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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
五章
368/368

ただいま 1979字

 映った光景は、頑丈な瓦礫によって形成された巨大な城。

 主人公アレウス達は二人の番人に往く手を遮られるが、ユノの言い分が伝わることで彼女がスュクレ・エクレール本人であるかを訝しむ番人を動かすことに成功。夕暮れが迫る中、確認を取りに足早と城へ向かった番人が戻るのを主人公アレウス達は待ち続けていた――――

 夕暮れで染まる豪壮な城〈星夜の霹靂・月ノ光アカデミー〉。純白な煉瓦に被さる黒ずみと苔がびっしりと覆われて古風な雰囲気を醸し出す。


 ボス戦前のトビラの如き門の前で待たされる主人公アレウス達。律儀なミントが佇んでいて主人公アレウスは不安そうに周囲を見渡し続ける。ユノは槍の番人と意気投合したのか和気藹々と会話していた。

 待たされて暫しして、トビラが開き始めた。ぎちぎちとぱっくり割れる門に、その音で皆が視線を向けていく。


 そこからはスーツ姿の男達が現れた。その後からは斧の番人が存在感を控えめに現れて佇む。

 スーツの男その二人は黒色に染まるグラサンのモブキャラ。片方は金髪ロングで、もう片方は黒髪のベリーショート。その男たちを率いて歩いてきた三人目の男が歩を止めると、途端に皆が合わせて足を止めたのだ。


 真ん中のその男。城に宿る龍の化身と思わせる暴圧な存在感が、その場の皆を停止させた。

 黒のスーツ姿に真紅のシャツを覗かせる。黒のネクタイを直す仕草を挟み、サングラスを取っ払ってユノを直視した。


 奥から光らせる黒の瞳に既知感を抱き、そして、揺れる結った白髪の小さな束が目立ち始める。まさか、そんな。あからさまなそれに意外なばかりの真ん丸な目を見せる主人公アレウス。

 嫌な予感がする。この思いを抱くと同時にしてその男が喋り出したのだ。


「しかとこの目で拝見した。紛うことなき我が血族のその一員であることを確認し、これを以ってして彼女らの進入を許可しよう。これは、"アメール"名義における最優先事項だ。異論は決して認めない。――彼女らを手厚く迎える手筈を整えろ。最上級の応接の間の手配を進めてくれ」


 "アメール"。その名を聞くと、瞬時に脳裏を巡った過去の場面を思い出す。


 四章の〈拠点エリア:風国〉での、トーポとの会話。

『アメールは危険だ。一度と定めた考えを一切と改めないほどのとにかく融通の利かない頑固者であるクセに、その能力が彼の背を後押しし、あらゆる障害が立ち塞がろうとも彼は自身の理想を強引に押し通してそれを現実のものとしてしまう。その上に、彼が〈魔族〉と関与しているだなんていったら……あぁ、僕は今、とんだ悪夢を見せられているみたいだ』


 あぁ、これは確かに悪夢だ。まさか、疑いを掛けて関与の事実を確認しなければならない存在というのが、まさに……。

 主人公アレウスは苦渋に満ちた。同時にして現れた"彼"を目撃したユノは、言い知れない悲しみを表情にする。


 周囲のNPC達が早急に慌て始めた。ユノの姿にも十分な驚きを見せていくスーツ姿の男たちであったが、それよりも"アメール"名義の指示にそれどころではない。

 直にも、"その男"がユノへと語り掛けた。


「この日を長らくと待ちわびていた。私はこの日を迎えることをずっと信じていたぞ、スュクレ。あぁ、とても幸運な瞬間を体験したさ。これもまた、"未知との出会い"、とも言うべきか。――募る話は山ほどとある。が、しかし、それを立ち話で全て済ませてしまうだなんて実に勿体無い! さぁ、久方の再会を祝すべく、十数年ぶりの我が家にその身を寄せるがいい。スュクレ」


 両手を広げて懐を晒す。感動のハグを求める"彼"の期待に対し、ユノは敢えて不動を維持し続けていた。

 再会の瞬間を目撃して、これほどまでに心が震えない。巡る悪寒に既に緊張を帯びる主人公アレウス、覚悟を決めるよう自身の感情を整理してそれと向き合っていく。


 夕暮れの黄昏も直に闇に呑み込まれ、背に蔓延る暗闇が進入を勧めてくる。今にも、それと向き合わなければならない。この、目の前の運命へと立ち向かわなければならない。

 目の前の"男"が強大な障壁に見えてきた。この手に持つ刃も突き刺せないほどの雄渾なる存在が、とても大きすぎる。


 だが、その思いもユノの心境には至らない。抱く思いには雲泥の差があった。これは、彼女に巡る運命なのだ。これは、ユノというNPCが至った境地にて繰り広げられる一つのステージ。フラグによって彼女の土俵へと無理矢理に上ってきた主人公アレウスには、今もユノが抱く悲痛を理解し得ない。


 ただ、ユノを見遣った。"アメール"と相対して真っ直ぐな眼差しを向け続ける彼女を見遣ることしかできなかった。……あとは、この先にも展開される未だ見ぬ未知のステージに備えた準備を行うしかない。

 主人公アレウスはこの時にも目指す道標を定めた。これからにもユノというNPCが辿る運命の、降り掛かる困難のその助けとなるために、悲愴を交えて喋り出すユノへと尽くすその心のままに、主人公アレウスは彼女を守り抜くという目的を改めて噛み締めたのだ。



「……そうね、ありがとう。…………ただいま。――パパ」



 促されて進入した建物〈星夜の霹靂・月ノ光アカデミー〉。アメールの〈魔族〉との関与をいち早くと確認したいユノとは裏腹に、アメールは娘との再会を心から祝福する。

 同時に、娘が連れてきた仲間達に興味を示すアメール。だが、そんな主人公達への尋ね掛けに、ユノはいちいちと尋常ではない反応を見せていた――――


【~次回に続く~】



【あとがき】

・風邪のひき始めで体調を崩しました。回復次第、投稿を再開します。

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