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期間限定 数量限定  作者: 喜多 無来舞沙
第1章
8/24

松、竹、梅

 大学生の時、4年間ラブホテルで深夜に清掃のバイトをしていた。非日常的で楽しい仕事だった。そこの社長がぶっ飛んだ人で、10件程のラブホテルを経営していて、独身でお金は有り余っている。そして趣味がサバイバル。サバイバルがしたいがために、無人島を購入。自家用クルーザーで島に行き、2、3週間自給自足のサバイバルを楽しんでいる。夏休みにバイト仲間と1週間、社長について行ったことがあった。井戸があるので飲み水には困らない。食料は魚を釣る、野草やキノコ、そこそこ大きな畑もあった。携帯は繋がらないが緊急事態の時はGPS無線で助けを呼べるらしい。1週間だったがあっという間で、凄く貴重で楽しい時間だった。

「というわけで、地図にも載っていないその島なら、半年間自給自足で過ごせれば、アイツらに見つかる事はないだろ。」

「日焼け止め買っておこう。」

「社長の許可が出ればいいんだが。」

「パラソルの大きさはどれくらいが良いだろう?」

「中村、君は一体何の心配をしてるんだ?」

「俺は焼きたくない派なんだ。」

俺がこんなにも真剣に逃げ切る方法を考えてるというのに、まったく馬鹿らしい。

「着いた。行くぞ、そのカツラは外していけよ。」

「えっ、何故?」

「当然だろ、一緒に居る俺が変な風に思われるだろ。」

「俺と君は全くの無関係だと言えばいいだろ。」

「いちいちそんなこと言うと余計に怪しいじゃんないか。変装の必要も無いのに何で脱がないんだ?」

「そうだ、変装の必要が無い。だから脱ぐ。」

不満満々でカツラを脱ぐ中村をほったらかして、俺はホテル【ゴルード】に入った。ロビーからフロントに電話をかける。

「以前ここでバイトしてた者なんですけど、社長に会いたくて来ました。」

フロントが知っている女の人だったので話は早かった。屋上にある社長室に向かう。社長に会うのは随分久々なので少し緊張していた。

「失礼します。社長、お久しぶりです。」

「おー、えらい久しぶりやないか。名前忘れたけど顔覚えてるわ。まあとりあえず、ここ座り。なんか冷たいもん入れたろ。」

「ありがとうございます。こいつは友達の中村です。」

「どうも。」

どうもじゃねえよ、何でまたカツラをかぶってんだよ。絶対捨ててやる。

「お好み焼きの具1つ選ぶなら何?」

「凄い、いきなりですね。」

「イカゲソ。」

何で即答出来るんだよ。

「にいちゃんみたいなねえちゃん、自分えらいのん選んだなあ。イカゲソ選んだっちゅう事は、毎日惰性で生きてるやろ。同じ事の繰り返しの生活から抜け出されへんし、抜け出したところでどうして良いかもわからんみたいやな。難しい問題やっちゅうこっちゃ。」

「社長、どうしたんですか?」

「お好み焼き占いや、今ハマってんねん。自分は?何選ぶ?」

「じゃ豚肉にします。」

「豚肉選んだっちゅう事は、普通や。」

「えっ、占ってくれないんですか?」

「だから普通や言うてるやろ。ほんで何や、またバイトでもしに来たんか?」

「いえ、そうじゃないんです。社長、無人島ってまだ持ってます?」

「持ってるで、3つ。」

「3つも!?」

「3つもいる?」

「にいちゃんみたいなねえちゃん、分かってないな。船が転覆して、気が付いたら無人島や。古屋やら、井戸やら、畑やら、そんなもんがある無人島なんかそうそう無いで。ええか、無人島にもなレベルっちゅうもんがあるんや。松、竹、梅や。分かるか?」

「例えば松無人島ならどんな感じなんだ?」

「井戸やら畑やらがある梅無人島とは違ってな、なんも無い。持って行けるもんも限られとるしな。きっついでー、松の無人島は。」

「準備してから行ったら駄目なのか?」

「にいちゃんねえちゃんな、さっきも言うたけどな、船が転覆して、気が付いたら無人島や。転覆した時のための準備をしてから船に乗る奴なんかおらんやろ。真のサバイバルは突然にやって来る。」

その設定を頑なに崩さない社長の頑固さに呆れる。

「そんな過酷なサバイバルの何がいいんだ?」

中村よ、君はずっとタメ口だな。ひと回り以上年上の初対面の人に、お願いがあって訪ねて来て、タメ口はどうかと思うぞ。

「にいねえちゃん、ええ質問や。サバイバルっちゅうのはな、生きるっちゅう事や。こんな都会の何でもある中で、生きてる事を感じる事なんかでけへん。何にも無い無人島で、飲み水を探して、何か食べれるもんは無いか、どうやったら魚を捕まえれるやろ、どうやって火をおこそうか。普段簡単に出来ることやのに、考えて苦労して失敗して、やっとコップ一杯の水を飲めた時、よし俺は今生きてるって思うんや。ほんで明日も絶対生きてやるって思うんや。サバイバルっちゅのはな、人間の根本的な力、生命力が鍛えられるんや。」

「根本的な力、生命力。凄い。」

何をもろに感化されてるんだ、このカツラは。

「俺もサバイバルがしたい。」

「そうなんですよ、社長。俺たちを無人島に連れて行ってください。」

「なんや、ほんで俺とこに来たんか。丁度ええわ、明日から夏季休暇や、わしも行こ思てたんや。松、竹、梅、どれ行く?」

「俺は松でサバイバルを」

「梅でお願いします。」

「梅でええんか、そっちのにいねえちゃんはなんか不満そうやけど。」

「俺は人間の根本的な」

「今日ここに泊まって良いですか?」

「別にええよ。部屋は空いとるし。島にはどれぐらいおるつもりなん?」

「半年ぐらいです。」

「はっ、半年?えらい気合い入ってんな。自給自足やし、別になんぼでもおってええけど。」

「俺は」

「じゃ明日、よろしくお願いします。」

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