表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/9

第四話 蜜を吸った日

 夜、プールサイドで、風人は読書をしていた。まさしく呆けていると言わざるを得なかった。静けさは切なさとなり、風人の心に穴を開けて風を通す。

 サンダルの乾いた音がする。風人ははっと我に返り音の方を向く。眉子だ。帽子は被っていない。長い髪に水滴がついており、競泳水着は濡れていた。非常に煽情的だった。眉子はほほ笑み、風人の隣に座った。

「奥さんと別れてくれない?」

 意地悪くそう言う。くすりと風人は笑って、

「楽しそうだね」

 と嫌味を言ってやった。眉子は風人の方に手を回し、顔をよせてきた。

「あなたが私のことをどう思おうと、私はあなたのことを想っている」

「俺が君に何かしましたかね」

「同じ匂いがする」

 そう言って、眉子は頬に優しくキスをした。

「うるさいんだよ」

 風人は眉子を押し倒す。目が合う。風人は血の気が引くと同時に、興奮が高まった。

「……やめよう」

「……そうね」

 眉子は髪をゴムで留めて帽子をかぶり、プールに飛び込んで、泳ぎ始めた。


 風人は田村という化学講師を呼び出した。田村は背が低く、なで肩の、年若い後輩だった。数少ない風人の理解者でもあった。

「そういうわけで、奥さんを殺したいんですね」

「うむ……」

 田村はにたっと口角を上げて、

「無理ないですよ。羨ましいですもん。そんなに眉子先生に迫られて」

「話だけ訊きに来たんだよ。どういう方法で妻を殺せるか」

「任せてください、薬は手に入りますよ」

 風人は、今俺は、悪魔と会話をしているのだ、という心の声がくぐもって聞こえているのを感じていた。どうして自分は、田村に弱みを握らせるようなことをしてまで、妻を殺すかもしれないという憶測を話したのだろう。


 五月のことだ。夜の八時、風人はプールの点検をしていると、また、眉子がシャワーで濡れた髪と水着でやってきた。

「また君ですか」

「泳ぐのがよっぽど好きなものでして」

 あはは、と彼女は笑った。

「あなたが嫌いよ、と言ったら、あなたは傷つくかしら」

「傷つきますね」

「好きよ、と言ったら」

「もう遅い」

 風人は眉子の剥き出しの肩を抱き、彼女の唇にキスをした。

 そしてバンザイをさせ、綺麗な脇の下に舌を這わせた。

「ふふっ、くすぐったい」

 眉子は澄んだ声で笑いだした。風人は何度も、眉子の脇を舌でなめてくすぐった。だんだん眉子もとろんとした目をして、

「……してください」

「……ええ」

 そして風人は、眉子とセックスをした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