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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
四章
240/368

疲労系主人公

 色取り取りなパステルが、その吹き抜ける風を彩る。風という自然と共に生きる街、風国。

 その地特有となる風に背を押され、眩しいほどに鮮やかである街並みを駆け抜けるその爽快感は。この、風の都という爽やかな活気と共にあるような、その地、この自然溢れる神聖な地の一部となった一体感を肌に感じることができ。それは、この足に疲れ知らずの元気の源として、その新鮮な空気は常に身体中を巡っていたものだ。


 ……だが、この日に関しては、その爽快感とは全く異なる感覚。焦燥の一種。焦りの念を抱く、気持ちの良くないある意味でひんやりな爽快を身体中に巡らせながら。この額には汗を流し。この手にはクリスタルブレードを握り締めて。

 歯を食いしばりスタミナの許す限りの全力疾走を行い、騒ぎの起こる戦闘の地へと赴き続けていた――




 陽が沈み始めたその時刻。段々と茜色がこの白と灰色の街道を染めていく時の流れの中、図書館のような宿屋のラウンジにて目の前に存在するNPC:トーポが話し始める。


「ふむ。これは、想定していた事態とはまるで異なる展開ばかりだ。あのフェアブラント・ブラートと思考を共有し合い、優秀な推理力を持つ彼とこの脳に巡る様々な可能性を探り仮定を立ててそれに伴い行動を起こしてきたものだったけれども。どうやら、それらは全て悉くと、"彼ら"の思考回路を辿ることもできなかった的外れな戯言と化してしまったようだ。僕は、アレウス・ブレイヴァリー、ミント・ティーちゃん、ユノちゃんやテュリプ・ルージュ、その他の街の皆に偽りを吹き込んでしまったことになる。どうか、こんな老い始めの、先見性も持たぬ男のホラ吹きを許してやってくれ」


 白い縁の眼鏡を直す仕草を交えながら。眉をひそませ、その横線のように細い目で真っ直ぐとこちらを見つめては困った様子で謝るトーポ。

 そんな彼からの言葉を耳にして、今日一日は戦闘続きで散々と動き回り、疲れが溜まり疲労のままに無気力な表情である主人公アレウスは。この、意識をしても尚愛想笑いも行えない、顔の神経に力が行き届かない無気力感に更なる疲れを感じながら。困った様子のトーポとは、またちょっと違う横線の目で、ただ無言のまま頷いていくことしかできずにいて。


 ……もう、個室で休みたい。

 どっと圧し掛かる疲労で、脳裏はそんなことばかりを呟いていく中で。目の前の彼は、相変わらずとその場で考えをめぐらせては、この主人公をイベントから解放させることなく思考やら推理やらを行い始めていくその光景。


「……それにしても、やはり、どこか、何かが気になる。なぜ、このタイミングで『魔族』ではなくモンスターが街に襲来してくるのか。『魔族』が襲来するだろうその予定には、どれも妙に活性化したデスティーノ・スコッレと風走る渓流のモンスター達が大群となってこの街に雪崩れ込んでくるものなのだが。……この事象を、ただの偶然と見るにはあまりにも都合が良すぎるか。では、これは『魔族』を引き金にしたアクシデントかハプニングか。しかし、『魔族』とモンスターには何ら一つもの関係性もなく、それどころか、敵対関係であることも極僅かと残された『魔族』に関する歴史の文献にそう綴られていた。っそれか、これら一連の出来事は、『魔族』という存在に恐れ戦いたモンスター達による錯乱状態が招いたものだったのか。にしては、彼らの出現する場所にはある程度と存在する規則性が測れなくもなくて……うーむ。如何せん、今の状態だとあまりにも情報が少なすぎて、これ以上と正しき真実へと辿り着くのには困難を極める。取り敢えず、今日は一日中と、モンスターの対応にあたってくれてありがとう、アレウス・ブレイヴァリー君。そして、ミントちゃん。さぁ、今日はゆっくりと休んでくれたまえ。また、こちらの方で何かが分かり次第、君達にそれらの情報を伝えることとしよう」


