潜伏先
「というわけで、もうあのカニミソラーメンは手に入らない。」
「今日行けば山の様に積んであるかも知れない。」
「それはまず無い。あのスーパーと俺の相性は最悪なんだ。俺が買いたいものは、ほとんど売り切れだよ。なんなら北海道フェアがもう終わっているね。」
「相性なんてのは本人達が勝手に思っているだけで、はたから見ればお似合いだったりするもんだ。ちょっとしたきっかけですぐに付き合い始めたりする事もある。」
「そのきっかけが中々無いんだよな、ってかその忠告今するとこか?」
「人を好きになるきっかけなんてなんだっていい。ちょっと椅子に縛られるなど。」
「そうだった。中村、君とは大事な話がまだだった。君の目的は何なんだ?」
「そうだな、本当はそういう話を最初にするもんだろう。」
「それは君が、さあ今からカップラーメンを食べようか、という時にずかずかと家に入って来て、いいタイミングで出来たカップラーメンを食べたからじゃないか。」
「俺は2、3日飲まず食わずでここまで来て、餓死寸前だったんだ。良かったじゃないか、人命救助が出来て。」
「2日なのか3日なのか、自分の事なのに曖昧だな。餓死寸前の割に随分ゆっくり味わってたじゃないか。それで、どんな味だったんだよ?」
「だから味は、」
「あー待て待て、中村と話してるとすぐ話が逸れる。カニミソラーメンの味は一旦置いといて、君は一体何がしたいんだ?まさか今更、強盗だなんて言わないだろな。」
「俺はただ自由が欲しいだけだ。」
「俺の自由を奪っておいて、よく言うよ。君は十分自由じゃないか。」
「追われてるんだ。」
「は?誰に?」
「悪の組織に。」
「は?何で?」
「俺が何か気に触る様な事をしたんだろう。」
「プロフィールの特技の欄に書きなよ、人の恨みを買う。」
「1週間程逃げてるんだが、移動するのに疲れたんだ。それでどこかに潜伏しようと思って。」
「じゃ君はたまたま、偶然にも俺の家を選んだのか?」
「この家にしなよって言われた様な気がしたと思う。」
「誰にだよ。それより潜伏しようと?暫くここに居るのか?」
「ありがとう、助かるよ。」
「会話が成り立ってないだろ。大体こんな縛られた状態で何日も過ごせるわけないだろ。解いてくれよ。」
「駄目だ。」
「何で。」
「初対面だからだ。」
「一体いつまで初対面なんだよ。初対面だからって椅子に縛ってたら、仲良くなんてなれないじゃないか。君の第一印象は絶望的だぞ。」
「慎太郎が俺に危害を加えない確信が持てれば、椅子から解放しよう。」
「君は人を見る目がないな。俺ほど安心、安全、品質良好な人間はいないはずだ。」
「それが証明出来たら解放だ。」
「君は確信がないと行動にうつらないのか?今までもそうやって分かりきった人生を送って来たんだろうな。これが本当に君の思い描いた人生か?違うだろ?分からなくても挑戦してみろよ!失敗して、間違ってもその一歩が君を成長させるんじゃないか!今こそ踏み出せ、そしてこのガムテープを切るんだ!」
「久々にシャワーでも浴びるか」
「オッケー、それがいい、さっぱりして来てくれ。そうだ、あと俺は慎太郎ではない。人の名前を想像で呼ぶのはやめた方がいい。」