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解けない方程式

作者: いぷしろん

方程式が解けない。

もうかれこれ1時間くらいはこの問題に掛けているのにもかかわらず解けない。

ちょっと一回、落ち着こうと思って顔を洗いに行ってみてもやっぱり解けない。

問題を読み違えているのではないかと教科書の問題文を何度も見返してみたが、そんなことはなく、数式とにらめっこを続けていてもどうしても解けない。


困った。非常に困った。

普通ならこんなややっこしくて嫌になる課題なんて適当に頭のいい子の答えを写してだすか、早々に諦めるのだが、こればっかりはそうは行かないのだ。

なぜならこの問題は、あと1時間後に提出期限を迎える課題の最後の問題であり、この課題は俺にとって高校3年へ無事進級できるかどうかを決めるこれ以上ないくらい重要な課題だからだ。ちなみに頭のいい子たちはもうとっくの昔に提出してしまっている。

あぁ、こんなことなら適当に授業サボってゲーセン通いなんかするんじゃなかった。まさに後悔先に立たずだ。今更、何言ったって遅いんだけど。


「あれ~~なにやってるのかなぁ~~?たっくん?」


なんか聞こえたけど無視しておこう。


「あれれ~~?もしかしてこの問題解けなくて困ってるのぉ?さっき私がここ通った時もなんか唸ってたよねぇ?よかったらこのおねぇさんが教えてあげようかなぁ?」


無視だ。無視。聞く価値なし。


「もう!無視しないでよ!そんなやつには……お仕置きだ!」


スッパーーン!!


「痛って!!ちょ、お前、突然ハリセンで頭ぶっ叩いてくるなんて何考えてるんだ!!ていうかハリセンなんかどっから持ってきたんだよ!」


「えへへ~。スパルタ教育を施してあげるために必要かと思って、その辺にあったもので自作しましたぁ~。エッヘン。」


「エッヘンじゃねぇよ。邪魔だよ。さっさと帰れよ。ほらっ。しっしっ。」


「えぇ~~。せっかくこのかわいくて頭のいい私がたっくんのために一肌脱いであげようとしてるのに断っちゃうんだ~。っていうか、自分の頭だけで期限までに解けると思ってるのかなぁ?」


うっ。痛い所突かれてしまった。

あんまり認めたくないが、こいつ、基本的にアホなのに、勉強に限って言えば俺よりもできるのだ。だが、こいつの手伝いを受け入れてしまうと絶対帰りに駅前のシュークリームをせびられる。あれ一個300円もするから、バイトをしていない高校生の懐事情では結構痛いんだよなぁ。うーん。背に腹は変えられんか。ええぃ!男は度胸だ!


「……お願いします。」


「よろしいっ!!」


ということで俺は、ずっと解けなかった問題を可愛くて頭がいいおねえさん(自称)に教えてもらえることになった。


見てるこっちまでにやけてしまいそうなほど天真爛漫な笑顔を見せてから、人が変わったように真剣な顔で問題を解き始める彼女。

なんか頼りになりそうだな。


あれ?しかめっ面になった。おもむろに机にシャープペンをトントン当て始め、当てるリズムがだんだん早くなってくる。これってもしかして……


「おい。」


「えっ!な、なに?」


「いつになったら教えてくれるんだ?あと30分しかないんだけど。」


「い、いや、あとちょっとでできるから!!もうちょっとまって!!あとちょっとだから!!」


俺は目を細め、じ~っと彼女の目を見つめる。すると彼女はすっと目線をそらし、あさっての方角を見始める。あやしい。ど~考えてもあやしい。


「ねぇ、もう素直になりなよ……。できないんだろ?…」


「い、いや……。そんな…わけでは……。うっ……ご、ごめんなさい。」


はぁ。こんなこったろうと思ったよ。彼女は俺より勉強できるのは確かだが世間一般で比較すればせいぜい中の上くらいの学力なのだ。俺?俺は下の上くらいだよ。


「うぅぅ~~。いいとこみせようと思ったのにぃ~~」


手足をバタバタさせながら悔しがる彼女。

なんか苛めたくなるドSな欲望が湧き上がる感覚があったが、さすがに今回はそんな余裕ないので自重しておく。


「まあ、2人で相談してがんばろう。結局出来なかったとしても手伝ってくれただけで俺は嬉しいよ。」


「うん……頑張ろっ!!」


こっから先は二人してあーでもないこうでーもないと考え続け、ひょんなことから彼女が解き方をひらめいたことで事なきを得た。うん。やっぱり仲間と一緒にやったほうがいいな。三人集まりゃ文殊の知恵ってやつかな。二人だったけど。


廊下を全速力で駆け抜け、提出締め切り5秒前にレポートを提出し、華麗に学校から脱出した俺は、課題から解き放たれた解放感に身を委ねながらそのまま帰宅…したかったんだが、例のおねぇさんに捕まった。ですよね~~~。


「ちょっと!何勝手に帰ろうとしてるの!!今日、勉強手伝ってあげたんだから駅前のシュ・ウ・ク・リ・イ・ム、おごりなさいよね!」


「…やっぱりかよ…」


「なにって?」


「いや、なんでもない。」


二人で駅前まで歩き、シュークリームをおごる。なんかついでにドーナツも奢らされた。俺の財布は軽くなった。最近ますますしたたかになってる気がする。こいつ。


「ど~お?私って結構役に立つでしょ?」


「まあ今回のはまぐれに近かったと思うけどな」


「えぇ~~!ひっど~~い!!」


「まあまあ、何にせよ、助かったと思ってるよ。感謝もしてる。」


「ならよろしい!!」


控えめに見ても余りあるとはいえない胸を反らしながら偉そうな態度を取る彼女だが、どう偉ぶっても微笑ましくしか見えない。


「むっ。なんか失礼なこと考えてるぅ~~」


「そんなこと考えてまっせ~~ん。」


俺はふざけながら走りだす。


「ちょっ、待てーーー!!たっくーーん!!」


いつの間にか終わりに近づいた高2の冬。こいつとこんな他愛のないやりとりが出来るのもいつまでだろうか。

長いようで短い青春。

俺はやっぱりこいつと過ごして行きたい。

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