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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
四章
355/368

拠点エリア:風国における最後の総仕上げ 2391字

 翌日。陽が昇り始めた早朝。未だこの頭上にて蔓延るその雲海からは、僅かに射し込む光の線が着々と姿を見せ始めた。

 雲海を貫き地上を点々と照らす光を浴びるその中で、見上げた虫食いの暗雲を見据えるなり、胸に抱く勇敢なる魂(ブレイブ・ソウル)の底からは前向きな感情が沸々と湧き上がり始めた。昨日までのどしゃ降りをもたらした不穏の暗雲が、射し込む光によって次第と晴れ晴れとなる遥か頭上での現象。それを眺めている内にも、この、運命という一切とも見通せぬ眼前の困難から、そのほんの僅かと射し込んだ希望の可能性を見出すことができた気がしたものだった。


 目指すべき道標を辿りながら進んでいく目の前の道のり。今もそれと真っ向から向き合いながら、主人公アレウスはまた新たなる冒険へと臨んでいく。

 吹く強風がこの背を後押ししてくれている。この後方斜め後ろからはナビゲーターの少女が律儀についてくる。背に受けた様々な勢いのままに気持ちを前へ前へと押し進めていき、拠点にしていたテントから身を乗り出した。瞬間として視界を覆う陽の光に目を晦ましながらもこの歩みを止めることなく、アレウスは向かうべき道のりを辿る新たな冒険への一歩をたった今、踏み出したのだ――




 暗雲と共に訪れた陰りが陽の光によって浄化されていく光景を背景に歩み進めていく主人公アレウスとナビゲーターのミント。目的は既に定まっていた。その位置も把握済みであった。ミントのナビゲーションによって、NPC:ユノ・エクレールの位置は特定されている。あとは、彼女がこの地を飛び出すその前になんとか合流を果たし、次なる運命へと共に臨んでいくただそれのみ。


 この物語を描くルートは既に固定されている。彼女への救済には大幅な難易度の引き上げという代償がついてきていた。今までにも眼前の困難に何度も何度も膝をついてきたこの道のりが、今後は更なる熾烈を率いてこの身に襲い掛かってくる。

 ……上等、もはや負けん気と言わんばかりの空回りな張り切りに任せるがままの選択を行ったことに、何ら後悔も無い。それは、自身が進みたいと望んだが故の選択。ただ、この手で僅かながらの可能性を掴み取ってみせる、その意気込みで踏み出した一歩から始まる新たな物語。ただ、それをこの手で描くそれだけだ。


 万全に整えた事前の準備。アイテムを大量に買い込んで、防具の強化でステータスの向上を図り、スキルの見直しや習得、世界観の把握、行っておくべき事前の準備の大方は万端だった。

 そして、主人公は最後の総仕上げへと臨んだ。これは、これまでにも条件を満たしてきたフラグの精算。これまでの道のりが結果となって目の前に現れる、苦労の産物。今にも、立ててきた様々なフラグが一つのまとまりとなって、主人公のもとへと返って来る。


 次の時にも、主人公アレウスはイベントと出くわした。拠点エリア:風国における最後のイベント。それは、その胸の水縹(みはなだ)の輝きにその身を照らし、我が道を往く特異の存在を知るNPC達からの熱烈なエールと、その前にも用意されしフラグが織り成す、一時でもこの冒険を共にしたとある仲間との別れ――




 雲海を貫く陽のシャワーを浴びる風国の地にて、歩む主人公とナビゲーターの進む道のりを遮るようにふっ、と姿を現した一つの人影。それは唐突に現れるや否やクールに佇み、二人と向き合っては堂々と立ち塞がってきたのだ。

 それを目にして、こちらもまた急く足を徐々に緩めていき、ゆっくりゆっくりと進める歩を止めて向き合った。対峙するかのよう緊張が走る空間が展開され、それの向こうへと向けていた意識もこの時ばかりは眼前の存在へと注いでそちらに集中をしていく。


 ――相対する存在は、一人の"少女"。最近はその煉瓦色の赤い長髪を流していたものであったが、この時の少女は最初の頃と同様となる結ったショートヘアーで、長い髪を少女のトレードマークでもある白色のキャスケットに収めていた。それを深々と被る少女は上着の襟で口元を覆い隠し、若干と俯いた角度から細い視線を覗かせてくる。


 NPC:水飛沫(ミズシブキ)泡沫(ウタカタ)。前回のステージからその流れのままに、主人公の付き添いとして冒険の道のりを共にした仲間の一人。少女の意思とはイマイチ噛み合わず、最初からこの今まで少女との関係はむず痒くもどかしいばかりの複雑なものであった。そして、何とも言い難いアレウスと水飛沫(ミズシブキ)泡沫(ウタカタ)ことミズキのそんな関係を表すかのように、今にもこの空間は環境音が抑えられた静寂を迎えつつあった。


 今回も、少女の不満からこの会話が始まるのだろうか。向こう側の様子をうかがい、暫しと佇んでみたアレウス。互いに声を掛け辛い間柄におけるこの静寂もとてももどかしいものであったが、しかし、今回の静寂はいつもとは異なり、次にも投げ掛けられる辛辣なセリフに身構えることなく、まるで穏やかな面持ちのままで至って冷静に少女と向かい合えたものであった。

 ……そして、ふと予感してしまえていた。それは、アレウスはミズキのセリフを待っているということに。少女の表情で分かった。このもどかしい関係で中々に言い出せずにいた、その喉に詰まらせ思い通りに口にすることができずにいた思うがままの言葉が控えていることを……。


 そして……それを理解してからというもの、そのまま佇んではセリフを待ち続ける主人公アレウスの真っ直ぐな瞳に。それに直視されて、もう堪えかねたと言わんばかりに突然と不愛想な表情を見せたNPC:水飛沫(ミズシブキ)泡沫(ウタカタ)。そうして表情に変化が及ぶと同時にして、主人公は風国における最後のイベントのその一つ、ミズキとの別れと直面する――――



【~次回に続く~】

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