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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
四章
214/368

宿屋:ア・サリテリー・イン

 満天の青空に流れる雲の群集の下。太陽に照らされ輝く白と灰の街道と、立ち並ぶ四角い建物に塗りたくられた眩しいほどにまで色取り取りなパステルカラーの景色を背景に。

 その地特有となる吹きすさぶ風に背を押されながら、段々となった山形の坂道を上っていき。しばらくと歩き、陽が真上に浮かぶ真昼時の時刻となった今。前を行く彼女らがようやくと足を止め、それに合わせて遅れてやってきた俺とミントもまた、足並みを揃えて立ち止まる。


 拠点エリア:風国に到着してからそれなりと経過した時間。それら景色を十分と目に焼きつけ満足していたところで、この山形を上る坂が続くその途中。段々の中間に位置し、その背面には白と灰に輝く急な側面の崖が存在する、とある危なっかしい一軒の建物の前に辿り着いた。


 外装は、この街並みと似た四角で灰色の三階建てであり。ブロックのような四角い形をベースとしたそれは、所々を均等にくり貫いた、まるでネズミにかじられたチーズのような、全体的にカクカクとしたデザインというもの。

 その外装は、どの街並みにも馴染まぬ独自の形を成しており。それでいて、それを目撃することは、実に久しいものであったのだ。


 ……というのも、この前に滞在していた拠点エリア:マリーア・メガシティの宿屋:大海の木片はこうした形式の建物ではなかったものであり。だが、今目の前の形式は、以前にも訪れ滞在をした拠点エリア:のどかな村と拠点エリア:黄昏の里のそれらと全くの同一であるものであったから。


 ――なるほど。その地における正式な宿屋は、この、かじられたチーズのような形で統一されているのだな、と。詳しい説明は無かったものだったが、これまでの経験や光景からの考察でそんなことを思えたものだった。



 俺とミントが到着し、主人公というフラグが現れたことによって。今この時にも停止していたイベントが、目の前で再び動き出す。

 すぐさまにも行動を起こしてきたのは、最初の頃からまるで変わらずと活発的なユノの存在。


「んー!! こうしてア・サリテリー・インへ顔を出すのも久しぶりかも!! あぁ、また"トーポおじさま"から色々な未知なるお話が聞けるのだと思うと、もう、この、身体の芯から温もりが帯び始める感覚。身体の節々からジンジンと伝ってくる衝動の熱が私の身を焦がしてしまって仕方が無いの!! ――あぁ、我慢できないわッ!! ルージュお姉さま! ミズシブキちゃん! ミントちゃん! そしてアレウス!! さぁ、行くわよ!! 私の大好きな、宿屋:ア・サリテリー・インへッ!!」


 その意気込みや雰囲気は、まるで高難易度のダンジョンに挑む前の決意のようであり。まぁ、その実はただ宿屋へと足を踏み入れるだけという、所謂、盛大に何も始まらないというもの。

 ズンズンと進んでいくユノに続き、衝動に突き動かされ行動を起こす彼女を心配するラ・テュリプが追い掛け、それにクールな様相のミズキがついていく。

 主人公を置いてNPC達が先へ行くこの光景も、ある意味ではお決まりなイベントのワンシーンであることだろう。三人のレディーズに続き、俺もまた歩を進めて眼前の建物の前へと移る。


 視線を上げて、四角い扉の上に掛けられた木製のボードに目を通す。


「宿屋:ア・サリテリー・イン……」


 ユノが言っていたその名が細々と彫られたボード。

 宿屋をしっかりと確認をし、その位置や外見をよく覚えておいてから、俺は目の前の四角い扉のドアノブに手を掛け捻って開ける。


 ガチャリという音を立てて中へと入る。

 その内装は、天井から僅かに灯る灯りに照らされた焦げ茶一色に染まる、横に伸びる長方形な木製のラウンジ。目の前には受付カウンター。左右の空間には木製の丸テーブルや木製のイス。床には焦げ茶を主として黒や灰の模様が縫われた絨毯。そして、受付カウンターの双方には奥へと続く廊下が伸びているというもの。


 その内部は、正式や個人営業に関わらずと通ずる特徴を持つものであり。内装に限っては、拠点エリア:マリーア・メガシティの宿屋:大海の木片に滞在していた頃を思い出すほど、随分と似た構造をしていた。

 が、これまでの宿屋とはまるで異なる点と言えば。このラウンジの壁一面に巡らされた大きな本棚と、それに隙間無くびっしりと詰まる本の行列。


 そこは、宿屋と言うよりは、図書館だった。

 想像だにしない暗がりとそれに灯る本棚の光景を前に、思わずと不気味ささえも感じ一歩退いてしまった俺。そんな俺の前には、この光景に馴染むかのよう平然と歩いていくユノ達の姿と。その彼女らの前、カウンターの奥にて、椅子に腰を掛け、本を手に一人静かに読みふける存在。


 その外見は、白のYシャツに青のオーバーオールという、なんとも無難な印象を与える服装であり。外見の特徴は、ほぼ寝癖であろうぼさぼさな具合の、淡藤色の淡く薄い青紫のショートヘアー。白色の縁の丸っこい眼鏡。割と色白で、年相応とも呼べるだろうシワが若干とも伺える。

