プロローグ
私はモノと言う、しがない二等級天使である。
もともとは下級天使であった。だが、狡猾な手段で成績を伸ばし、ちょうど、二等級天使が不正を犯したとのことで、その後釜に私が選ばれたということだ。
私は天使大学の図書館に来るよう、学生時代の教授に呼ばれた。そこは本棚が宙を浮き、石膏の壁に階段が埋め込まれている、人間からしたら珍妙な光景が広がっているのだが、天使たちは当たり前のように、そこで勉学に励む。
天使の階級は、大天使、天使、二等級天使、三等級天使、精霊天使(蔑称:下級天使)の順に高級とされている。大天使は七名しか選出されない。大天使のうち、ミカエル様とガブリエル様とは、何回か食事に同席させてもらったことがある。
階段の上を、背中の羽根を使って飛んでいくのが天使の礼儀だ。むやみに室内を飛行するのは無礼だとされている。私はそうして、階段を上っていき、会議室に向かった。そこには、私を呼んだユーク様ただ一人が、私を待ち構えていた。
ユーク様は、長いあごひげを櫛で整えていた。
「ユーク様」
私が言うと、ユーク様はしわだらけの顔をしわくちゃにして、ほほえんだ。
「来ましたね、モノ」
ユーク様は敬語で話す。礼儀正しいお方だ。
「ご用件はなんでしょう」
「なんのことはないのです。知っておりますよ、あなたが二等級天使の特権を利用して、人間たちの観察を行い、それを著書にしようとたくらんでいるのは」
ちょっと意地悪な言い方をするユーク様。
「天使にも道楽が必要だと思ったのです」
「そうですか。別にそのことをとやかく言うつもりはないのです。ただ、私も下界のことを知りたいと思ったので、お聞かせねがいたいのと、あなたにはうってつけかと思うんですが、知り合いの編集員くんにあなたの話を本にするよう掛け合おうと思いまして」
「そうですか。それなら、順を追ってお話しいたしましょう」
かくして、読者諸君に、私の住む天界にまつわる話を交えながら、体験談を話すことができるのである。