第三話 夫婦の情事
若干性描写っぽい場面が入ります(R18相当ではないがR15とさせていただきました)。ご注意ください。
その日の帰りは雨だった。風人は雨の夜道をたった一人とぼとぼ歩いていた。興奮状態で目がずっと血走り、心臓の拍動は、手の震えをもたらした。不倫、してしまったのだ。あの光景を生徒が見ていたら、どうしようか。教師が見ていたら、どうしようか。そのときは眉子をめちゃくちゃに犯そう。犯すしかないのだ、失楽園だ。
家に帰ると、妻はいつものように手料理を食卓に並べていた。
「みぞれ?」
「いいや、雨だ」
ふふ、と妻の育代は笑った。
「お風呂、一緒に入らない?」
「いいだろう、入ろうか」
風人たちの家庭では息子が家にいないので、性交渉に関して制約はなかった。育代は少女のような顔をしており、胸の大きく肉付きのよい体で、魅力的だった。ところが、風人はスレンダーで、端正な顔立ちの女教師眉子に魅入られていた。
風人は食事を終えると、風呂に入った。湯船に浸かると、育代が入ってきた。風人は育代を抱きかかえる形で浴槽に入り、悪戯っぽく彼女の耳を甘噛みした。育代は、くすぐったそうに笑った。
育代の可愛い顔を見て、不安は期待に変わった。性欲が渇望し始めたのだ。結婚生活十年になろうか、旧式の、恋と性。二人はキスをし合い、お互いを求め合いながら、浴槽でいちゃついた。
風呂でセックスはしない。理由は、ゴムができないからだ。
「風人さんはどうしてゴムをするの?」
と、聞かれた。
「もうひとり子どもが欲しいのかい?」
「そういうわけじゃないけど」
嘘だ。女というのは、子どもの数が増えるだけ、男より優位に立てるものだ、というのが、勝手な風人の理屈であった。
「なら、いいじゃないか」
そう言ってパジャマを脱がせながら、育代のうなじに舌を這わせて、彼女をよがらせながら、性交渉に持ち込んだ。
翌朝、職員会議に出席した。遠目から、眉子と目が合った。眉子はにっこりと微笑んだ。彼女はピンクのストールを首に巻き、今日は縁なし眼鏡をしている。相も変わらず魅力的で、男女問わず生徒から支持されているのも無理はない。
会議を終えると、眉子がやってきた。
「あの」
「なんでしょう」
「今夜、またプールで会えないかしら」
「水着で来るのは反則ですよ」
こんなことが言えるのは、キスをしたから、それ以外ない。
「いいえ、水着で来ますわ。泳ぎたいの」
「勝手にしてください。要件はなんです」
「考えておくわ」
「なんだ、そりゃ」
風人が肩をすくめると、眉子は笑った。