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フェルディナンドの日記

先日完結したばかりなのに、また番外編を書いてしまいました……。

今回はヴォルフガングとニコレットの一番上の息子の日記です。











○月×日 晴れ

 前々からうすうす思っていたのだが、うちの両親は仲が良すぎではなかろうか。うちの両親と言うか、ハインツェル帝国の皇帝と皇妃のことであるが……。

子供の私から見ても父は母を溺愛しているし、母は父の過剰なる愛情に疑問を抱いていない様子だ。まあ、母は修道院で育ったと言っていたし、少々世間知らずであるのも関係しているのだろう。しかし、子供の前でいちゃつくのはやめてほしいものだ。15になった私はともかく、まだ七歳のコルネリアの教育に悪いと思う。



 何故私が日課である日記にこんなことを書くことにしたのかと言うと、両親のバカップルぶりを後世に残そうと思ったからだ。父は尊敬される皇帝であるから、後世での評価も高いと思う。でも、妻を甘やかす面もあったと多くの人に知られてニヤニヤされろっ。これはハインツェル帝国王太子にして皇帝ヴォルフガングと皇妃ニコレットの長子である私の、ささやかなる反抗心である。














○月△日 晴れ

 忘れないうちに書いておこう。先ほど、家族そろってお茶にしようと言われていつもの集合場所である母の部屋に行った。まあ、みんなでテーブルを囲むことはよくあるのだが、その位置は決まっている。と言うか、妹のコルネリアが1人で座れるようになってからは決まってきた。

 まず、父と母が並んで座る。その向かい側に、コルネリアを挟んで私と弟のリヒャルトが座る。これはいい。席順としては不自然ではないからだ。


 困るのは、とても自然なしぐさで父が母にスイーツや果物を食べさせるのだ。いや、母はとても幸せそうに食べるので、食べさせたくなる気持ちはわからないわけではない。しかし、子供の前でやらないでほしいのだ。目のやり場に困るから。
















×月▽日 雨

 今日は1日雨だったので、母が室内でコルネリアに編み物を教えていた。ひざ掛けを作っているらしいが、いま春なんだが……母上のすることはよくわからん。

 雨なので外に出ることもできず、私とリヒャルトは父に勉強を教わっていた。そして、気づいたのだが、父は時々母に確認を求める。そして、母はそれにさらりと答える。どうなってるんだ。

 特に、歴史学に関しては父より母の方が詳しいんじゃないだろうか。と言うか、以前図書館で母の名前で書かれた歴史書を見た気がするぞ。あなたは皇妃ではないのか。



 最近、母上がよくわからない。















×月□日 晴れ

 そんなよくわからない母上は、薔薇の交配を行っている。いわゆる品種改良だ。青薔薇を作るのが目標らしいが、今のところ薔薇の色は青紫だ。間違っても青ではない。これで青薔薇ができたら、『ニコレット・ローズ』とか、その薔薇の青色を『ニコラ・ブルー』とかと呼ぶのだろう。うちの父ならやりかねん。むしろ、以前そんなことを呟いているのを聞いた。まあ、花の名前に製作者や女性の名がつくのは珍しいことではないしな……。


 前置きが長くなったが、薔薇の様子を見に行った。そろそろ開花時期なので、三分咲きくらいの青紫の薔薇がいくつか咲いていた。私的にはこれでも奇麗だと思う。父も同じ意見のようだったが、ちょっと着目点が違った。



「お前の眼の色と同じだな。だが、お前の眼の方がきれいだ」



 うわあああああああああああああああああッ! 誰か、私の心の悲鳴を受け止めてくれ! なんなの、この夫婦! リヒャルトと一緒に思わずひいてしまったじゃないか!




 いや、確かに母の瞳の色は菫色で、この薔薇の色に近い。私も瞳の色は母譲りで、似てるなーと思ったのは否定しない。だけど、普通本人に言うか? 言うか!?


