もう一息の戦況
「ソードスキル:パワースラッシュ!!」
『オォォォォォォォォォォォオッ!!!』
拠点エリア:マリーア・メガシティの地下にてその脅威を振るい続けていくエリアボス:魔族との契約者。それは異常に発達した右腕を振り被り、隕石の如き勢いのままに巨大な拳をこちらへと叩き付けてくる。
頭上から落ちてくる強力な攻撃に備え、手に持つブロードソードに橙の光源を宿らせ広範囲の回転斬りで対抗し。通常の攻撃であった相手の拳を跳ね返した後にも、回転の勢いを纏ったままヤツの胸元へと飛び掛かっていく。
魔族との契約者の弱点である、その胸に突き刺さる巨大な剣。先のカウンターによって柄が欠けた弱点部位へと、スキル攻撃で再びと畳み掛けていく。
……が、しかし、そう易々と弱点には接近させてくれない魔族との契約者。晒す自身の弱点を守るために、左手で剣の柄とこちらの攻撃を遮り出して。勢い余って左手にスキル攻撃を食らわせてしまったその隙を突き、左手を大きく払って俺を退けるという芸当を披露してくる。
「……ッ!! 今までの俺達の行動を、確実に学習してきているな……。弱点を手で隠すようになってきたとなると、これから先は中々に厄介だ……ッ!!」
大したダメージにはならない行動ではあったが。しかし、その行動によって、相手はこちらがより弱点を突けないよう工夫を凝らしてきていることを伺えた。
これまで通りの、ただ弱点への集中攻撃という特攻の戦法が取れなくなってしまった今。脅威が人の形を成すその巨体を相手にしながらも。その上に、ヤツの新たな攻略方法を発見しなければならないという一手間の追加によって。俺は、遥か先に見据えていた勝利への兆しがより遠のき、目の前で佇む脅威の存在に、より一層の戦慄を味わうこととなってしまったのだ。
……やはり、俺一人ではヤツに勝てないのか?
このゲーム世界の主人公として。今も、目と鼻の先で繰り広げられる重要なイベント戦には絶対に負けられないというこの思いは、一向に失せてなどいない。……しかし、眼前の脅威を前にしてしまっては、その思いも堪らず揺らぎ始めてしまうのも仕方の無いことであった。
……だからこそ、俺はこの戦いを諦めたくなんかなかった。恐れによって敗北を認めてしまうだなんて、それでは、これまでの俺とまるで変わらないから。
――これまでの旅路によって、何度も何度も汚泥を舐め続けてきた今までの俺と。強くなりたいと心から願い、しかし、敗北を悟り、諦めの境地へと入ってしまった挙句に負け続けてしまっていた過去の弱い俺から変わることができないから……!!
「……ソードスキル:パワースラッシュ――」
『オォォォォォォォォォォォォォオッ!!!』
引けを取らない姿勢を意識して、ブロードソードの刀身に再び橙の光源を宿し突撃を始めた俺であったが。瞬間にも、魔族との契約者は突如としてオレンジのオーラを纏い出し、予備動作も無く目から光線を放ち出す。
「――ッ!!」
咄嗟の行動だった。橙の光源を宿すブロードソードを振るい、その光線を斬り付ける。
一直線を描き飛んできたビームに直撃させたパワースラッシュの一撃は、同時にビームの爆発を引き起こすシステム:相殺を発生。眼前で破裂した爆発を食らい後方へと吹き飛ばされてしまったものの、身体への直撃を防ぐことができたのは不幸中の幸いとして考えるべきだ。
『オォォォォォォォォォォォォオッ!!!』
……しかし、俺が吹き飛び地面を転がるその間にも、スタートダッシュを決めて全速力で駆け出していた魔族との契約者。今にも俺を殴り潰さんと、異常に発達した豪腕を掲げながら。こちらが体勢を立て直す隙も与えないその速度で、洞窟を猛進と駆け抜けてくるヤツが今、襲い掛かる……!!
「……回復が間に合わない……!!」
爆破属性による定数ダメージで消費したHPを回復しようにも、もう目前と迫った魔族との契約者が既に拳を落としてくる。
ここは回避か? それともカウンターか? スキル攻撃で通常攻撃を跳ね返す手もあるが、そのどれかを選択したところで、それらを学習しているであろうヤツの行動に未知への不安が募り出す。
……だが、考えている時間も無い……! ……かくなる上は、カウンターで迎え撃つしかない……!!
