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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
四章
350/368

集いしNPC達 3079字

 その晴天に暗雲が立ち込め始める。陽が射す強風に吹かれるその地には、直にも陰りが蔓延り始めた。

 不吉な空気。淀みを思わせる、気が圧し掛かる空間が展開された。それは、ダークスネイクを中心として、彼に注目を向ける皆が抱きし不穏の予感の結晶。これは聞かなければならない。だが、一方として、これを聞いたら後悔をする。その真実を知ってはならないような気がして、皆は彼が喋り出すその時を、それを知りたくて、されど、それを知りたくなどないその複雑な心境を胸に、ただ待ち続けていた。




 ユノが周囲の皆へと目を配る。ミントは、この小さな身を包み込むように両腕を絡めてくるユノに抱えられながら、ただ律儀に佇む。トーポは静かな緊張を帯びながら、目の前の孤高の蛇をただじっと、じっと見据えていた。

 貫く沈黙。淀んだ空気にその舌が中々と持ち上がらない。皆の様子をうかがい、心して集った皆の姿に一つ頷いたダークスネイク。そのアクションをトリガーとして自身に思考を巡らせ、その勢いのままにダークスネイクはその口を開き始めたのだ。


「まず、だ。まず、その大いなる期待は大いに裏切られることであろう。この我も、すがりつく貴様らを落胆させようとする意地の悪い目論見を、一切と思考してなどいない。これは、冗談が許されぬ、至極繊細なる空間なり。……だから、この先にも我が口にする真なる実を耳にし、その過敏となった神経を活性化させ激昂する者が出現する事態に陥ろうとも、この我には微塵もの悪意は無し。…………つまり、これから提供する情報は、この我がたまたまこの耳に聞き入れた邪悪共の企てのそのほんの一部分。それを聞きし貴様らが逆上の念に苛まれようとも、それは邪悪共が交わし合った真実であることを、そして、我が聞き入れし言葉の、真の全容であることを予め承知しておいてもらいたい。それを聞いてどれほどと怒ろうとも、その言葉が飛び出してきたことは紛れも無い真実なのだ。それを耳にしてパニックを引き起こそうとも、それでも我には貴様らを弄ぶような意向など一切無かったことを、事前にもそう把握願いたい。――特に、トーポ。貴様には、一切もの動揺も許されぬ。それは、貴様という、皆の柱の揺るぎを示すこととなり、柱が揺るぐことそれ即ち、自身らに危機が及ぶ前兆であるということを皆は予感し、これからにも降り掛かる最悪の事態を想起させ、風国にて身を寄せ合う皆は恐怖に支配されてしまうことになるだろう。貴様が身震いするその姿は、誰一人にも悟らせるな。頼りである貴様が恐怖する姿など、誰一人とて望んでやいないのだからな」


「心遣いに感謝をしよう。事前の忠告、肝に銘じておくさ」


 そう、常に穏やかな様子で返しては続きを促したトーポ。それよりも、早く真実を知りたい。その情報に飢えし非道なる鼠に唆されて、ダークスネイクは一息を置いてその提供を開始した。


「それらの言葉を要約すると、〈魔族〉という存在は、この世の終焉を望まない種族であることがうかがえた。それを耳にして、早速と既に想定する期待を裏切られたことだろう。そして、我は思う。これは、自然の摂理に従いし一種の、一つの勢力が織り成す生存競争の一環、として捉えるべき案件。要は、〈魔族〉という至極強大な力を宿す邪悪共は、我々も属するこの生態系の頂点へ躍り出ようと奮起しているに過ぎないのだ。人間が引き起こすそれらの事態で例えるとなれば……そう、下克上、のようなものだな。故に、〈魔族〉という邪悪の化身共は何よりも我々人間を敵対視し、それからなる憎悪の感情を糧に、各々が抱きし使命を遂行していることは確実であろう。――"ヤツら"は生態系の頂点に君臨するべくその猛威を振るっていることを、貴様らにも認識してもらえたことだろう。そう、生態系の頂点だ。故に……"ヤツら"の敵は、なにも人類だけではないということだ。それは、その生態系に存在するその全てを、"ヤツら"は敵と見なし、その邪悪なる強大な力を以ってして捻り潰そうと企てているのだ」


