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彼女の 99+1 日  作者: 玉庭ひとり
第一章
6/7

006 10/11 Tue

 DDD の新作 D4 が 0 時に発売された今日、日本中の学生に D4 をしろと天が言っているかの如く猛烈な台風が列島を直撃し、当然俺も華も休校になった。つい先日の体育祭を直撃しなかったのは幸いと言う他ない。

 華は昨日夕方の時点で「どうせ明日は休みになるから一日中ゲーム!」と高らかに宣言していた通り、日が変わった瞬間に D4 をダウンロードしていつもなら家を出る今頃までずっとプレイしている。何故それを俺が把握しているかと言うと、俺も華に付き合って徹夜しているから。


 Dive into the Dragons' Dungeon の新作 Dive into the Dead Dragons' Dungeon は、DDDD だと長いので発売前から D4 の略称が浸透している。今作はドラゴンゾンビを中心としたストーリーになっていて、けれどいざ PvP となるとその辺りは関係無いのでプレイヤー側としては職業・武器・スキルが拡充されたことが重要だ。

 流石に普通にやって 8 時間やそこらで攻略可能な薄さなわけもなく俺は謎解き系のクエストに手間取りつつ進めているが、妹様はそんな俺を尻目に既にラスボス戦に到達している。華のストーリーの進め方は攻略サイトに情報を流す廃人ほど早くないものの、後追いしている俺が結局辿り着く最短ルートを持ち前の嗅覚で探り当て続けていて、純粋に凄いと思う。

 正直俺は 8 時間もぶっ続けでゲームをすること自体がまず辛い。


 時折突風がガタガタと窓を揺らし、バラバラと雨粒の打ち付ける音が部屋に流れ込むけれど、華の耳にはテレビから流れるエフェクト音しか聞こえていない様に思える。

 携帯型ハード用に作られた今作もテレビと繋げられるので、華はテレビで、俺は手元の小さい画面でプレイしている。「おにいちゃんも私のプレイング見た方が早く進めるでしょ?」と日が変わるのを待ちながら言われて、全くその通りなのでこの体制になったわけだが、むしろ俺はリビングや俺の部屋でやれば良かったのでは? と思わなくもない。まぁこいつが隣でやってるからこそ俺もぶっ続けでやれているんだけど。


「流石にちょっと疲れた。俺、寝てきて良い?」

「うん、どうぞ! 私はコイツ倒して待ってるね!」


 俺も妹も昨夜は早くに寝て 0 時前に起きた。3 時間ほどの睡眠による俺の体力の充電は尽きかけている。すまんな妹よ、俺は昼まで寝る───




 12 時過ぎに起きて華の部屋に戻ると、華は既にオンライン対戦に移っていた。D4 も DDD 同様に最低限の装備さえあれば対戦方式次第ですぐオンライン対戦もできる。もちろん世界ランカーを目指すほどとなるとフル装備前提なので話が違うようだけど。


「もう対戦してるのか・・・地域戦?」

「うん。」


 地域戦というのはローカル地域で対戦相手を探すもので、実際には通信速度差は世界のどこだろうと殆ど無視できるから地域戦の選択は気分の問題と言える。

 華は前と同じハンドルネームの hana3da!yo! を使っている。一方の対戦相手は lalalander で、何となく見覚えが無くもない。


「相手、もしかして DDD でも戦ってた?」

「たまにね。めっちゃ強いし癖も似てるから同じ人だと思う。」

「そうなんだ。というか、そんな弱装備でも相手のこと分かるんだ。」

「装備は関係ないよ。強いから分かるの。弱いと分かんない。」

「そう・・・。」


 徹夜のせいか目の下にクマを作った妹はいつものテンションをどこかに置き忘れたようで、若干怖い。


「あ、あ・・・あぁ・・・。もう。」


 二本先取の三本勝負に決着が着いた。俺の目には相手の方が若干強いように見えたけれど、華としては実力が近いからこそ悔しいのかもしれない。


「・・・もう 5 連敗目。げんなりしてくる。」


 え、5 連敗?


「そんなにやってたの? この lalalander って人と?」

「うん。むしろ他に対戦に上がってる人で、マトモな人いないもの。」


 なるほど確かに華同様爆速で攻略してそのまま PvP にまで精神を突っ込んだ狂人は早々いないだろう。ならばこそ地域指定無しでやれば良いのにと思うのは、素人考えで無粋なのかもしれない。



 その後俺も夜になってようやくラスボスを倒した。華はと言うと顔色の悪さから母さんが徹夜でのゲームを察したらしく、夕方には強制的に就寝を言い渡されていた。

 タスクやジョーは DDD をやってなかったし、周りで DDD のことを大っぴらに話しているクラスメイトもいないから、D4 でも俺はソロか妹のサンドバッグになりそうだ。



「朔太郎、華の勉強の邪魔しちゃダメよ?」

「違う違う、俺が華に付き合ってるの。」


 両親と夕食を食べながら母さんの言葉に訂正を入れる。


「それは分かってるけど、あなたが構うせいで華も調子に乗ってるんじゃないかと思うのよね。」

「そう? でも成績はずっと良いままなんでしょ?」

「それはそうだけど・・・。」


 両親と華は華の中学受験に関して成績次第で他は自由にしていいと約束しているので、母さんも今日みたいな日があってもゲームをしていること自体をキツく指摘したりはしない。多分俺の時は俺が部活も遊びもすっぱりやめて勉強していたから、遊びながら上手くやっている華のことが成績とは別に心配なんだと思う。


「まぁ、あいつは俺より優秀だし、問題ないでしょ。」

「それはそうかもしれないけど。」


 母さんの無慈悲な相槌に父さんもうんうんと頷いている。何とも切ない気分が湧くが、同じ中学に通っていた手前成績はダイレクトに俺と妹の比較材料になるわけで、実際妹はご優秀なので仕方ない。


「ともかく、あんまり甘やかし過ぎないのよ?」

「はいはい。」


 俺よりも父さんと母さんの方が華には甘いと思うけどねと思いながら、俺はテレビが台風の終わりを告げるのを聞いていた。


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