お題【テディベア、メロンパン、ゴミ収集車】
ボクは、いつまでここにいるんだろう。こんな暗い場所に・・・・・・
昔はあんなに可愛がられていたのに、どうして、どうしてボクはここ閉じ込められているの。
たまに破れた障子の隙間から見える彼女の髪。
ああ、髪伸ばしたんだ。
なんでだろう、彼女に捨てられたも同然なのに、こんなに彼女のことを気にかけているんだろう。
たぶん、心の中で・・・そもそもボクに『心』というモノ自体あるかは定かでないけど、ほんの一握りほどの希望を抱いているのだ、
「彼女はきっとボクをこの暗闇の世界から助けてくれる」という・・・・・
ある日のこと、ボクは袋に詰められ、たくさんの生ゴミの入った袋たちの隣にいた。
久しぶりの外だ、明るい、明るい、明るいけど暗い、暗いよ。暖かいはずなのに寒い、なんでだろう。なんでだろう。こんなんだったら、前の場所の方が数倍マシだ。
どうかな、ボクが外に出たいって祈ったからかな、それなら神様は残酷だ。ただでさえ、ボクを閉じ込めていたのに、願えば、ボクの意に添わない形で叶える。ボクは何か悪いことをしただろうか。
そんなことを自問自答しながら、ボクは自分が今の姿から、誰にも見られることのない原子になる時間を待った。
もう後悔はしていない。十分に楽しんだ。思い返してみると色んなことがあった。彼女が幼かった頃、ボクに半分のメロンパンを食べさせようとして、母親に怒られたこと。
ボクの腕がちぎれた時、まるで自分ことのようにすごく悲しんで、大粒の涙を流したこと。
今思い返すだけで、たくさんあった。
神様、やはりボクは貴方に感謝しなければなりません。
彼女に出会えさせてくれて、ありがとうございます。
本当に楽しかったです。
『ブー、ブー』と、大きな車。そして、ボクの最後。
ボクの隣にあった袋は、車に吸い込まれた。
今度はボクの番だ。
そう思い、ボクの身体が宙に浮き上がった刹那、
『タッ、タッ、タッ』と、誰かが走る足音。
『待ってください。それはゴミではありません!』
長い髪の少女がボクが入っている袋を、車の持ち主らしき人から取り上げた。
彼女の目には、大粒の涙が浮かんでいる。あ、あれ、懐かしい?
ボクは初め頭がおかしくなったと思ったが、
『ごめんね、くーちゃん。今まで一人で寂しかったでしょ。でも、もう大丈夫だよ』
『くーちゃん』・・・・・ボクの名前だ。
もしかして・・・・・
『ごめんね、お母さんが勝手に、いや、お母さんのせいじゃないよね。私がくーちゃんのこともっと大切にしていたら・・・・・』
「もう何も言わなくていいよ、あーちゃんはボクのことを迎えに来てくれたじゃないか。」
このボクの言葉が彼女に届いたかは定かではないが、彼女はスッと立ちあがって
『さっ、帰ろうか。帰りに、くーちゃんの好きなメロンパンを買って。今日は全部食べていいんだよ。』
それから、ボクの場所は、暗闇でもなく袋の中でもなく、彼女の手の上になった。