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婚約破棄された上にその場で殺されそうになった令嬢を幼馴染みが身も心も奪い去るまでのお話

 

「アリファーナ=ミーツランカー公爵令嬢っ。貴様との婚約は今この時をもって破棄させていただくっ!!」


 それは国王主催の夜会でのことだった。

 多くの令嬢を虜にしてきた端正な顔立ちの第一王子が婚約者であるアリファーナ=ミーツランカー公爵令嬢を突き飛ばし、あろうことか腰の剣を抜き放って高らかと宣言したのだ。


「殿下。いったいなにをおっしゃっているのですか?」


「白々しい。貴様の悪行を俺が知らぬとでも思ったか!?」


 ブォンッ!! と剣先がアリファーナの首元に突きつけられる。冗談ではない証にその刃は白く輝く彼女の肌を薄く裂き、真紅の雫が流れる。


 腰まで伸びたプラチナに光る珍しい髪にルビーのように真っ赤に染まる瞳。純白を基調としたシンプルなドレスだけで人々の羨望を集めるほどにミーツランカー公爵家の一員としてふさわしくあるため磨き上げられた美貌が痛みに歪む。


 小さく悲鳴をあげる公爵令嬢を第一王子は鼻で笑い、


「貴様は将来の王たる俺の婚約者でありながら同じ学園で学ぶ学友であるマリアン=ピンクゾーン男爵令嬢に対して暴言を吐き、嫌がらせを行ってきたのだろうがっ。俺の婚約者とはすなわち将来の王妃ということ。貴様のように民を虐めるような者に務まるものではないと知れ!!」


「待ってくださいまし! マリアン=ピンクゾーン男爵令嬢とは話したことすらありません。嫌がらせなど、そんなことするわけないじゃありませんかっ」


「見苦しいぞっ。貴様の悪行を証言する者は多く、また証拠も揃っているのだ!!」


「なっ。そんなことあるわけ──」


「貴様のような悪女の主張など聞くわけなかろうっ」


 切り捨て、そして絵本の中の王子様をそのまま抜き出したような端正な顔立ちの第一王子はその手に握った剣を振り上げる。


「貴様の罪状は既に明らかとなっている。であれば、俺の手で死罪と償わせるのが元とはいえ婚約者としての慈悲と知れ」


「死、罪……? 待って、待ってくださいましっ。わたくしは何もやっていませんし、万が一わたくしが罪を犯していたとして裁判も何もなくこの場で断罪するなど、そんなっ」


 その時、アリファーナ=ミーツランカー公爵令嬢は気づいた。気づいて、しまった。


 国王主催の夜会というだけあってこの場には有力貴族が揃っているし、もちろん国王や王妃も一連の騒動を目撃している。


 だというのに、誰も止めない。

 背筋に走る悪寒を否定したい気持ちで周囲を見渡すが、有力貴族の面々は憐むような目をしており、国王や王妃はまるで息子の成長を喜ぶ親のように拍手さえしている始末である。


『支配者としての自覚が芽生えたようで何より。適当な女を当てがい、己が欲望を貫く強さを持つよう促した甲斐があったというものだ』『うふふ。子供の成長とはかくも早きものなのねえ』などという国王と王妃の会話が耳に届く。


 法律が、倫理が、正義が、腐敗していた。

 蠢く底なし沼に呑まれるように足元が沈む心地がした。


 貴族といえども『常識』を破ってはならない。いいや、民の模範となるべき貴族だからこそ、平民よりも絶大な権力を持っていてもその使い方を誤ってはならないのだ。


 そう、信じてきた。

 だからこそ、傲慢に振る舞う第一王子につい小言のような注意をしてしまうこともあったが、それは死罪となるような悪行なのか。権力者だからこそ、果たすべき義務があると信じて好きでもない男の婚約者として一生を捧げようと誓い、王妃として恥ずかしくないよう一日の大半を教養や礼儀作法を会得するために使ってきたのも全ては無駄なことだったのか。


 第一王子は言う。

 自らの欲望を隠しもせずに。


「貴様の悪行に晒され、それでも懸命に耐え抜いてきたマリアンこそ俺の伴侶とふさわしい。ゆえにこそ、はは! 貴様亡き後はマリアンを伴侶と迎えて、王道を歩むとしようっ」