 又、目は横線の如く至極細い。その様相から、なんだか穏やかな表情がとても印象に残る人物であった。


 そんな彼、音を立てて堂々と扉から入ってきたこちらの存在に全く目もくれず、ずっと本へと顔を向けているばかり。

 お客にも気付かないほど集中しているのかと。それに疑念を持った辺りで、カウンターへと近付いていくユノがその存在へと言葉を掛けていった。


「"トーポおじさま"!! 私、ユノよ!! 今日はたくさんの仲間を連れて、また遊びに来たわ!!」


「…………」


 ニコニコな笑顔で明るく大声で呼び掛けるユノ。


 ……で、あったが。そんな彼女の声に微動だにしない彼。


 ……そこから、ほんの少しもの間をして。ふと、まるで今、その耳に声が届いたかのよう。一体どこからか声がしたぞと言わんばかりに、なんとも不思議そうに顔を上げ出したその存在。


「……ん。ん? ……んー?」


 ゆーっくり。ゆーっくり。のろのろ~っと顔を向けてくる彼。

 こちらへと振り向いてから。こちらの姿や様子をじーっと眺め続けていき。…………そして、しばらくしてから。その存在はようやくと、ゆっくりと口を開き出した。


「んー、あぁ~! ユノちゃん~。あぁ、よく来たね。それにしても、随分と久しぶりじゃないかな? 最後に会話を交わしてから、どれほどと時が経過しただろうか。確か、最後にユノちゃんと会話を交わした際に読んでいた本はフレデリック冒険隊だったものだから~。あぁ~、まぁそれなりと経ったものかな。いやぁねぇ、年をとってくると、つい最近だと思っていたものが随分と前の出来事であったり。遥か遠い昔のことだと思っていたものが、実は随分と最近の物事であったりと。時の流れという感覚が、なんだかおかしくなってしまうものなんだ。ほんと、年をとるって大変だよ~」


 おっとりとしていて、どこかフラフラとしたやんわりな優しい調子の喋り方である彼。

 その様子や喋り方、そして先の反応を見てというもの、彼のこの先がどうしても不安に思えてきてしまえて仕方が無い。


 これまた不思議な個性の彼を前に、よくある汗のエフェクトを出してしまう俺の前では。ユノの姿を見てから、彼女の付近に佇む二つの存在を確認してから。ゆーっくり。ゆーっくりと驚きの様相を浮かべていく彼。


「……おや、おやおや。これはこれは、なんて驚きなものだ。これはまた、随分と珍しい組み合わせで来たものだね~」


「久しぶり、"トーポおじさん"。今回、ブラートの兄さんからのお使いで皆と一緒に来たの」


「久方ぶりの再会ですね、"トーポさん"。以前にも騒ぎとなった、かの騒動における助力に今改めて多大なる感謝をいたします。"トーポさん"のおかげで、多くの旅人の命を救うことができました。これも、あたし一人の力では迎えることのできなかった、考えうる限りで一番良い結果であり。又、"トーポさん"がお送りくださった寄付金によって、怪我をした者達全てに的確な治療を施すこともできました。これも全て、"トーポさん"のおかげです。その節は、本当にありがとうございました」


 ミズキとラ・テュリプがそれぞれと言葉を発していき。その一つ一つにゆーっくり、ゆーっくりと頷いていく彼。


「やぁやぁ、これは驚いたね。まぁ、ユノちゃんのことだ、こうして土産話として驚きを持ってきてくれることも多かったから、この子達が顔を揃えるのも確かに時間の問題だったのかもしれないね。やぁミズシブキ"ちゃん"。その髪を下ろしたんだね。随分とイメチェンをしたじゃないか~。その姿も、よく似合っているものだよ。かわいいね。おっと、かっこいいと褒めた方が良かったかな。やぁテュリプ・ルージュ。その節はどうも。僕はただ、僕にできることをやっただけのことだよ。僕のできることで皆を救えたのなら、嬉しい限りだね。また困ったことがあったら、いつでも気兼ねなく呼んでくれてもいいよ。年を取って段々とできることが少なくなってきた今、こうして本を読むことしかやることがなくてね~。ハッハハハ」


 穏やかな様子でありながらも、それぞれへと応えていくその姿からは年季の入った威厳をどこか伺わせた。

 特に、ラ・テュリプとの会話。あれほどの実力を持つ彼女にここまで言わしめるこの彼は、どうやらそれ相応となる実力を持つ宿屋のオーナーであることにきっと違いないだろう。


 そうしてミズキとラ・テュリプと会話を交わしてからというもの。次にと彼がその視線を向けてきたのは、言わずもがな後方で様子を眺めていた俺とミントの方であった――――



「やぁ初めまして、だね。君達とはお初だろう? うんうん、どちらも、ユノちゃんの元気な姿についていけるような良い顔をしている。さすがは、ユノちゃんの仲間をしているだけはあるね。おっと、まずは自己紹介だね。僕は、この宿屋:ア・サリテリー・インを経営する、オーナーの『トーポ・ディ・ビブリオテーカ』と言う者だ。よろしくね」



【~次回に続く~】

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