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彼女の 99+1 日  作者: 玉庭ひとり
第一章
3/7

003 09/17 Sat

 土曜は大抵部活があって、今日のように試合の日もたまにある。大会は春か冬だから二学期の試合は全部練習試合なんだけど、俺は大会だからどうこうと意識しない方なので全部まとめて単に「試合の日」と認識している。

 部活の強さが何に影響され規定されるのかは分からないが、毎日練習のある扇高校サッカー部は対外的に見て弱い方ではない。かと言って強豪校でもないけれど、試合はどことやっても接戦になることが多い。

 スポーツ推薦のあるような所とは学区が違うから大会では滅多に当たらないとか、似通った実力の高校と顧問の先生が練習試合を組んでいるとか、俺が知らないだけで何かしら理由があるんだろう。



「ジョーは相変わらず冴えてたな。」

「そうかな?」

「大門先輩が決めた時のアシスト、エグかったよ。なぁ、タスク?」

「おう。流石 "精密" って感じだった。」


 試合が終わり着替えた後、解散した俺たちはいつものように一緒に駅に向かっている。

 3 学年 40 人ちょっとの部員の中、二年生の一軍レギュラーは俺とタスクとジョーだけで、俺達はたまたまクラスも一緒なので仲が良い。俺は右サイドバック、タスクは右フォワード、ジョーは司令塔。


「大門先輩って攻めて欲しい時に攻めてくれるから、パスの出し甲斐があるんだよね。」

「え、俺は?」

「タスクはちゃんと決めて欲しい時に決めてくれる感じかな。」


 受け取り方に依っては先輩が攻め急ぎ過ぎとも取れるけれど、ジョーはツッコミを入れても尽く躱すから些細なことは気にしないでおく。俺としては大門先輩は無理矢理にでも攻めたがる癖があると思っている。


「それにしても小宮は相変わらず凄かったな。ジョーも動きやすかったんじゃない?」

「そうだね。ザ・オールラウンダーって感じで心強いよ。」

「俺らも左側だったらもっと関われるんだけどな・・・なぁ、サク。」


 タスクがレギュラー唯一の一年生小宮について触れる。小宮はガタイは大したことないけれど、場面の俯瞰能力とスタミナとボールコントロールが突出していて、アイツなら大丈夫感が半端じゃない。本人は腰が低くて丁寧な性格なので先輩ウケも良い。

 俺もタスクもポジションが右だから、左ウィングの小宮あたりにボールがある時は割と余裕を持って各選手を見れる。



 適当に感想を交わしているうちに駅に着いた。

 タスクとジョーの乗り場は俺と反対側だから、階段で二人と別れる。


「じゃあな。」

「おう、お疲れ。」

「お疲れ〜。」


 今日は俺も中々良い動きが出来たし相応に疲れたから良く寝れそうだな、なんて思いながらホームの定位置へ歩いていると、見知った顔があった。

 声をかけようか一瞬迷って、体のだるさが気持ちの抑制を緩くしていたせいだと思うけれど、結局声をかけた。多分普段なら向こうがこっちに気付かない限りスルーしている。


「井瀬さん。部活だったの?」


 スッと俺の方に首を向けた井瀬さんはキョトンとして見えて、声をかけたのは失敗だったかなと思う。錯覚かもしれないけれど「話しかけてくるのはイイけど別に私と君は話すことないよね?」的な雰囲気が表情に表れているように感じたから。


「・・・今日はたまたま。昨日神社で会ったでしょ? その続き。」

「あぁ。昨日、ね。」


 そう言われてランニング中に見た井瀬さんの横顔が脳裏をよぎる。けれどその時井瀬さんに感じた何とも言えない惹かれる感じは、駅の白々しい蛍光灯の下では不思議と欠片も見出せない。


「何の絵?」

「えっと、神社の狛犬?」

「何で疑問系なの。」

「何となく?」


 乾いた苦笑いを返されてしまう。聞かない方が良かったのかもしれないけれど、美術部の活動だとか絵を描く人の心情なんて全然分からないからどうしようもない。


 実際に言われた訳じゃないけれど、脳内設定の井瀬さんが言ったように他に話題も無いので会話が終わる。やっぱり話しかけなければ良かったなと思って時間通りにしか来るはずのない電車が早く来ることを願っていると、思いがけず井瀬さんから話題を振ってきた。


「弥山君、足速いの?」

「そこそこだけど。一応レギュラーだし。」

「神社までの順番、結構早かったよね。」


 短距離じゃなくて長距離のことを聞かれたらしいと気付く。部活のマラソンは一桁番でゴールするけれど、40 人しかいない中なので取り立てて速いとは思わない。レギュラーだとかわざわざ言って、自慢げに思われたかもしれない。


 二十秒くらいの沈黙。まだ電車は来ない。


「・・・ねぇ、弥山君って犬好き? それか犬に似てるって言われたりしない?」


 何だかよくわからない切り口で話題が変えられた。


「特に無いかな。敢えて言えば妹は小型犬っぽくなくもない、かも。」

「そうなんだ。」


 何を知りたくてそんなことを急に聞かれたんだろうと思っているうちに電車が来た。座席はポツポツと空いていて俺と井瀬さんは離れて座ったので、それっきり井瀬さんとはさよならになった。




「おにいちゃんお帰り! ヤれる?」


 玄関を開けて早々華に DDD のお誘いを受ける。いつも土曜は長めに相手しているが、今日は流石に試合で疲れた。まぁ、少しはヤるんだけど。


「ちょっと待ってな。行くから。」

「流石おにいちゃん!」


 そのまま U ターンして部屋に戻ろうとする華を引き留めて聞いてみる。


「なぁ、お前は犬っぽいとか言われたことあるか?」


 華はジト目なのにニンマリして見える器用な顔芸をしつつ振り向いた。


「・・・おにいちゃん、誰に言われたの?」

「え、別に。」


 ・・・何でこいつ俺が同じことを誰かに聞かれたと思ったんだ? 鋭いな。いや、適当に言ってみただけか? 字面だけ取り出してみれば華の返答は飛躍しているはずと思うが。


「あーあ、私もそろそろおにいちゃん離れかぁ。ツマンナイなぁ!」

「何言ってんだお前。いいから戻ってろ。すぐ行くから。」

「はーい、了解であります! あ、別に犬っぽいとか言われたことは無いよ。」

「おう、そうか。」



 別に井瀬のことは何でもない。実際、ホームで井瀬と話す俺の心境は単にクラスメイト相手のそれだったから。


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