 嘲笑う第一王子の横にはいつの間にか一人の少女が佇んでいた。力強い印象を抱かせるアリファーナと違い、儚く守りたくなる印象を抱かせる──そう、マリアン=ピンクゾーン男爵令嬢であった。


 そっと、第一王子の腕に抱きつく彼女の口元が床に転がるアリファーナ=ミーツランカー公爵令嬢でないと見えない形で笑みを作る。愛らしさとは真逆に位置するドロドロとした、それ。その笑みが全てを物語っていた。


「というわけで、アリファーナ=ミーツランカー公爵令嬢。死ぬ覚悟はできたか?」


「っ……!?」


 その言葉にびくりと肩を震わせ、アリファーナは逃げ出そうとした。令嬢らしい、今まで培ってきた礼儀作法など捨て去って這うように少しでも第一王子から離れようとしたのだが、杭を打ち込むように第一王子の足が彼女の腰を踏みつける。


「が、は、ぅ!?」


「逃がすわけないだろう!」


 声だけが、響く。うつ向けで固定され、第一王子の姿を見ることすらできない。ブォンッ、と振るわれた剣が空気を引き裂く音が鳴る。いたぶるように素振りの音が連続し、その度にアリファーナの魂が削られていく。


「間違っています。こんな、こんなことが許されていいわけありませんっ。だって、こんな、権力の横暴を許してはいけないはずで、だから!!」


「貴様の主張など聞くわけないと言ったはずだ。俺が、王族が是としたのだから、それが全てだ」


「……ッ! いや、です。やだ、こんな、死にたくなっ、やっ、やめて、嫌です助けてえ!!」


「はは、ははははは!! いつだって澄ました顔で俺の行動にいちいち口出ししてくるクソ女が随分と取り乱しているなっ。これはいい、爽快だ!!」


 削れていく。

 貴族としての義務として積み上げてきたものが削られ、アリファーナの素顔があらわとなっていく。


 視線の先には巨躯を誇る父親にしてミーツランカー公爵家当主もいたが、彼は娘の悲鳴を受けても表情を崩すことはなかった。無表情に見据えるだけである。


 実の父親すらも手を差し伸べてくれないのだと。もうこの場にアリファーナの味方はおらず、権力の横暴が好き勝手に振るわれるだけなのだと。


「貴様の醜態を眺めるのもいいが、ははっ、ははは! そろそろ死罪と償わせてやるとしようかっ!!」


 気づいていた。そんなの本当はとっくに気付いていて、だけど直視できなくて、だから、それは、つまり、


「たすけてよ……ヴァジル」


 剥き出しとなったアリファーナの奥底にあったのは、最後の最後に溢れたのはその人名であった。


 消え入る声が届くことはない。第一王子の剣は真っ直ぐに振り下ろされ、死罪をもって幕を引く……はずだった。



「おうよ」



 ゴグシャアッッッ!!!! と。

 轟音と共に彼女を縫いつけていた足の重みが消失する。


「……、え?」


 殺されるはずだった。死は避けられないはずだった。だけど、アリファーナはまだ生きている。


 そして、そして、だ。先程の声、アリファーナ=ミーツランカー公爵令嬢のすぐそばに立つその男は──


「ゔぁ、じる……?」



 ーーー☆ーーー



 それはアリファーナ=ミーツランカーがせめて今のうちはと(彼女にバレないよう護衛がついていたとはいえ)身分を偽り『アリナ』という偽名を使うことを条件に街を遊び歩いていた幼い頃の記憶


 両親は貴族社会で生きているだけでは見えない広い世界を実感することで成長の糧としてもらいたかったのだろう。あるいはいずれ貴族としての義務を果たすために自由を奪うこととなるせめてもの償いとしてほんの少しでも好きに行動させてあげたかったのか。


 幼い彼女は平民の子供たちに混ざって全力で遊んでいた。そんな中、アリファーナは悪ガキを統括していたヴァジルと出会う。根が真面目なアリファーナはしょうもないイタズラばかり繰り返すヴァジルとよく激突していたものだった。


『こーら、ヴァジルっ』


『げっ、アリナ!? なに怒ってんだよっ。別に怒られることなんてアレか、それともあっち? いやいやバレるならまずあのことのはずで、あるいはいきなり本命が暴かれたってことも……。えっと、どれのことだ?』


