神城真衣菜の人生は終わらない 2
「マイちゃんは本当に可愛いわ」
「流石、俺たちの娘だ」
目の前でにこにこと笑っている美しい男女がいる。彼らは神城真衣菜だった私―――マイ・エンダーとして転生した私の今の両親である。
私はもうここに転生して五歳になった。
前世とは違って今の私は絶世の美少女といっても過言ではないだろう。母親譲りの金色の髪に、父親譲りの青い瞳を持つ。鏡で見て、これが私とびっくりしたもの。
幸せな暮らしだと思う。
両親たちは私がどれだけ大人びていても可愛がってくれていて、お兄様とお姉様も私を末っ子として可愛がってくれている。
私は前の人生を楽しんで終えたわけだが、案外この転生生活は楽しくて、思う存分楽しんでいる。
あとこの世界、驚くべきことに私とエングランが出会った世界だ。加えて言うなら私の今の家は、遥か昔にエングランの影響を受けた家らしい。……その関係で家名にエンと入っている。なんとも不思議な縁だって思うけど、多分あの神様が何かしてこうなったんだと思う。それにしてももう五年か。エングランはどうしているだろうか。そして子供たちはどうしているだろうか。
そんなことを考えながら私は日々を過ごす。
そんな中で少し困ったことを両親が持ってきた。それは婚約話である。私はまだ五歳とはいえ、貴族の令嬢であり、そういう事もあり得る。私の家は侯爵家という地位で、貴族の中でも位が高い。だからこそ幼いころからそうやって婚約者を作るのも当然と言えば当然であった。とはいえ、私には神城真衣菜として生きた記憶がある。私の旦那はエングランだけだ。神城真衣菜としての記憶があるにも関わらず他の男と結婚する気は一切ない。
そう思い至った私は両親に宣言した。
「わたしには前世の記憶があります。わたしは前世の夫以外と結婚はしません」
この世界、前世の記憶持ちというのは時折現れる。両親にそれまでそのことを告げた事はなかったが、両親も察していた。それもあって、私が少しさとくても愛してくれたというのもある。
貴族の娘でありながら結婚しない発言に両親は困ったような顔をしていた。
「その旦那さんもマイに幸せになってほしいと思うんだ。もうその人もこの世にはいないんだろう?」
「そうよ。マイちゃん。色んな男性がいるのだから……」
「いえ、わたしの夫は今も生きてます。説明がむずかしいですが……、それに夫以上に良いおとこなんていません」
まだ五歳なので少し平仮名言葉になってしまうのが恥ずかしいが、仕方ないだろう。
私が今言っている言葉は紛れもない本心である。エングランに散々愛されて、愛を囁かれて、私もエングランを愛した。目を瞑れば、エングランとの日々が思い出される。子供達との幸せな日々も。だから私にとってエングランだけが夫なのだ。
それにしてもエングランは私の夫だが、そのことを両親に言ったら混乱させてしまうと思う。というか、私だったらこの世界からお隠れになった伝説ともいえる『炎竜王』が昔の夫だとか子供が言っても信じない。本人が居たら説明が楽なんだけれど……。私の召喚体質の説明もややこしいし。
エングランってば、私が『火炎の魔女』としてこの世界をたった後、色々やらかしていたのを転生して知ったの。この世界と地球の時間の流れが違うのか、よく分からないけど私とエングランが過ごした時ってこの世界では大分過去の事なのよね。エングランが私の世界に来るために一生懸命頑張って色々やらかした結果、今でも最強の竜とか言われてるらしくて……あの子は私に会いたいがために何をやらかしていたんだかって気分だ。
それだけ愛されていると思うと嬉しい気持ちの方が強いから、私は文句なんて言えないけれど。
そんなエングランが夫だったとか、エングランがいない状況で暴露とかするのってややこしい事態になる気しかしないの。あと、なんかエングランが「好きな人がいる」って言い張っていたのもあって昔からいる風竜王がエングランがいないのをいいことに、「エングランの思い人は私よ」とかいって捏造しているらしいから。
まだ五歳の身だし、生まれなおしたせいで神城真衣菜の時のように力が使えないのよね。才能はあるみたいだから少しずつ学んでいるけれど。あと、幼い体で自分を守るために自制されているような感覚もある。この状況で風竜王を敵に回すとややこしいことになる。最悪殺される。殺されても何だかんだ回収される気がするけど、私は簡単には死にたくない。
そんなわけで五歳の時になんとか両親を言いくるめて婚約者は私が望むまで作られないことになった。
両親やお兄様、お姉様たちからしてみれば前世の記憶があってもそのうち誰かと恋をするだろうと思っているようだ。エングランがそのうち会いに来るかなと期待しているのだが、七歳になってもまだ来ない。
そんな状況の中で、侯爵令嬢として同じ年ごろの子供たちと遊んだりはしている。少しだけ面倒なことに、同じ年の王太子に惚れられてしまったようだ。
