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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
四章
353/368

使命の遂行 ② 2840字

 暗雲の陰りが蔓延る風国の地に、主人公アレウスとナビゲーターのミントは二人その場に取り残された。

 二人は吹く風になびかれ、ただその場で佇んでいた。特にアレウスは、目の前で交わしたユノとの別れに、そのあまりにも唐突な出来事に吹く風の撫で掛けてくる感覚にもまるで意識が向かずにいたものだった。


 メニューを開き、アレウスは情報を確認する。そしてすかさず今組んでいるパーティーのメンバーへと注目をすると、そこには今までにその名が記されていたユノ・エクレールの文字が綺麗さっぱりと消え去ってしまっていることを確認することができたのだ。

 ……あぁ、そうか。ユノは自身の使命を遂行するべく、本当に旅立ってしまったのか。今になってユノと別れ離れになった現状にようやくと理解が追い付き、次の時にもそれが実感となり、訪れた喪失感にこの胸が締め付けられた。


 初期の頃からずっと、この欄に名前を記し続けてきたこれまでの道のりをふと思い返す。そうして巡ってきた更なる喪失感に、突然と孤独を感じ始めた。そして、彼女を見送った目の前の光景へと視線を向け、旅立った彼女の背へとこの手を伸ばしてもそれが一切と届かない空を切る手に、その瞬間にも主人公アレウスは心寂しき実感のままにただ茫然と、ただ眼前の光景を捉えることしかままならなくなってしまった。


 目の前の現実に心が囚われた。巡ってきた喪失感は、未だ未熟である主人公へと与えるには十分な精神的ダメージを蓄積させた。いや、むしろ主人公が彼女に頼り過ぎただけであったのかもしれない。どちらにせよ、その思考をどれほどと巡らせようとも、NPC:ユノ・エクレールという唯一の仲間はもう戻ってきやしないのだ……。



 アレウスは立ち尽くした。それまでずっと頼ってきた道標を突如として失い、アレウスは次に進むべき道のりを見出せず迷いを生じさせていた。……どうすればいいんだ。一体、どうしたらいいんだ。去って行った彼女の身も案じていたものだったが、それ以上にアレウスはショックで身も心も身動きを取れずにいたものであった。


 ――俯く主人公。交錯する様々な感情が混じり合う勇敢なる魂(ブレイブ・ソウル)にそればかりへと感情を左右され苦悩する主人公へと、その傍にて仕えしナビゲーターがこの第一声を発した。


「ご主人様、報告がございます」


 それを受けたアレウスは鈍い動作で反応を示した。急な仲間との別れにも一切もの動揺を見せない少女の律儀に佇む姿を目にして、その時にも主人公アレウスは僅かながらの希望を見出し見据えていく。

 振り向いてきたご主人の、活力の無い瞳と向き合って。心が弱ったご主人の瞳をじっと見つめながら、その律儀な様子の律儀な喋りで、代わり映えの無いいつもの調子で少女はセリフを続けた。


「ただいまをもちまして、ご主人様のもとには二つの選択肢が与えられました。こちらの選択肢も依然とまるで変わりなく、それらはご主人様にのみ宿りし、こちらの電脳世界の行方を定めるに等しきこの世の運命を揺るがす特異によるもの。要は、先にも使命を遂行するべく旅立たれたユノ様のように、現在もご主人様が直面する眼前の選択肢からの選択もまた、このゲーム世界を旅する主人公に課されし、主人公が成すべき使命の遂行なのでございます。電脳世界にて目まぐるしくと回るたった一つの羅針盤。どの針を指すにしてもそれ相応の結果をもたらす、向かうべき世界の行方の、その確定。今も羅針盤は主人公へととある提案を提示いたしました。それこそが、ご主人様へと委ねられた二つの選択肢。よくございますね、こうした会話の中にて、それを収めるウィンドウに重ねられるよう表示されるイェスとノーを。まさしく、それでございます。思いに耽るご主人様ではございますが、ご主人様には主人公に相応しき使命を遂行してもらわなければなりません。よって、思考が鈍感となった現在の感情にて、ご主人様にはこの世の行方を定める重大な選択を今、行ってもらいます。……休んでいる暇などは、決してございません。至極過酷な境遇に立たされるご主人様には共感をいたしますが、これこそがご主人様の役割でございます故、その辺りをどうかよろしくお願いいたします」


 暗雲から鳴り響いた稲妻の音。それを耳にして直ぐにも、立ち込める不穏を告げるかのように突然の雨が降り出した。

 それは直にもどしゃ降りとなり、瞬く間にアレウスとミントはずぶ濡れとなる。天からの大雨を受けても尚その場で立ち尽くし、風に乗ったそれが二人のもとに打ち付けられる。一粒一粒の雫に乗せられた勢いに、殴りつけられているような強い大雨を横から受けて思わずとよろけるナビゲーターの少女であったが、それもすぐさま姿勢を立て直して目の前の主人公へと向き合っていく。


 アレウスは、微動だにしなかった。目の前の少女へと向けた視線、しかし意識は未だに喪失の感情へと注がれており、あまりもの思いの強さから、他からの干渉を一切と受け付けることがなかった。

 そして、少女もまた目の前の主人公へ真摯に向き合った。運命そのものを背負いしこの世界の希望へと仕える者として、少女もまた自身の使命を遂行するべく打ち付ける大雨に耐え忍びながらセリフを続けていく。


「ご主人様、どうか目と鼻の先にて停滞する電脳世界へと向き合いください。ご主人様は云わば、巡る運命の羅針盤そのもの。主人公アレウスは、この電脳世界をある意味での終焉へと導きになる、運命の申し子なのでございます。言ってしまえば、ご主人様が存在をするからこそ、現在のこの世界がございます。ご主人様がこの電脳世界との干渉を止めたその瞬間にも、この世界は時が止まったかのようにあらゆる活動が停止してしまいます。ご主人様が存在するからこその、この世界なのです。"主人公が活動することで初めて機能する世界"なのです。なので、どうか……お目覚めください、ご主人様。その感情に囚われし"ご主人様の中身"を、どうか己が自身で突き動かしください。――これが、ゲームという電脳世界のその内部にてあらゆる困難へと立ち向かいし、主人公という特異的な存在の務めなのです……!!」


 それは、私情も含まれた少女の訴え。自身が存在する世界の停止を食い止めるべく働き掛ける、この世の停止を何よりも恐れる悲痛な訴え掛けだった。


 どしゃ降りの大雨の中、少女の訴えに僅かと反応を示した主人公。微動するアレウスに、それを待っていたと言わんばかりに少女は両手を持ち上げ、その小さな掌からぽっと浮かべた二つのホログラムを主人公へと見せていく。

 ……次にもぼうっと浮き出たそれら二つの選択肢へと目を配った主人公アレウス。両手から浮き上がる、使命のままに選ぶべきそれらへと意識を向けた主人公へと、ナビゲーターの少女はセリフを続けた――――



【~次回、使命の遂行 ③に続く~】

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