『数が多くて絞り切れないほどですか!? とにかくお説教ですっ』


『お説教と言われて大人しくしているとでも? 逃げるに決まってんだろばーかっ!!』


『誰がばかですか、こら待ちなさーい!!』


『誰が待つかよっ。つーか、そうやって騒ぐのは勝手だが、そうやっていつも口うるさいからかわいくねえって話だぜっ。まあ、なんだ。俺様はそんなこと──』


『ふっぐ。か、かわいく、ない……』


『ん? おいおいなんで泣きそうな顔してるんだよっ。違う今のは違うんだってっ』


『なにが、違うんですか。かわいくないって言ったもん』


『だからそれは、あーもうっ』


 ガシガシと痛みが感じられるくらい乱暴に頭を撫でられる。力加減なんて器用な真似できないヴァジルらしかった。


『俺様はそんなこと思ってないって言おうとしたんだっ。それに、なんだ。俺様はお前のそういうところ、その、嫌いじゃないんだ。悪さするのもお前が口うるさく構ってくれるからだしなっ』


『え……?』


『あ。いや、いやいや今のは違うっ。いや違わないけど、その、あれだ、とにかく忘れろ、なっ!?』


 ヴァジルは忘れろと言っていたが、忘れられるわけがなかった。第一王子の婚約者となることが決まり、貴族としての義務を果たすために自由を捨てることになった後も、彼と過ごした幼少期があったからこそ折れずにいられたのだから。


 だから。

 だから。

 だから。



 十年ぶりであっても見間違うものか。

 アリファーナと同じ十五歳の彼は昔と比べて筋肉が目立つようになったし、右目を大きく縦に両断する古傷で右目が潰れていたりとアリファーナが知らない『人生』が見え隠れしていたが……そこにいるのはヴァジルであることだけは確信できた。



 何らかの液体がこびりついて取れなくなった赤黒い漆黒のマントを靡かせ、ふてぶてしく笑い、彼はぱんっと右拳を開いた左手に叩きつける。


 ゴギゴギと拳を鳴らし、言い放つ。


「アリファーナ=ミーツランカー公爵令嬢は俺様が奪い去る。文句ある奴は前に出ろ。全員、まるっと、ぶっ潰してやるからよ」


 その宣言にヴァジルに吹き飛ばされたのか、ふらふらと立ち上がるところだった第一王子の絶叫が炸裂する。


 剣。

 人を殺す道具と共に。


「ふ、ふふ、ふざけっ、ふざけるなよっ!! こっここっこォおのオオ俺を殴るなどっ。殺す。殺す殺すぶっ殺す! 貴様も、貴様が庇うアリファーナ=ミーツランカー公爵令嬢も! 第一王子にして次期王である俺への不敬の元、死罪と償わせてやるよおおおおっ!!」


「償うのはテメェのほうだ、クソ王子」


 だんっ!! と床を蹴る音を聞き取るのがアリファーナには精一杯だった。瞬間、数メートルは離れていたはずの第一王子の懐にヴァジルが飛び込んでおり──ゴドン! と跳ね上がった拳が彼の顎をすくいあげるように打ち抜いたという結果だけが視界に広がる。


「がばうあ!?」


「『アリナ』は口うるさいくらいでちょうどいいんだ」


 拳が唸る。その度に第一王子の顔が、肩が、胸板が、右手が、股間が、脇腹が、左太腿が、打ち抜かれ、肉が潰れ骨が砕ける音を響かせる。


 第一王子は剣を持っており、まるでいやいやをするように時々振るいはしていたが、痛みから両眼を閉じて狙いを定めてすらいない刃を避けることなど容易い。いかに凶器があっても使い手が未熟ならば殺しを果たすことはできないということだ。


「それを、それをだ! あんなか細い声で俺様なんかに助けを求めるまで追い詰めやがって!! そいつがどんな罪よりも重いもんだってのわかってんのかクソッタレがあ!!」


 ゴッドォンッッッ!!!! と令嬢たちを虜としていた甘いマスクに拳が突き刺さる。端正な顔立ちを崩壊させた第一王子が立食用の料理が並べてあるテーブルを薙ぎ払いながら転がっていく。