 この日は、陽が昇り始めた朝の時刻から、その太陽が地平線へと隠れ出す夕方の時刻までとえらく長くと続いた重労働。


 この、風国という地域の安泰のために。この街に住まう皆のために。そして、この世界で生命を育むNPC達と共に迎えるハッピーエンドのために。

 ……とは言え、今はそんな無駄口を叩ける暇があるほどの余力は微塵も残っておらず。トーポに別れの一言を告げてから、今日一日の過酷なスケジュールに付き合わせてしまったミントの鳴り止まぬ腹を満たすためにも、宿屋の奥の食堂へと直行する。


 食堂へと続く扉を開けた先に広がる白と灰色の明るい空間を眩しく思いながら。今日もガラ空きである食堂の中央へと移り席に座り取り敢えずと一息を挟む。ミントも同様に腰を下ろすものの、今にも口から零れてきそうなヨダレが若干と光っていたことから、相当にまで腹を空かせてしまっている模様……。


「すまない、ミント。多分、厨房に誰かいるだろうから自分で頼みに行ってきてくれないか? 俺、ホントに疲れてしまってしばらく動けそうにないぃ……」


「承知いたしました。――ご主人様。今日は大変な過労を強いられる、極限に近き負担と体力の限界が身に堪えるメインシナリオの進行、お疲れ様でございました。今回のイベントをこなしたことにより、メインシナリオには本筋のルートを辿るフラグが立ち上がりました。これにより、引き続きメインシナリオによるイベントの発生が確定的となったために、何時、如何なる唐突なイベントに対処できるよう十分な疲労の回復に努めていただく方が賢明かと。故に、ご主人様は一足先に個室でお休みくださいませ」


「ありがとう。ただ、今は何となくここで休みたい気分なんだ。ミントが夕食を済ませた時にでも、一緒に個室へと戻ろう。そして休もう。そして眠ろう……次の大変なイベントに備えてぇ……」


 項垂れる上半身。力が抜けていくようにぬるぬると崩れ落ちていっては、テーブルと平行になるよう完全に力尽きたこの半身。

 そんなこちらの情けない様子に、だが、真面目な瞳を向けて頷いてくれるミントに少女の誠実な無意識の優しさを覚えながら。厨房へと向かっていくミントを、テーブルに項垂れた視界で見送って。


 ……ひどく疲れた。

 あちらこちらからと、制限無くじゃんじゃか湧いてきたモンスターの大群を相手にしたその疲労で、直にも薄れ始めていくこの意識。


 眠りそう。それを思った瞬間にも、この意識が飛ぶ、フッと視界がフェードアウトする感覚によりこの瞼は閉じられたことだろう。



 ――というその時にも、どこからか掛けられたその言葉。


「あ、あの……。だ、いじょうぶですか……?」


 瞬間、その瞼は反射的にパチィッと見開く。

 次の時にも、反射的と起き上がった上半身は勢いよく動き出し。それにビクゥッと敏感に反応を示す目の前の存在。


 百六十三ほどの身長。黒、焦げ茶、暗めの赤という色々が混合するチェック柄のポンチョに上半身を包み。真っ黒の一色に染まる、ロングスカートのような七分丈のガウチョパンツ。口元や鼻を覆い隠す真っ黒なロングマフラー。無難に履いている焦げ茶の運動靴。そのふくらはぎ付近にまで伸ばした、深緑の青みと黒みが強いとても濃い緑色の超ロングヘアー。華奢な輪郭からはみ出る、黒い縁の大きな丸メガネ。その瞳もまた黒く、こちらから見た少女の右目の近くにはワンポイントのほくろがぽつりと。


 NPC:バーダユシチャヤ=ズヴェズダー・ウパーリチ・スリェッタはその胸に籠を抱えながら、力尽きていたこちらの姿を弱々しい怯えた瞳で見つめていたものだ――――



【~次回に続く~】

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