「つまり、君はこう言いたいんだね。それを直入に言ってしまうとすれば、〈魔族〉という種族は世界征服を企んでいる、のだと」


 まぁ、その可能性を最も考慮するべきか。と、そう付け加えて考え込み始めたトーポ。それが決して有り得なくなどない話であることに、彼は想定内でありながらも非常に参ってしまったようである。

 彼の様子とは別に、ダークスネイクはこの流れのままに話を続けた。


「貴様らも既に知る通りに、"ヤツら"の野望は途方が無いほどにまで大きなものだ。これはもはや、我々人間共のみの問題に非ず。これは、この世その総てに渡る、生存競争の乱れを暗示していることだろう。つまり、〈魔族〉という歯止めの利かぬ圧倒的生命エネルギーがこの世に降臨したことにより、この世は自身らの破滅を予感し、本能からなる戦慄を迸らせ、自身らの安永を体現するべく実力行使を以ってして眼前の脅威に対応していくことだろう。……この時を以ってして、従来の生態系は崩壊したのだ。〈魔族〉の出現によって、これまで正しいと思い込んできた歴史が大いに覆されてしまったのだ。世は正に、全面戦争、の時代を迎えた。〈魔族〉という存在に恐れ戦き、信用ならざる外部の存在に厳重な警戒を行い出す。これからは様々な方面から、それ相応となる脅威が降り注ぐことだろう。それは、知恵を武器に、あらゆる知識のもとで物事を万事解決へと導いてきた人間という種族は勿論、〈魔族〉という邪悪の化身がこの世に闇をもたらし、動物や人型といった様々な形を成すもう一つの強大な生体である、一般的な名称で言うモンスターとなる種族達も、本能から自身らの危機を悟り、それら各々が宿せし己の脅威を用いることで我々や〈魔族〉という外部の強大な敵共へと歯向かうことだろう。これは、脅威とされる生き物に過ぎた話ではない。動物も、群を成してその牙や爪を向けることだろう。水生にて息を潜める生き物も、天空を根城とする生物も、そのありとあらゆる生体が反撃の狼煙を上げ、我々に打ち勝つべくその猛威を展開する可能性も無きにしも非ず。ましてや、植物も思考回路を巡らせてこの戦争に加わるやもしれん、鉱石も強大な力に抗う術を身に付けて参戦するやもしれない。――この世はもはや、我々が知る人の世ではないのだ。世は既に、強き者が正義であり、弱き者が虐げられる悪しき者として判別されし、弱肉強食こそが真理である無法の世となったも同然なのだ……」


 誰一人として、彼に異を唱える者はいなかった。

 皆、その口を噤んだ。彼の大袈裟な表現に対し、否定することも肯定することもないこの沈黙の間は、今こうして存在する我々の世界が、如何に深刻な情勢へと陥ってしまっていたのかを悠々と物語っていたのだ。


 それも、起こりかねない。その可能性も有り得てしまえる。それを想定することができるからこそ、皆はこれまでに直面することの無かった"自身ら"の危機に、その一歩も踏み出せぬ至極慎重な心持となってしまっていた。皆が、その場に囚われていた。人間は、自身らが置かれしこの場所から身動きできずにいた。それもそのはず、これまでと自身らが統治していたこの世にて、未だ知り得ぬ存在が蔓延り、それに感化され活性化した知り得る脅威に今も囲まれていることを悟ってしまえたから。だからこそ、これまでに抱いたことの無い、絶対的な窮地を理解してしまえて、皆はただ、凍り付く背筋の冷え込む感覚に、一種の脳死状態を迎えていたのだ――――



【~次回へ続く~】

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