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桜の雨、ふたたび  作者: 蒼原悠
序幕
1/69

あの桜の木の下へ

この物語はフィクションです。

実在する人物、団体、および史実とは関係がありません。





挿絵(By みてみん)




 荒れ果てた広野を、覚束ない足取りで歩み続ける男がいた。


 彼の出で立ちは、見るも哀れなものだった。服は破れ、持ち物にはことごとく痛ましい傷が付いている。肌も帽も灰色に煤け、端正な外見を台無しにしてしまっている。

 しかし男に、そんなことを案ずるほどの余裕など、ありはしなかった。


 目指す先は、数多の人の営みが焼け落ち、崩れ去った、その無惨な跡地。

 赤茶けた大地の上を、紫色の煙が(くすぶ)る。折れた樹木が天に悲しい姿をさらし、人家に至っては跡形もなく壊されたまま。行く手を遮るのはただひたすらに、顔を背けたくなるような光景ばかりであった。

 あらゆる希望がこの地を離れ、あらゆる絶望がここへ(つど)っている。

 しかし男に、高笑いする絶望の影に目を向けるほどの覚悟はなかった。


 男は目指している。前方に少し開けた、庭の中心を。

 そこが我が家だからではない。己の家が焼け落ちていることを、男は既に知っている。ここにはもう帰る場所がないのだと、男は身をもって理解している。

 それでも、目指さなければならなかった。


「…………ああ」


 角を曲がった男は、足を引きずりながらつぶやいた。

 その瞳に映ったものを直感的に判別した時、男の歩く勢いは増した。深い樹海の中に一筋の木漏れ日を見つけた者のように、庭を目指して走った。つまずいて倒れそうになっても、懸命に堪えて走り続けた。

 そうして気付けば、そこに辿り着いていた。






 ──枯れたような葉をつけた一本の桜の大樹が、男の見上げる先に立っていた。











お読みいただき、ありがとうございます!


本作『桜の雨、ふたたび』は、2018年4月上旬までの約5か月半の間、3の倍数の日付に更新していきます。

本編の話数は57、総文字数は約255,000文字の見込みです。

次回より本編に入ります。どうぞお付き合い、よろしくお願いします!




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