……と、決死の思いによる行動をこの手で選択する直前のことであった――
「ッつォ――ッ」
……俺の身体には、突然と浮遊感が生まれていた。
――次の時にも、俺は宙を飛んでいた。先程までいた場所は、藍色の拳に砕かれ周囲の大地が隆起している。……あれをまともに迎え撃っていたとしたら、まず間違いなく危なかっただろう。
空中から状況の把握を行い。……次に、俺はこの身体を抱える存在へと視線を向けていく……。
「……すまない! ……ありがとうな、ミズキ……!!」
「チッ。……その達者な口に見合った実力なんか持っていないくせに、おれに偉そうなことを次々と……。……たった今、根拠の無い根性論なんかで偉そうに語っていたおまえでもよくわかっただろう!! この世界っていうのはな、気持ちだけで何とかなるほど甘くなんかないんだよ!! この、根性論を諭すだけの口だけ薄鈍人間が!!」
ロープを手繰り、俺を担ぎながら空中を移動するミズキ。
先の絶望から一転とした復活を果たし、ロープによる機動力を遺憾なく発揮し俺を助け出してくれたのだ。
「……なぁミズキ。その、悪かった。……俺のことで、気分を損ねてしまったんだよな」
「今更それに気付いたか。――あぁそうだよ。おれは昨夜からこの今に渡ってまでずっと、おまえの存在に気分を損ね続けている。……そして、毎回こう思えて仕方が無いんだ。……おれよりも劣っているこいつが、何故、おれ以上にあのブラートの兄さんから認められているんだ、と。――それはさ、兄さんの一番弟子として許せるわけがないに決まっているだろ」
「……すまなかった。でも、俺に悪気は無いんだ。……だが、俺という存在が、ミズキという一人の人間を苦しめてしまっているのもまた事実だしな。……ごめんな、ミズキ」
「…………」
洞窟の壁に足を掛けて。移動を終えたミズキは、右腕で担いでいる俺のもとへと視線を落とす。
その時にも、魔族との契約者は俺達を捉え続けており。その空いた距離を埋めるべく、走り出す構えを取り。大地を蹴り出しスタートダッシュを決め、大気を纏いながらこちらへと駆け出してくるものであったが……。
「……ミズキと比べてしまえば、俺はまだまだ未熟者だ。それなのに、口だけは達者で。実力も追い付いていないというのに。それでも、格上のミズキに色々と偉そうなことを言ってしまってさ。……俺、あれほど頼りになるブラートから認められていたことで、無意識と浮かれてしまっていたのかもしれなかったな。――だからさ、俺、よりブラートに認められるような。それも、一番弟子のミズキも納得してしまうほどの実力を、これからでも身に付けていきたいものだからさ…………」
俺を担ぐ右腕が徐々と緩められていく。
それは、会話中である今現在における、次の行動に備えた下準備。次の時にも、俺が今すぐに動けるようにするための動作であり。又、自身がより行動を起こしやすくするための仕込みであった――
「……そんな口だけの俺が、これからでもその言葉に見合うほどの実力を得るために。……まずは、この甘くない世界を生き抜くための術を、ミズキ本人からこの俺に伝授してやくれないか?」
「ふん。教えるも何も、それをおまえの身に思い知らせるために。おれはこうして、また再び立ち上がったんだ!!」
壁を蹴り出し、前方へ宙返りをしながら。右腕に抱えていた俺を手放し、こちらへと両足を向けてくる。
俺もまた、空中で体勢を立て直し。ミズキから差し出された足の裏をスターティングブロックと見立て。それに足をつけ蹴り出して、眼前から迫り来る魔族との契約者へと勢いよく飛び出していく。
空中という高度の地点において、全速力で接近してくる魔族との契約者へと手に持つブロードソードを構え、俺はスキルを宣言――
「剣士スキル:アグレッシブスタンス!! ――ソードスキル:エネルギーソード!!」
攻撃力上昇の赤いオーラを纏い。横へ回転しながら豪腕を構え拳を突き出してくる魔族との契約者へ特攻。筋肉をバネにして放たれた拳の一撃を、今保つ速度で強引と切り抜けて。回転を帯びたまま、ヤツの弱点である胸元の剣へとスキル攻撃をぶち込んでいく。
通りすがりの一撃に堪らず怯み、悲痛の三重奏を奏でその場で体勢を崩す魔族との契約者。その隙だらけである機会を逃さず、次にロープで接近を果たしたミズキの手痛い一撃が藍色の巨体へと炸裂していく。