正直、困るとしか言いようがない。無理やり婚約者にするとかはないけどさ、陛下たちや両親から王太子と婚約をしないかって圧が強い。無理って言いまくってるけど。だって拒否しまくらないと外堀埋められそうな感じだ。私が少しでも王太子と結婚してもいいかなっていうのを示したらそのまま婚約を結ばされるだろう。王太子は友人としてならいいんだけど……。ただこの王太子私が幾ら拒否しても、前世の夫ならもう会えないし負けないと思ってるらしい。
エングラン、はやく来ないかなと思った。
さて、七歳の秋になった。
私は王太子や貴族の子息子女やその家族も含めた皆でお茶会をしている。王太子と隣の席にさせようとする人たちを振り切って、友人の令嬢たちの所に座った。
「マイ様のぜんせのおっとって人はそんなにかっこいいのですか?」
まだ七歳なのでそこまで意味は分かってないだろうけど、そんな風に問いかけてくる。
「とってもかっこいいわ。わたしの自慢の夫なの」
私がそう言えば、周りはきゃーきゃーいってた。やっぱりどんな年でも女の子だと恋バナが好きなのだろう。
私はエングランの話をせがまれ、エングランの事を語っていた。そうしていると、やっぱりエングランに会いたくなった。
懐かしくなって目を細めているといらだった様子の王太子がやってきた。
「マイ! そんな会えない夫じゃなくて、おれと婚約するんだよ!!」
「いやですわ」
「むー。おれは王になるんだぞ。おれと結婚したほうが絶対幸せに――」
と、王太子が子供なのにマセたことを言っている中で、急に大きな魔力を感じた。空間が歪むのが分かる。大人たちは急に慌て始める。子供たちは、その大きな魔力に立てなくなっている。ううん、子供だけじゃない。大人もだ。
私はその中でただ一人立っている。だって、分かるから。
両親が慌てたように私の名を呼ぶけど、大丈夫。
だって、この魔力は――、
「マイナ!! 見つけた!!」
私の夫であるエングランの魔力だ。
エングランは迷いもせず姿の違う私の元へやってきて、嬉しそうに微笑む。
「久しぶりね」
「うん!! 久しぶり!! 転生してもやっぱりマイナ凄い可愛い!! 前のマイナも世界で一番可愛かったけど、今のマイナも凄い可愛い」
「そう。わたしは今マイよ」
「名前も似てるんだね。はぁ、可愛いー」
「……えっとね、それはいいからとりあえずその魔力引っ込めない? 今のお父様たちとかが困ってるから」
「え、マイの両親!? 止める止める!!」
などとそんな会話を交わしたら、エングランが魔力をおさめてくれた。大方、私がいるのが嬉しくて魔力放出したままにしてしまったのだろう。
「マ、マイちゃん……そ、その方は」
「わたしの前世の夫。エングラン」
「初めまして!! マイの今世の両親だよね? 俺はエングラン、よろしく!! お義父さん、お義母さん」
お母様の言葉に、私は夫と答え、エングランは自信満々に答える。
あ、お母様が泡を吹いて倒れた。 なんとか正気を保っているお父様と別室に移動して説明をすることになった。他の人たちはそれどころじゃないので執事たちに任せた。
お父様に私が『火炎の魔女』としてこの世界にいたことや、召喚体質のこと、エングランのことなど話したらそれはもう驚いていた。エングランはこの家にとって、いや、この世界にとって特別みたいだしね。
何で言わなかったのか言われたけど、理由を言ったら納得してくれた。
「エ、エングラン様、もし娘に婚約者がいたら――」
「そんなの許すわけないだろ。マイは俺の」
……そんな言葉を聞いて、私と王太子を婚約させようとしていたお父様は顔を青くしていた。
「エングラン、子供たちはどうしたの?」
「もう一番下が高校生になったからいいかなって」
「時間の流れが違うから私がよぼよぼになってたらどうするつもりだったのよ……」
「そのあたりはちゃんと確認してたから大丈夫」
……どうやって世界が違うのに私の年齢確認していたのだろうか。まぁ、地球の神様がエングランは神の域に達しているっていってたからそれでだろう。
「そう。まぁ、何はともあれ、また貴方と一緒に居られるのは嬉しいわ」
「マイ!! 俺も嬉しい!!」
ぎゅーって私はエングランに抱きしめられるのだった。
私の人生はまたエングランの隣で続いていくのだ。
――神城真衣菜の人生は終わらない。
(転生しても彼女は彼と共に)
前に書いた神城真衣菜の人生は終わらないの続きです。転生先の話です。
マイ・エンダー(神城真衣菜)
召喚体質だった神城真衣菜の転生した姿。転生してからは召喚とかはない。
母親譲りの金髪に父親譲りの青い瞳を持つ美少女。
前世の記憶があるからエングランと以外結婚する気なし。そのうちくると確信していたし、来なくても独り身で一生を過ごす気だった。
エングラン
相変わらずマイ(真衣菜)以外興味がなかった。一応親としての情はあるから、子供達が高校生になるまでは自重してた。
時間の流れが違うのは知っていたが、そのあたりはちゃんと把握してた。
転生してもマイは可愛い!! と溺愛してる。
両親
前世もちの娘の前世の夫がエングランでびっくりしている。でもなんだかんだいい人たちなのでどんな娘でも可愛がる。ただエングランにどう接していいか分からない。
王太子
マイに一目惚れしているが、一切相手にされない可哀そうな人。
前世の夫ならもう会えないから勝てるとか思っていたが、エングランがやってきてしまった。