新居
今日の予定は引越しだ。
俺は桐生 縁、ちょっと外出中に家が火事で焼けて新しい家に引っ越したほうが楽だと家族会議で決まった。
丁度違う所に住んでみたかったとか言ってる能天気な母さんには困ったもんだ。
父さんもなんで「優那がそう言うかと思って新しい家を見つけておいたんだ。」なんて言っちゃうかなぁ~……。
俺が知る限り引越し4回目、まぁ19歳で実家暮らしな俺も俺だがちょっと多いかな。
ワゴン車に乗って引越し先に向かっている。
なんだか山々しいな、森の奥ではないだろうがちょっと不思議な気分だ。
「実はな、父さんが買った家は洋館なんだよ。」
父さんは運転しながら車の中いっぱいに響く声で話した。
「ようかん!?ほんとぉ!?」
弟がうるさくはしゃいで前部座席のシートの間に首を突っ込む。
「そうだ、驟雨、だけどな、お菓子の方じゃねぇからな?」
「あっはっは!も~それくらいわかってるよ!」
驟雨は本来『しゅうう』と読むと調べた時知ったが父さんは間違えて『う』が一つ抜けたまま名前を決めてしまったそうだ。
「あぁ、縁、お前これから駅まで遠くなるがいいか?」
話をいきなり投げかけられた。
「別にいいよ、いつもより少し早く出れば済む話だし。」
「ならいいんだがな。」
父さんはバイトをしている俺に気を遣ってくれている、とてもありがたい。
「おっ、そろそろ見える筈だ。」
今この車は左が谷、右は山、4tトラックが通ってもゆとりのある道路をなだらかに右折している。
俺は助手席の後ろ、流れる景色を窓の縁とセットで眺めている
黄色い尖った鉄板が俺の目にチラついて、二度見した。
だが二度目は見えない。
元から無かったようにも見えるし疲れているんだろうか。
「ほら、縁、驟雨、アレだ。」
と父さんが顎で指した方向には似つかわしくないレンガ屋根の黒を基調とした綺麗な洋館が見える。
おいおいなんだ冗談か?胸が躍るな。
「父さんの友達がここを見つけてな、古い家なんだが中は掃除すれば使えた様で、業者の人に頼んで館内を1日で清掃してもらったんだ。」
「1日!?その業者さんにちゃんとお礼言ったの!?」
「あぁ勿論、いつもの倍、お礼として払ったよ。」
「それならいいのだけれど……。」
1日か……どんな人数で入ったのかはわからないが、おかしい、母さんが驚くのも無理は無い。
どんな神業を使えばこんな大豪邸さながらの屋敷をたった1日で……。
「よぉし、ここが駐車場だな。」
「父さん、ここ庭じゃない?」
「んん?まぁいいんだよ、そういうのは後で、あっはっは。」
「ははは。」
屋敷、か……まぁまた明日バイト先に事情を説明しておこう。
「おぉっ、すごいなこの扉、両開きだぞ!」
「ちょっとあなた~、先先行かないでよ~?」
「父ちゃんずるい!待ってて!」
今日はもう疲れたな……、さすがに黄昏時だし、あとは晩御飯を食べて風呂に入って寝るだけだろう。
「じゃあ皆、おやすみ~。」
「「おやすみ~」」
家族一斉に寝ることもないんじゃないだろうか。
そうだ、日記でも付けてみよう……。