「エネミースキル:サイクロプス・ハンマーッ!!」
その宣言は、また一段と気合いの入った信念の雄叫び。
光の拳を生成しながら、高度からの落下による勢いを纏いヤツの弱点へと放っていき。弱点部位且つ弱点属性の一撃が直撃した魔族との契約者は、これまでに無い叫びを洞窟中に響かせながら。前方からの衝撃を受けて、その巨体を堪らず地面へと叩き付けられる。
「ひょォー…………すっげェ……ッ」
ミズキとの連係とその光景を目の当たりにして。洞窟の端っこの、その存在感の無い隅っこで縮こまっていたペロが思わずと感嘆を零していく。
「……オレっちも、あんな友情パワーかなんかで戦えたら、なんかが変わっていくんかねェ……。っまぁ、とは言っても、変に戦ってまた"再発"するのがすっげェ怖ェところだけど。………でも、アレっちの姿を見ていると。なんだか、オレっちも皆のために戦いてェなぁというか。このオレっちでも、皆のために戦えてくるような気がしてきちまうもんだから……なんか、この戦い、やってやるぜェ!! って思えてきちまうんだよなァ……!!」
その言葉とは裏腹に、彼の両足は極度の恐怖でガタガタと震え続けていたものであったが。しかし、そう言うなり、上半身を壁に押し当てるようにうねうねと動き始めて。両手で壁に這うように身体を持ち上げていき、震える足を地につけて。ガタガタと震える下半身でありながらも、ペロはその状態で必死にバランスを取り始めて立ち上がってきたのだ。
「……なんつーかよぉ。今の流れなら、このオレっちでもなんだかイケそうな気がしてくるんだよなァ……!! というか、俄然とやる気が湧いてきちまったぜ……ッ!! ッアレっちぃ!! 待ってろォ!! 今、このオレっちもォ!! 二人の戦いに参戦してやるぞォッ!!」
一歩踏み出したその時にも、ペロはその心の底に巣食っていた恐怖の念を吹っ切り走り出す。
彼なりの勇気を抱いて、手に如意棒のような棍を持ちながら。その武器による受け流しと回復の魔法を専門とする職業:モンクのペロ=アレグレがとうとう始動したのだ。
……そして、走り出したペロの先にいたのは、ロープを手繰り空中を飛び回るミズキの姿。
『オォォォォォォォォォォォオッ!!!』
「ッ――!! づァッ……!!」
ペロと同様に行動を再開したミズキではあったが。相手の動きを見切れずに、爆破属性の宿る強烈な拳の一撃をまともに受けて吹き飛ばされていく。
その隙を逃さんと、魔族との契約者は少年へと追撃の拳を振るっていくものであったが。しかし、ペロはそんな吹き飛ぶ少年のもとへと手を差し伸ばし、堂々とスキルを宣言していく。
「モンクスキル:キュアー!!」
ペロの差し伸ばされた手からは聖なる光が現れて。次の時にも、それは吹き飛ぶミズキの身体を包み込む。
瞬間。攻撃を受けたとは思えぬ機敏な動作で体勢を立て直し始めたミズキは。前方から迫り来るストレートパンチを軽やかに回避し、不利な状況から一転として、ロープを手繰りその場からの脱出を為してしまう。
高速の空中移動で標的を仕留め損ねた魔族との契約者。その原因ともなったペロのもとへと視線を向けて、怒り交じりの三重奏を奏でながら男のもとへと拳を落としていく。
「へへッ。オレっち、戦闘自体は"相手がモンスターじゃなければ"立派にこなせるのよねェん。……ってことでェ!! 棍スキル:受け流しの構え!!」
宣言と共にペロの周囲を包み込む透明の気。それに拳が触れると同時にして、ペロは手に持つ棍であっさりと受け流し。軽快に回転を行いながら、ひらりと軽やかな動作で拳をいなしていく。
次に放たれたストレートもまた、受け流しの構えによってひらりとあっさり回避を行い。それに苛立ちを覚えたのか、魔族との契約者は両腕を引っ込めてからの、両腕による怒涛の連続パンチを放ち始める。
右、左、右、左。次々と繰り出される、藍色の拳が織り成す拳の雨。その中を、ペロは飄々とした足取りで。ゴーグルとバンダナという見た目で陽気な笑みを浮かべながら。棍を巧み且つ手際良く振り回していき、次々と降り掛かる拳を受け流し続けていく。
