#5
「うわぁ、いっぱいあって迷う~」
「なるほど、カレーをベースに使った料理だからカレー料理専門店なんだ」
「ウフフ、そうよ~。ところでお二人さん、日本から来たの?」
メニューに載っている品数の多さに、どれにしようか悩む二人にマヤが気さくに話し掛ける。彼は見た目こそスキンヘッドと整えた顎髭の厳つい海外軍人といった風貌だが、ピンクのフリフリ前掛けエプロンを着けた姿と女性口調でかなり印象が柔らかくなっていた。
「そうなんですよー。彼氏の蓮と一緒に地中海旅行しようって計画して、それで大学の休みを利用して来たんです。ところで、店主さんも日本語お上手ですね!」
「あら~、学生さんなのね! 道理でお肌ピチピチで可愛いなと思ったのよ~! あとアタシの事はママって呼んでね~?」
そう言ってマヤは陽葵の手を指さす。陽葵が嬉しそうに照れ笑いをしている間、マヤは蓮の鎖骨から唇まで、ねっとりとした視線を送る。
「・・・・・・なんだか視線を感じる」
舐めるようなマヤの視線を感じ、蓮がマヤの方に目を向けると彼と目が合った。その直後にマヤが蓮にウインクを飛ばし、ゾワッとしてメニューに再び目を向ける。
「ええっと、ママさんって、ハーフの方なんですか?」
「そうなのよ、日系三世ってヤツね。さっきお兄さんがボロボロにやられちゃったそこのディーラーが、アタシとそこのミシェルちゃんのおじいちゃんで、大和博さん」
マヤが博とミシェルに視線を向ける。
「大和・・・・・・あっ、だからお店の名前も日本語で『やまと』なんですね。じゃあ元々このお店って、おじいさんのお店なんですか?」
「大和はアタシとミシェルちゃんの苗字でもあってね。ちなみにアタシ、下から読んでもヤマトマヤなのよ。ってやだ、話逸れちゃったわね。お店はそこの博さんから引き継いだのよ」
陽葵がカジノスペースの方に視線を向けると、博がニッコリ微笑んでくれていた。
「それで、そこで動き回ってる従妹のミシェルちゃんがね、小っちゃい頃からマヤ姉ちゃんと一緒にお店やる~って言ってて」
「それで私も学校で調理師免許取って、このお店で働いてるんですよ~」
陽葵の問い掛けにマヤが答えている途中で、ミシェルが話に割り込んだ。提供する料理を取りに来たついでだったようで、それだけ話してテーブル席の方に料理を運びに行った。
「アタシがお店継いでから、博さんは前線を退いて、ポーカーの趣味も兼ねてこのお店を手伝ってくれてるのよ。ところでお二人は注文決まったのかしら?」
マヤとのおしゃべりの間に、二人は何を注文するか決めたようで、マヤに注文を頼む。
「私、このキーマカルボナーラお願いします」
「ええっと、俺はカレーで」