 ぱんぱんっと汚いものに触ったと言いたげに両手を叩き合わせるヴァジル。第一王子を、次期王を殴り飛ばしたとなれば国を敵に回すと同義であるというのに、その顔には爽やかな笑顔が浮かんでいた。


「ふう。こんなものか」


「こんなものか、じゃありませんよ!」


 慌てて駆け寄ったアリファーナの声にヴァジルは訝しげに視線を向ける。


「なんだよ、騒がしいな」


「ばか、本当ばかなんですから! 相手は王族ですよ公爵令嬢さえも裁判さえ通さず死罪として殺そうとすることができる権力者ですよ!! それを、本当何をやっているんですか!?」


 国王や王妃が喚き散らしながら騎士を呼んでいるのは気づいているはずだ。それでもヴァジルは何でもなさそうに、


「だってアリナ殺そうとしたし」


「こんなことしてはヴァジルまで殺されてしまうではないですかっ。わたくしのせいでヴァジルが死ぬなんて、そんなの嫌ですよ!!」


「くっくっ」


「なっ何がおかしいんですか!? わたくし、怒っているんですよ!?」


「いや、なんだ」


 右目を縦に裂かれるくらいには過酷な『何か』があったのだろう。昔とは比較にならない圧を感じさせるヴァジルは、しかし昔とまったく変わらない笑みを浮かべて、肩を震わせながらこう続けた。


「やっぱりアリナは口うるさくねえとな。調子戻ってきたか?」


「な、なななっ。こんな時にふざけないでくださいっ」


「ふざけてなんていねえさ」


 ガシガシと。

 昔と変わらず痛みが感じられるくらい乱暴に頭を撫でられる。懐かしさにこんな時でも頬が緩んでしまうのを止められないアリファーナへとヴァジルは簡単な調子でこう告げたのだ。


「心配するな、なんとかしてやるから」


「なんとかって、そんな大雑把なっ!」


「俺様の言葉、信じられねえか?」


「そ、そんな卑怯です。信じられるに、決まっているではないですか」


 国王や王妃の命令で剣を抜き、ヴァジルを殺さんと騎士が殺到する。その全てを彼は拳で叩き潰し、最後にはアリファーナを抱きかかえて悠々と夜会会場を立ち去ったのだった。



 ーーー☆ーーー



「くっくっ、あーはっはっはあ!! お偉方の前で公爵令嬢奪い去るだなんて中々にイカした悪さだなあっ。ミーツランカー公爵家当主の話に乗っかった甲斐があったってものだ!!」


「え、今なんと!? お父様と何を話していたんですかヴァジル!?」


 夜の街並みを俗に言うお姫様抱っこ状態で周囲の目を気にして恥ずかしげに身をよじらせるアリファーナを抱きかかえたヴァジルが歩いていた。腕の中の少女の質問には答えず、ヴァジルは強くアリファーナを抱き寄せる。


「そんなことより、クソ王子との婚約は破棄されたんだよな。ついでに公爵家から勘当される予定だから身分差を気にする必要もない、と」


「いや、あの、勘当って本当何の話ですか!? こらヴァジル本当お父様と裏でこそこそ何をしていたんですか!?」


「アリファーナ=ミーツランカー……いいや、『アリナ』。好きだ、俺様のものになれ」


「…………、え?」


「いや、あの、俺様と、その、付き合ってくれると、嬉しいなーっと、はい」


「付き、合う……わたくしと、ヴァジルが?」


「うっうぐう! あーくそわかっていたよ俺様なんかじゃお前とは釣り合わないってだろっ。大体惚れた女の気を引こうとわざと口うるさく注意されるようなことばかり繰り返してきたどうしようもない小物だものな眼中にないよなわかっていたさ!! せめて気持ちだけは伝えたかっただけで、あわよくばいけるんじゃと賭けただけだっ。案の定だから別に気にしてねえし、本当だしっ。だから、なんだ。ここまで勝手に状況進めたのは俺様だ。なら、せめてこの国の腐った上層部をぶっ潰して、ミーツランカー公爵家当主に王権放り込んで、アリナの安全は確保するからっ。お前にフラれたからって俺様のやることは変わらねえから心配するな!!」


