやいや、左と見せかけての右からの左からの右。ん? 右? 右ってどっちだ? えーっと、皿を持つのが左で、右は・・・・・・)
軽くゲシュタルト崩壊を起こし始める程に迷う蓮の額には汗が滲み、それがツーっと頬に伝う。心なしか少しやつれて見える。
「ウフフフフ、迷ってるわねぇ~・・・・・・あら、お兄さん、ちょっと老けた? ほらほら~、早く彼女にカッコイイとこ見せてあげなさいよ~?」