#2
二人が目にした光景と店内に広がる香辛料の香りに、蓮と陽葵の脳はパニックを起こした。一旦店の外に出て、もう一度看板を確認しようと、蓮が店のドアに手をかける。
「チャオー、いらっしゃいませ! お二人ですかー?」
二人の背後から明るく元気な声が聞こえてきた。「えっ?」と思って振り向くと、そこには声の雰囲気をそのまま体現したかのような、明るい表情の二十歳くらいの女性がエプロンを着けて立っていた。ラテン系のハーフと思われる彼女が、二人にそのまま接客を続ける。
「ごめんなさい、今ちょうど満席です。一人1(ワン)ドリンク制で、ドリンクを飲みながら、あちらのミニゲームでお待ちになること出来ますよー?」
彼女が奥のカジノスペースを指す。老人ディーラーが二人にニコリと微笑んだ。
「あの、ここってカレー屋さんですよね?」
「そうですよ、マヤ姉ちゃんの作るカレーはホント絶品ですよ!」
そう言うと彼女は二人にカードを渡し、奥に案内する。カードを受け取った二人は彼女の後に続いた。案内されている途中、二人が店内を見渡す。入口を入って右側には四人掛けのテーブル席が三つあり、そこに座る客が汗を掻きながらパスタやピザ、グラタンを食べている。
「カレー屋って書いてたけど、色んなメニューがあるんだね」
蓮が陽葵と話していると、反対側、つまり二人の左側から、
「ママ、これ辛いよ!」
「クッ、アァァァァァ!」
という声が聞こえてきた。どうやら左側にも席があるらしい。会話から察するに、ママと呼ばれる女店主がいるカウンター席があるのだろう。二人が声のする方に顔を向けた。
「あらや~ね。王子様くらいで根をあげちゃダメよぉ? あ、お客さん? いらっしゃ~い」
そこには四席のカウンター席があり、そこに座る客が美味しそうにカレーを食べていたが、結構辛いらしく、店主と思われるスキンヘッドの男性に悶えているところを窘められていた。
「え? ママ・・・・・・?」
蓮と陽葵は筋肉質で体格の良い女性口調の店主を見ながら、困惑した表情でポーカーテーブルの席につく。柔らかく温和な表情のディーラーが二人を丁寧に迎える。
「いらっしゃいませ。お飲み物はいかが致しましょうか?」
そう言って、ディーラーがテーブルの上で、二人の前にドリンクメニューを広げた。
「当店の料理はドリンクも含めて全て手作りで無添加となっております」
「全部手作り⁉ え~、すごーい! じゃあ私、マンゴーラッシーお願いします。蓮は?」
「そうだなぁ、俺は普通のラッシーにしようかな」
「かしこまりました。少々お待ち下さい。あぁ、そうでした。先程の女性から受け取ったカードを拝見しても宜しいでしょうか?」
二人はディーラーにカードを見せると、彼は手元のスマホ端末を操作し、カードナンバーとドリンクを打ち込んで送信した。