NPC:トーポ・ディ・ビブリオテーカ
「やぁ初めまして、だね。君達とはお初だろう? うんうん、どちらも、ユノちゃんの元気な姿についていけるような良い顔をしている。さすがは、ユノちゃんの仲間をしているだけはあるね。おっと、まずは自己紹介だね。僕は、この宿屋:ア・サリテリー・インを経営する、オーナーの『トーポ・ディ・ビブリオテーカ』と言う者だ。よろしくね」
おっとりとしていて、どこかフラフラとしたやんわりな優しい調子の喋り方である彼。
白のYシャツに青のオーバーオールという、なんとも無難な印象を与える服装であり。外見の特徴は、ほぼ寝癖であろうぼさぼさな具合の、淡藤色の淡く薄い青紫のショートヘアー。白色の縁の丸っこい眼鏡。割と色白で、年相応とも呼べるだろうシワが若干とも伺える。
又、目は横線の如く至極細い。その様相から、なんだか穏やかな表情がとても印象に残るその存在こと、NPC:トーポ・ディ・ビブリオテーカ。
先の会話からは、何か、ただならぬ力を持つ人物であることが伺えたために。そんな彼にふと声を掛けられたときにも、俺はドキッと心臓が縮こまる思いを一瞬とも感じながら。無意識とかしこまりながら、こちらもまた自己紹介を行っていく。
「ど、どうも。オーナー、トーポ。俺は、ユノに誘われて共に旅をしている、アレウス・ブレイヴァリーです。で、こちらの少女は、俺のナビゲ――……いや、以前にも俺と行動を共にしていた旧知の仲である、ミント・ティーです」
「ご紹介に与りました、ご主人様に永劫的と仕えるナビゲ――……従者である、ミント・ティーでございます。以後、お見知りおきを。トーポ様」
二人して同じ部分でつっかえるという、常日頃と口にしていた言葉に思わずと口ごもるその光景は、実に違和感の塊であったことだろう。
このゲーム世界のNPCにナビゲーターというメタなシステムの言葉を聞かせたところで、まず理解不能なことだろう。それは、この、自身の住む世界の真理に近しい、神のみぞ知る領域であるために。そんな、出会って急に世界の真理を語る理解不能な言葉を出されてしまっては、第一印象が最悪になることはまず必然であった。
慌ててと訂正する二人の様子に首を傾げるトーポであったが。こんな俺達の口ごもる様子を見ては、その穏やかな表情でフフッと微笑を零し、声を掛けていく。
「初々しいね。正に今、この時を生きている最中の活力漲る少年少女だ。なんて羨ましいことだろうか、若いというものは素晴らしいものだね。あぁ、ここは、そんなに緊張しなくても構わない場所だ。生憎、ここは個室から眺められる街並みの絶景と大量の本しかないところだからね。とても宿屋とは言い難い環境ではあるけれど、ここを安息の小屋としてのびのびと活用してくれて構わないんだよ」
「お気遣いどうも……」
ちょっと赤面する俺とミント。そんな様子に笑みを浮かべていくトーポやユノ、ラ・テュリプ。
この場所がどういったところであるのかを。その、落ち着きのある物腰で接してくれる、トーポという存在の雰囲気がある程度と掴めたことで、ひとまずと安堵する俺。その俺の前では、トーポはこちらへと向けていた視線を手に持つ本へと落としていき。再びそれへと目を通していきながら、まるであてもなく話し掛けるよう喋り始めていく。
「まぁいつものように、空いている部屋に自由に入ってくれて構わないよ。今日は特に、がら空きとも言えるくらい誰もいないものだから、好きな部屋を選び放題だ」
開放的な宿屋の仕組みに、あぁ、ここはそういうところなんだなと思えてしまえる中で。トーポの言葉に、すかさずとユノが反応を示していく。
「あら、ここがそんなにがら空きだなんて珍しいわね。いつもは、お部屋が埋まってしまうほど宿泊客がいるものなのに……」
「ほら、ここ最近と騒がしかっただろう。『魔族』とかいう連中が現れたせいでね、利益に大打撃を与えられてしまったものだ」
「ふーん……」
未知を求めている割には、『魔族』という存在にはそれほどと興味を示さないユノ。トーポの返しに軽くと相槌を挟みながら、その足は既に、個室が並ぶ廊下の方へと向かっていて……。
「ほら、ユノちゃんが好きだと言っていた、三階の一番端っこ。そこも今は空いているものだから、自由に使ってくれて構わないよ」
「ホント!? やった!! それじゃあ、私はそこに宿泊をするわね!! あぁ、あの部屋は人気だから、こうして空いていて本当にラッキーだわッ!!」
感極まり飛び上がって、その歓喜を全身で表現を行ってから。その溢れ出す行動力のままにドタドタと忙しなくこの場から走り去っていくユノ。
そんな彼女の脇では、それじゃあ~と部屋を決めに歩き出すラ・テュリプと、本棚に並ぶ本をくまなくと眺めていたミズキ。
各それぞれが意思を持ち行動を起こすこの世界。ここはゲームの世界でありながらも、それらが起こす行動のそれぞれは、その個々の意思によってまるで異なるものであり。
――今も、カウンターを挟んだ向こうでは本の物語にどっぷりと浸かるトーポの姿も含めて。あぁ、この時にも設定されていたイベントシーンは終わったんだなと、そのあまりにも自由な空間を察して俺もまた行動を起こしていくことにした。
「それじゃあ、俺達も部屋を決めるかな」
「承知いたしました。このミント・ティー、ご主人様の意向に沿うお部屋探しのお手伝いをいたします」
いつもの調子のミントを率いて、俺もまた、このゲーム世界に住まう生命のように、個の意思を持って行動を開始したのであった。
【~次回に続く~】




