陽気なその男
「いやぁ、っはぁぁぁあああぁぁ!! あぁぁぁこんなに可愛い女の子達と冒険をぉ! それも、男一人で女の子達を独り占めだなんて。いやぁ、キミも中々に見過ごせない男だねぇ!!」
寄り添うニュアージュとミントを脇にして。その男は独特の溜めを含めた息遣いで、昂る興奮のままに声をあげる。
場所は、最初に彼女らと昼飯を共にしようと定めた、ユノのみぞ知る秘密の高台へと移っていて。
時刻は夕暮れ。見晴らしの良い絶景へと沈んでいく黄昏の太陽を背景に、俺はその男を加えたユノとの三人パーティーで、この高台への帰還を果たしていた。
「あら、まぁ。こんな背の高いわたしを可愛いと言ってくださるなんて、とても優しいお方なんですね~」
「いやぁ、優しいも何も。ねぇ?? 長く伸びた髪はとても麗しくて! その背の高さとこれまた絶妙と噛み合っているってもんだからねぇ!! ドレスもまた豪華だねぇ。上品な感じというかぁ。高貴な感じというかぁ……美しい。そう、美しい!! 美麗という言葉を体言したような、美しく上品なお嬢さんなもんだから、オレっち、もうずっとキミに見惚れていちゃうなぁ!!」
「あら、まぁ~。うふふ」
とてもわざとらしい調子や動作であり、胡散臭さに関しては誰よりも磨きがかかっているその男。
しかしそれもまた、彼なりの真面目さであり。このいちいちとわざとらしいオーバーアクションもまた、ニュアージュの麗しさを褒め称える彼なりの調子だったのだろう。
そんなオーバーアクションで褒められたニュアージュはと言うと。なんだか照れくさそうに両手を頬に添えながら、またまたそんなことを、うふふ~と冗談めかした否定をしている。それにしてもニュアージュ、すごく嬉しそうだ。
「楽園の庭とは、よく言ったものだねぇ。……あ、そうそう。こうして可愛い女の子達に囲まれた、天国のような安全地帯に連れてきてくれたキミにはとても感謝をしているよ、ありがとうな!」
「あ、あぁ……」
……正直、この男をあまりキャンプ地に連れて来たくなかったために。俺は引きつった口元のまま、こくりと頷いては詰まった声で答えてしまう。
いろいろと複雑な思いは交わっているものの。しかし、モンスターという言葉や存在にあれほどまでの恐怖を示してしまう男だ。そのために、彼の素性というものからは、ワケありという何かしらの事情を伺えるし。それに、そんな彼に深く同情しているからこそ、こうして彼を連れてきたというものだったから。
……でも、やっぱ、しかしなぁ……と。目の前の光景を引きつった表情で眺める俺であったが。そんな俺の脇では、"それ"が着実と進んでいて――
「みんなー! ご飯ができたわよー!」
服に巻き付けたピンク色のエプロンに、お玉杓子を片手に持って。焚き火で煮え立たせた鍋と睨めっこしていたユノが、とうとうその顔をあげては食事時を伝えた。
「よっ! 待ってましたぁ!!」
それにいち早く反応を示したのは、言わずもがな。
手に持つ皿をユノに差し出して。誰よりも先に、ユノ特製シチューを受け取ってはスプーンで頬張り始めたその男。
ユノお手製ということもあり、その味はまるでお手本のように安定した美味しさが保障されていて。そんな、旨みを醸し出す野菜や肉がふんだんと転がっている白の晩餐を、先程までの胡散臭さ全開なオーバーアクションのままに頬張っていく。
余程なまでに腹を空かせていたのだろう。恐れを成しているモンスターという存在に、嫌というほどにまで追い掛けられていたことによる極度の緊張も。この場面となっては、もはや最高の調味料として、その常人よりも鋭いとされる味覚に作用して……。
「ゥん、マアァァァァァァイイイィッ!!!」
楽園の庭に響かせた、幸福の絶頂。
これまでのオーバーアクションも、この場面ではむしろユノの晩餐を際立たせる最高のリアクションと化していて。
シチューを頬張る。頬張る。まだまだ頬張って。また叫ぶ。普通であれば、それはただのはしたない光景であったのだが。その男特有の、演技のようなオーバーアクションを以ってしては。そんなはしたない光景もみるみると、彼らしい表現という個性へと変換されていく。
「飯が美味い! 飯が美味い!! 飯が美味い!!! もごっ、ほォォオッ!! ……ぷは~っ。あ、おかわり!!」
「はいはーい! もう、すっごく良い食べっぷりなものだから、思わず見惚れちゃっていたわ~」
「オレっちに見惚れるなんて、キミも中々に鋭い女の子だねぇ」
割と本気そうな調子で言うその男と。冗談めかした笑みで、彼から皿を受け取るユノ。
そんな光景を眺めながら、既にユノから受け取っていたシチューを頬張る俺。それにしても、やっぱり安定感のある味で美味いな……。
「強くて可愛いだけじゃなくて、美味い飯も作れるだなんて。ほんと、パーフェクトだよ!!」
「あら、貴方って褒め上手なのね」
「へへっ、褒めるのが上手いだろう? だってこれは、オレっちの本心だからな!」
「あら、言ってくれるじゃない! 特別にお肉をいっぱい入れてあげるわね!」
「ひゃっほぉう!!」
やりぃ! と大きいリアクションでガッツポーズを決めるその男。
そんな、女の子に対してはどこか調子の良い彼であったのだが。
……ふと、ある疑問をきっかけに。俺はようやくと、本来は大事であるその部分を思い出すこととなったのだ――
「あの、ところでなのですが。……そろそろお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか……?」
スプーンを口元に添えたまま。そろそろかと疑問を投げ掛けたニュアージュの言葉で、俺はハッと何かを思い出したかのように息を呑んだ。
「むぉ。ほぉわ。モグッモグッ――ほぉいえは、おえっひのほほおえふえぇひへははっはあ。モグッモグッ――」
これほどまでにかと、シチューを頬張りながら喋るその男。
ニュアージュからの疑問を聞いた彼は、一心不乱にと欲張ったシチューを飲み込み。ぷはーっとユノの晩餐を堪能したところで、口元を袖で拭いながらその口を開いた。
「っぷはぁ。あぁ食った! 美味かった! ほんっとうに美味かった!! こんなに美味い飯はほんっとに久しぶりだった!! まずは、こんなご馳走を振舞ってくれてありがとう! ……で、オレっちの自己紹介だったな! すっかり忘れていたぜ! みんなの名前を聞くこともな!! アッハハハ!!」
たらふくとなって大満足を示したその男。
幸せ溢れる満腹感をその腹に溜め込んで。おちゃらけた調子で、陽気に振舞いながら。
これまでの彼とは想像し得ないほどまでの、自信満々な笑みを浮かべて。
目元と頭部を覆い隠していたゴーグルとバンダナを取り払いながら、その男は高らかと声をあげて名乗り出したのであった――――
「オレっちは"ペロ・アレグレ"!! 本名は、『ペロ・アレグレ=Y・シン・コラソン』!! オレっちを知る人達は、オレっちのことをペロっちと呼んだり、コラソンとも呼んだりしているんだ! よろしくな!!」




