スーパー
中村が食べ終わったカニミソラーメンを持って、キッチンへ歩いて行った。ご丁寧に残ったスープをシンクに流し、カップをゴミ箱にまるで我が家かの様な慣れた手つきで捨てた。戻って椅子に座るなりタバコを取り出した。手には灰皿が持たれていた。本当に初めてこの家に来たのかよ。
「で、カニ味噌の味のラーメンなのか、カニの味のする味噌ラーメンなのか、どっちだったんだ。」
「他人に感想を求めるより、自分で確かめた方がスッキリしないか?」
「もちろん出来る事なら、もう一度同じスーパーに買いに行きたいさ。でも昨日出来た事が今日出来なくなるなんて事は、大学生のコンパより沢山あるじゃないか。」
「あってるか?その例え。」
「とにかく俺が昨日、あのカップラーメンを手にした経緯を熱く語るのを聞いてから、事の重要性を判断してくれよ。」
「何を聞こうと、カップラーメン如きに特別何かを感じるなんて事になるとは思えないな。」
「昨日の夕方、近所のスーパーに行ったらだな。」
「喋るのかよ。」
昨日の夜、近所のスーパーに食料を買いに行くと、入り口に北海道フェアのノボリ、垂れ幕、旗によるうるさいぐらいの出迎え。大して気にもせず入り口の自動ドアの前に立つ。開かない。多少前後左右に移動してみるも沈黙の入店拒否。手を上に上げてみたりと試行錯誤していると、後ろから女性が近づいて来た。自動ドアの攻略を諦め、女性に道を譲る。不思議そうに俺を見ながら女性は立ち止まる事なく入店。すかさず自動ドアの隙を突き、やっとの思いで入店。
どうもこのスーパーとは相性が悪いのか、スムーズに買い物が出来た事がない。かと言ってもう少し先のスーパーに行く気にもなれない。この日も自動ドアの妨害を他人任せで攻略した後、手にした買い物カゴが2つひっついてなかなか離れず、品出しをしてる台車に行く手を阻まれ、迂回をすれば商品にカゴを引っ掛け散乱、拾って並べていると値札に引っかかり千切れてしまい、値札を持って店員に謝りに行くと舌打ちされ、試食コーナーでは2回前を通るも店員には俺が見えないらしい。飲み物と冷凍食品をカゴにレジに向かう途中、北海道フェアのコーナーでカニミソラーメンを発見した。『北海道の味 カニミソラーメン 数量限定』らしく、女性がそのカニミソラーメンのまさに最後の1つを手に取って品定めをしていた。俺は祈った、戻してくれと。だが俺の祈りなどこのスーパーではMPの無くなった魔法使いぐらい役に立たない。当然カニミソラーメンの最後の1つは女性のカゴへ。諦めてレジに向かう。どこのレジもかなり混み合っていた。1番早そうな列に並んだつもりだったが、予想通り俺の並んだ列は進みが遅い。
「すいません、これやっぱりやめます。」
目を向けると、先程の女性が店員にカニミソラーメンを渡していた。迷う。今このレジの列を抜けてあのカニミソラーメンを手にし、再びこの行列に並び直す。そこまでして価値のあるラーメンだろうか。カニ味噌の味がするラーメンなら斬新、かつ高級なテイスト。カニの味がする味噌ラーメンなら、よくわからないが美味しそう。どちらにせよ美味しそう。
「すいません、そのカップラーメン欲しいんですが」
結局どんなラーメンかわからないが、気になってしょうがないので買う事にした。再びレジの行列に参加、次に並んだ列も、俺が並んだ途端に進みが悪くなった気がする。やっとレジの順番が来たと思えば、小銭の補充が始まり、さらにレシートの紙交換まで始まる。何故俺の時にと思うも仕方がない。それでもようやく会計を終え、商品を袋に詰め出口に向かう。そして自動ドアはやっぱり開いてくれなかった。