「まっ待ってくださいまし!! 一人で勝手に話を進めないでください!!」


 疑問は多く沸いていた。だけど、今は、国を敵に回したことも父親やヴァジルが裏で何をやっていたのかも現王権を打ち破ろうと企んでいることも、全てが意識の外に飛んでいた。


 ただ一つ。

 大切なものだけを見据えて、言葉を紡ぐ。


「わたくしだって、ヴァジルのこと好きです」


「…………、え?」


「にっ二度も言わせないでくださいよっ。そ、そういうことですから、その……どうやらわたくしは婚約破棄された上に公爵家からも勘当されるようですし、貴族としてではなくただのアリファーナ……いいえ、『アリナ』で良ければ付き合ってあげても構いませんわ」


「マジかよっしゃあ!!」


「きゃっ」


 ぎゅう!! と首元に顔を埋めるように抱きしめられ、『アリナ』が顔を赤くする。痛いくらいに強く、力加減なんて器用な真似できない彼らしい抱擁。彼女たちを祝福するように輝く星空の下、この人と共に生きるのだと、生きていいのだと、そう思ったら悲しくないのに涙が溢れてきた。



 ーーー☆ーーー



『ヴァジル。腐った王権を打破することと娘の安全の確保、双方を両立させるためには婚約破棄に加えて勘当も必要となる。王権打破の前準備、反乱に向けて王族への不信感を増幅させることが必要でなければ、わざわざ第一王子が男爵令嬢とくっつくために娘に冤罪を押し付けて婚約を破棄するまで待つことはない。さっさと娘を安全な場所まで避難させればいいからな』


『つまり?』


『貴族として、そして父親として。双方を両立させるためには今は部外者であるお前の力が必要だ。王族を殺すだけならともかく、内外の敵へ付け入る隙を与えないためにもアリファーナを奪い去ってくれ』


『ったく、今すぐにでもクソ王子ぶん殴りてえところだってのに。俺様に我慢しろだなんてミーツランカー公爵家当主も無理を言う。まあ、どうせならこの国見捨ててアリナ連れてとんずらするより、腐った王権ぶっ潰してこの国も救うほうが俺様みてえな奴さえ見捨てられないアリナも喜びそうだしな。仕方ねえから付き合ってやるよ』


『う、うぐおお。うおおおっ!! これが貴族としての顔と父親としての顔を両立する最適解だとわかってはいるが、くっそーっ! こんな男に娘を預けることになるとは!! 娘に手を出したら公爵家の総力をもって粉砕してやるからな!!』


『……、あいつが俺様なんかを受け入れてくれる可能性は限りなく低いし、俺様は無理矢理は好みじゃねえ。だから、まあ、俺様がミーツランカー公爵家当主を敵に回すことはねえだろうよ』



 ミーツランカー公爵家当主との会話を思い出し、お姫様抱っこ状態でアリナを抱きしめていたヴァジルはこう呟いていた。


「あー……付き合うとなれば手を出したも同然、か? まあ手を出すってのがどこまでってのは確認してなかったが、こうして付き合えた以上いずれは最後まで手を出すことになるよな。何せ俺様が我慢なんてできるわけねえし。となればお義父様とは決着つけねえとだな。なあ、アリナ。ミーツランカー公爵家ってどれくらい強いんだ? 俺様、ちょっくらミーツランカー公爵家当主の喧嘩買わないといけねえから、事前に敵戦力を知っておきたいんだ」


「はい!? なんでそんなことになるのですか!?」



 その後、民衆や一部の有力貴族を味方につけたミーツランカー公爵家当主が王権を打破し、最後の悪あがきに魔剣片手に突っ込んできた第一王子をヴァジルが粉砕し、アリナと付き合っているという報告と共にヴァジルとミーツランカー公爵家当主とが殴り合うことになり、最終的にミーツランカー公爵夫人にみっともないと怒られた当主がしょぼんとして、アリナとヴァジルは一般的な一軒家で仲睦まじく過ごすこととなるのだが、それはまた別のお話。

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― 新着の感想 ―
[一言] かなり簡略されていましたが、面白い。 続きがあれば、読みたいですね。
[良い点] すっきり見れる。 [一言] ほかほかしました。
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