自身の周囲に弧を描くようにクルクルと回しながら。一向と当たる気配を見せない男の姿に業を燃やした魔族との契約者。拳に橙の斑点を浮かばせ、爆破属性を込めた一撃をペロへと炸裂させていく。……のだが、その拳が当たらないのは勿論として。その着弾点で巻き起こった爆炎さえも、ペロは容易くいなしてしまったのだ――
「剣士スキル:アグレッシブスタンス!! ソードスキル:パワースラッシュ!!」
攻撃力上昇の赤いオーラを漂わせ。ブロードソードに橙の光源を宿し。完全とペロに気を取られていた魔族との契約者へと飛び掛かる。
その胸を貫通し顔を出している、巨大な剣の刀身に向かってスキル攻撃を振りかざし。俺の一撃が弱点部位の剣へと炸裂することによって、藍色の巨体は仰け反り隙を晒していく。
『オォ……オォォォォォォォォォォォォォォオッ!!!』
悲鳴を上げて、堪らず前方へと倒れ掛かり両手をつく魔族との契約者。
……次にその状態から、洞窟に響き渡る巨大な咆哮を叫び上げて。同時にして、その藍色の巨体には橙の斑点が浮かび上がり始める。
怒り状態への移行を知らせるサインだ。再びとその猛威を振り撒く準備を整えた魔族との契約者は、その巨体に見合わない機敏な動作ですぐさまと起き上がり。地面を這うように移動する俺達の姿を捉え再び咆哮を上げていく。
橙に染まる巨体を目撃して。再びとその本領を発揮してきた脅威に怖気付くミズキとペロではあったが。しかし、ミントの口から飛び出したある報告を耳にして、その二人の瞳にはすぐさまと、希望の光が宿り出したのだ――
「ご主人様!! 先の攻撃によって、エリアボス:魔族との契約者のHPが残り僅かとなりましたっ!! ペロ様も! ミズシブキ様も! あと、もう一息でございますっ!! あともう一息の攻撃によって! 前方の脅威に打ち勝つことができるのですっ!!」
「……あと、もう一息……ッ!!」
「ミッチィィ!! それはマジかッ!? それはマジなんだろうなァッ!? ……ミッチー!! あともう少しなんだよなッ!? あと、もう少しでアイツぶっ倒れるってことなんだよなッ!!? ……オレっち、ミッチーの言葉を信じるかんなッ!!」
怒り状態によってパワーアップした魔族との契約者へと備えるペロとミズキ。その脅威によって、一時期は勝利を諦めてしまっていたその二人も。今となっては、それぞれの闘志を抱きし勇敢なる戦士として戦闘に参加をしてくれている。
そんな二人の勇気に続いて俺もブロードソードを構え。咆哮から、その場に広範囲の爆炎を撒き散らして。洞窟の一帯を黒煙で埋め尽くしてくる魔族との契約者を見据え観察を行っていく。
……なるほど。黒煙によって視界を不良にし、数では勝るこちらの目を奪う戦法を試してきたと言ったところか。
爆発の音が未だに反響する洞窟内にて。大地を蹴り出し全速力のダッシュを行い出す魔族との契約者。地面からは足踏みの振動が響き渡り。それは今にも、俺達へと爆破属性の拳を振り被ってくるのだろう――
「ッ――づァッ!!」
……と、そう相手の行動を読んでいた俺の隣から突如と響いてきたのは、ミズキのダメージボイス。
次の時にも爆発が発生し。前触れも無く黒煙から発生した爆発に俺とペロは咄嗟と回避行動を取っていくものであったが。
……先の爆発とミズキのダメージボイスから鑑みるに。それは、つい先程ミズキが奇襲を受けたということになるよな……。
「ミ、ミズキ……ッ!!」
その地面の反動からして、隕石の如き拳に直撃したのだろう。更に爆発音までをも考慮すると、爆破属性の爆発までをも受けてしまったとも考えるべきか。
……急ぎで少年の姿を探すが、しかし、既にその姿は無く。そして、どこかへと走り去っていく魔族との契約者の足音を耳にして。
……きっと、拳による攻撃で吹っ飛んで行ったミズキへと、追撃を食らわせに向かったのだろう。その追撃を何としてでも食い止めなければ、間違いなくミズキが危ない。
しかし、辺りには黒煙が充満していて未だに視界が不良であるために、無闇に動くことさえもできないこの状況。
……何も確認ができないこの現状にて、闇雲にも動くことができない俺達。……この時にも、魔族との契約者による奇襲を受けてしまった少年の命は、本人の行動と意思に委ねられてしまったのだ――――




