双頭の蛇竜①
「死神よ、貴様は自らの巡り合わせに後悔することだろう!! 貴様がこれから目撃するは、我が内に宿りし信念の深遠を根城とする、魔の結界を伝い空間を無辺際と渡り獲物を惨く残酷に喰らう純黒と銀灰の蛇竜の群れ!! 我が内に宿りし獰猛な蛇竜の毒牙によって。我が同胞の残骸と共に、この地へと帰すがいい!! …………つまり。お前は、この"召喚獣"によって倒される運命なのだ!! 覚悟しろ!!」
両腕をクロスさせた禍々しいポージングと共に、その煌く紫の魔方陣から発出するよう飛び出してきた、二匹の巨大な蛇。
それぞれ、黒と灰の斑と、黒と紫の斑という二種類のそれらは、魔方陣から飛び出してくるや否や、互いに交差を繰り返す変則的な動きを行いながらこちらへと飛来し。それらは共に巨大な口を開き、この存在を丸呑みにせんと襲い掛かる。
その禍々しい独自の雰囲気から、それが敵NPCであることはある程度もの察しはついていたものの。しかし、反応が遅れ対応が間に合わず。持っているクリスタルブレードを構えたその時にも、襲い掛かる二匹の蛇は巨大な口の影でこちらを包み込み。しゅるしゅると生々しくうねる舌をこの身体に巻き付けて、口を閉じ始める――
「ッまずい!! ――ブレードスキル:エネルギーブレードッ!!」
見るからに即死攻撃である蛇のアクションにすぐさまとブレードを振り被り。剣に宿した青白い光源で思い切りと払い黒と灰の蛇の口内を攻撃する。
その一撃で怯んだのか、巻き付けられた舌は緩みこの身は解放される。
だが、もう一匹となる黒と紫の蛇が頭の位置を固定すると、その口からもくもくと溢れ出す毒々しい煙を噴き出し始めて。徐々と震え出す頭部と。瞬間、ガラガラな鳴き声と共に口を広げ、毒々しい紫のガスをこちらへと噴出。
咄嗟と回避のコマンドを選択し、側へ飛び込み前方から噴出されたガスを避けることができた。
……だが、その回避後の隙を狙うかのよう、先程と丸呑みにせんとした黒と灰の蛇が再びと襲い掛かり……。
「ぐッ!! ぉあッ――!!」
先の丸呑みから一転として、その直進するままの勢い余る頭突きをかましてくる黒と灰の斑。
敵の動きを見切れず、頭突きに衝突されたそのままの一直線を描き運ばれて。崩落した建物の残骸にぶつかり勢いが収まると、その蛇もまた衝突でダメージを負ったのか痛そうな目を浮かべながら主の元へと引き返していく。
土埃や砂埃を巻き上げながら残骸に埋もれ。手に持つクリスタルブレードと左手で瓦礫を掻き分け這い出る。
目の前には、依然として禍々しいポージングを決める敵と二匹の巨大な蛇。魔方陣から乗り出す爬虫類の身体はテカりを帯びており。それぞれ黒と灰の斑、黒と紫の斑であるそれらはしゅるしゅると舌を伸ばしては引き戻すを繰り返していて。こちらの様子をうかがい、そして、身体を伸ばしては。先のような連携を成す変則的な交わりと共に再びと襲い掛かってくる――
「っ"召喚獣"か。ユノのジャンドゥーヤと同じ原理だろうから、ヤツの職業は召喚士と見て良さそうだなっ。……あれは中々に厄介だ。まずは、行動をよく見てモーションの特徴を掴んでいかなきゃな」
多少もの分析を行い、瓦礫から飛び出しては走り出し、眼前から迫り来る二匹の巨大蛇へと駆け付ける。
真っ先と攻撃を仕掛けてきたのは、黒と灰の斑である蛇。後先も考えていない特攻の末だろう勢いだけの頭突きを回避し、この脇で勢い余るそのままに地面を貫通し突き刺さる。
その衝撃が大気を伝い、回避行動で飛び込んでいたこの身のバランスを崩す。すぐさまと体勢を立て直そうと自身へと意識を向けるが、しかし、ほんの僅かと意識を逸らしたその隙を突かれ、黒と紫の斑である蛇が吐き出してきた毒々しい液体の塊を直で食らうハメに――
「ぐぼッ。ごぼっ。ごぼぼッ――ごほァッぁ」
粘着性のある液体に一瞬と捕らわれ、身動きのできない焦りと窒息によって、瞬間とチラついたゲームオーバーの文字に胸が締め付けられる感覚を覚えて。
身体中にスライムがへばり付いてきたようなそれを必死のもがきで払い落としていき。
……だが、脱出と同時に巡った自身の異変に、この足を止めてしまうこととなった――――
【~②に続く~】




