拠点エリア:風国 ⑦【トーポへの質問:風国編】 3696字
トーポから、『魔族』に関する情報を得ることができた。それは重大機密情報という一括りでお偉いさんに管理されているらしく、その内の極一部分のみの情報を彼からこっそりと教えてもらった。その一部分の情報でさえ、外部への口外が一切と禁じられているらしい。それをトーポは意気揚々と、陰で行われる情報漏洩のスリルを味わうかのように楽しげに話していたものだ。
『魔族』という存在には、まだまだ謎が多かった。そして、人間とも少なからずの関係があることをほのめかすその不可解な情報は、主人公アレウスの今後の冒険に深く関わってくることを遠まわしに伝えられているような気がした。
次は、風国に関することを尋ねよう。主人公アレウスは、画面に映し出された選択肢を選んだ。それを選択するなり、この脳裏に巡ってきた言葉でトーポへと尋ね掛けていく。
「そういえば、風国の復興は如何なものでしょうか? 『魔族』の件が常に付き纏うことから、復興は順調……とはとても言い難い状況かもしれません。でも、俺は思うんです。この流れであれば風国の復興は順調に進むだろうなって。毎日、この目で風国の全容を目にしているものですが、事ある毎に隅から隅まで事細かに風国という地を眺めているだけはあって、そう何となく感じられるくらいにまで回復しているなという風国の現状が分かるんです。飽くまで素人目線の感想ではありますが、それにしても被災したとは思えないくらい風国には活気が満ち溢れています。これも全て、皆が復興に力を尽くしてくれている影響が大きいですよね。ユノもジャンドゥーヤと共に復興に貢献しています。悪魔のような外見のジャンドゥーヤではありますが、その毛深い外見がもふもふしていて、顔もこわもて可愛いとして、今や風国のマスコット的な存在として皆を元気にしてくれています。ユノ自身も最前線に立って活動してくれています。ルージュシェフも、皆さんにあの絶品料理を振る舞ってくれています。賄いとして手早くつくった料理で皆を美味の虜とし、彼女の美味を糧に皆が奮起する場面を何度も見てきました。あと、ダークスネイク。スネイクのやつとは、あれ以来一度も会っていないのでよく知りませんが、まぁ皆の口ぶりからしてあいつも風国に多大な貢献をしているらしいですね。俺もミントも、風国に力を尽くす活気の一部として活動しているために、風国の現状というものがとても気になります。そんな皆の努力が果たして形として実っているのかどうか。やっぱり、この地を死守するべく戦場を渡り歩いた身としてはどうしても把握したいなとは思うのです」
話を切り出した後にも、被災した方にその地のことを尋ね掛けてしまったことに疑念を抱いてしまった主人公アレウス。続け様に失礼な質問を投げ掛けてしまったかな。不安に駆られて、頭を掻いてしまう。
しかし、その想定とは反してトーポはすごく嬉しそうな表情を見せた。顔を上げたその瞬間のみに垣間見せた笑みは、まるで自分の宝物が褒められた時の、それが認められた時の嬉しさを醸し出していたものだ。
すぐにも穏やかな様相を見せたトーポ。眼鏡の位置を直す仕草を交えて間を挟んできたものだったが、やっぱり彼としては風国という名が挙がるだけでも余程なまでに嬉しいらしい。
それからの彼のセリフは、とても感極まった調子で喋られた。それは声音に留まらず、身振り手振りも交えて、トーポはとても楽しそうにセリフを話し始める。
「あぁ! それはそれはもう、皆には感謝してもし尽くせないほどに我々はそのもたらされる厚意を賜っているものだ。先にも、君が放つ影響力の話をしたね。アレウス・ブレイヴァリーとミントちゃんの働きも、ちょくちょくと耳にしているよ。それは、頼み事を受けたら無茶をしてでもこなすために奮起してくれちゃう新米冒険者がいるってね。それも、小さい相棒を連れて風国を縦横無尽と駆け巡っていると。振り向くといつの間にかそこにいるって、君らの行動力を褒めていたものだ。あと、僕の方からも君らに礼を伝えなければならないことがある。それは、邪悪によって闇の侵食が進んだデスティーノ・スコッレと風走る渓流の探索に先陣を切って参加してくれたこと。事例の無い侵食に誰もが恐れを抱いたものだったが、そんな中でもアレウス・ブレイヴァリーは勇敢にも見回りをこなしてくれた。そして、探索の成果がまとめられたミントちゃんの報告書も実によくできていた。まだまだ小さいのに、一体どこでその術を身に付けたのか。アレウス・ブレイヴァリーの傍についているだけあって、君もまた不思議な子だよ。そんな二人の活動は確実に、この風国の復興に繋がっている。あぁ、本当にありがとう。君らのおかげで大いに助けられてしまっている。その甲斐もあってね、なんと、ビッグなニュースが僕のもとに舞い込んできたものだ。聞きたい? 聞きたいかい? しょうがないな~。それじゃあ、まだ未発表である報告なのだけれども、特別に君らにだけちょこっとだけ話しちゃおうかな??」
堪え切れないとばかりにトーポはそのセリフを口早に話したものだ。未発表という報告も、誰かに早く喋りたくて仕方が無かったのだろう。我慢の限界が訪れたトーポは、彼のキャラクター性にまるで見合わない両手を広げる動作で喜びを演出しながら、そのセリフを口にした。
「なんとね。なんとねなんとね。風国の復興の目処がついてしまったんだよ~!! あっは~! 僕としてももうこの地はダメかもしれないなんて諦めていたもんだけれども、でもそれでもどうしてもなんとかならないかと様々な人達に掛け合ってみた。そして、この築いてきた立場や実績が功を奏して、それに加えてのテュリプ・ルージュからの支援もあって予算の問題が解決したんだよ! 金さえ掛ければこの風国は復興できる! 元の姿には戻らずとも、ニュー風国を再建する程度の段階にまで持ち込むことができたんだ! 周囲の環境も、生態系に大打撃を与えられたことから絶望的だった。しかし、ミントちゃんの報告書に目を通して希望を持てたよ。動物の目玉が付いた芽を発見したんだって? それは、今正に新たな生態が築かれようとする偉大なる発見だ! 土台を失った生態が、今新たな土台を形成しているその真っ只中だ。しかもそれは、生態系が滅びを迎えた死した地帯にのみ芽生える命の息吹。未だ開拓の進まない未知なる領域でもないとお目に掛かれない奇跡的に珍しい現象だ。この僕も、報告書を投げ出してまで駆け付けた。初めて見たよ。感激だったよ! そして、僕の様子から未知を感知したユノちゃんも、僕を追い掛けてきてそれを一緒に見た! 一緒に感動した!! ……デスティーノ・スコッレと風走る渓流も、これからまた新たに生まれ変わる。風国も、周辺の渓流も、日に日にと復活に近付いているよ。いや、復活というよりは、新生風国、とでも言えるかな。新たに築かれるこの地帯は、一度の滅びを迎えて再度と生まれ変わる!! 風国はその息吹を取り戻したのだ!! ――あとは、『魔族』という存在をどうにかしなければならない。これがのさばっている限りは風国は常に危機的な状況下に立たされてしまう。だから、そのためにも一刻も早く『魔族』を滅ぼさないとね。野放しとなった害悪共をこの手で一匹残らずと駆逐し、制裁の名の下に風国にて吹きすさぶ神聖なる風も届かぬ地獄の深淵へと突き落としてやる。そして、"ヤツら"を肥やしにして渓流には元気いっぱいになってもらわないとね。新たな命の息吹が芽吹く神聖なる風の地。こうして風国が生き延びることができたのも、アレウス・ブレイヴァリーとミントちゃんのおかげであると、僕はそう思うよ。君が放つ影響力には目を見張るものがある。どれ、僕の古き知人達にも君らを紹介してあげようかな。きっと、君らを手厚く歓迎してくれることだろう。僕の人脈が成せる君らへの感謝を込めた最大限ものお返し。その後報をどうか楽しみに待っていてほしい」
そのセリフを最後にして、トーポは再び膝の上に置いた分厚い本へと目を通し始めた。それにしても、嬉しい報告が舞い込んできたものだった。先までの『魔族』で重苦しくなった気持ちが一気に軽くなった気がした。
一区切りとついた彼との会話。画面にはまた選択肢が表れて、主人公アレウスは続け様とその選択肢を選択した。その内容は、NPCに関すること、という質問だった。なんとも大まかな選択肢だった。
それを選ぶなり、主人公アレウスの脳裏にはとあるNPCの姿が思い浮かんできた。それは、大まかな内容からパッと連想した一人の謎多き"彼女"の、まるで陽の温もりを帯びた太陽のような存在感。知らないことに目が無い彼女は、自身が未だ知り得ぬ事象を好奇心のままに自由気ままと追い求めていく。クールビューティな外見からは全く想像し得ない天真爛漫なその活動もまた、彼女の個性であると捉えることができるだろうか。ふと思い浮かべたNPCを脳裏に、主人公アレウスは最後の質問、ユノ・エクレールという人物に関することをトーポに尋ね掛けた――――
【~次回に続く~】