 しかも、『お前の眼の方がきれいだ』って、素面で普通言えないから!


 これにはさすがに母も照れたようで、その様子がかわいく思えたらしく、父が母を抱き寄せた。ああ、これ、キスするパターン。

 とりあえず、リヒャルトと共にコルネリアを回収し、戦略的撤退をすることにした。


 いや、今日の出来事は威力が大きかった。ホントに。
















×月△日 曇り

 母の趣味は多岐にわたる。薔薇の交配、歴史学、天文学、統計学、精神学などなど……中でも、火薬に関する知識は帝国一ではないかと私は思っている。

 銃の改良に始まり、爆薬の調合など、母上は器用だ。器用だが、同時に妙なところで不器用でもあるので、見ているとちょっとハラハラする。

 母が改良を手掛けた銃は撃ちやすい。女である母でも撃てるように作られているのだそうだ。もともと母の母が開発したらしいけど。母娘そろって何者なんだ。


 そんな母が、ついに火薬実験しに失敗した。おそらく、化学反応の実験を行おうとしたのだろうが、配合を間違えたのだろう。いつかやると思っていた。

 幸い、母は手に軽いやけどを負うだけで済んだのだが、実験に使っていた離宮の一角が吹き飛んでしまった。これにはさしもの父も怒った。ほとんど母を心配する言葉だったけど……。


 最終的に、「無事でよかった」と母を抱きしめるのだから、父は相当母にほれ込んでいると思う。












×月※日 晴れ

 離宮を吹き飛ばした母の後日談になるが、ついに母は建築学にも興味を持ち始めたらしい。なんと、自分で吹き飛ばした離宮の設計図を描き始めた。

 いや、まあ、もともと時計や銃の設計図も描いていたし、できなくはないのだろうが……なんというか、母の才能はどこまで広がるのだろうか。と言うか、この人、ふざけているような気がするけど実は天才なんじゃないだろうか、と思った瞬間であった。













△月×日 晴れ

 突然だが、母は馬に乗れない。嫁いで来てから約17年。少しずつ練習しているようだが、未だに馬を歩かせてしか乗れない。今日、剣術の訓練中にちょっと様子を見に行ったのだが、相変わらず成長していなかった。母よ。そろそろあきらめた方がいいと思うぞ。


 乗馬に置いては私と父は同じ意見。母の乗馬姿は危なっかしいので、見ているとひやひやするのだ。今日も、私は父と一緒に母の乗馬を見ながらひやひやしていた。


 こういう時、私は父の子なのだなぁ、と思う。外見は似てるけど。














△月□日 雨

 母が菓子を作ってくれた。母が作る菓子は素朴でおいしいのだが……だから、子供の目の前でお互いに食べさせあうのは本当にやめてほしい。いつも『やめて』と言おうと思うのだが、結局言えない。だって、2人とも幸せそうだから……。


 最近は2人が幸せそうならそれでいい気がしてきた。でも、やっぱり両親が抱き合っているのを見ると居心地悪い。


 ああ、母上が作ってくれたケーキがおいしい。













*月○日 曇り

 視察先から父が帰ってきた。この時ばかりは、母が父を抱きしめ、両頬にキスするのも普通に見える。まあ、外から帰ってきたからね。

 お土産をいただいた。私は本、リヒャルトはナイフ、コルネリアは大きなクマのぬいぐるみ。ぬいぐるみを抱っこしているコルネリアは愛らしく、額に入れて壁に飾っておきたいくらいだった。

 そして、母へのお土産は変わっていた。母には菓子を渡せばたいてい喜ぶのだが、この日の母への土産は伝統工芸品と言われるものだった。正確には、伝統的な刺繍を施した布。これに目を輝かせるのはいいのだが、「どんな意味が込められてるのかしら! 興味あるわね!」と弾んだ声で言うのはどうかと思うんだ。


 こうして、世間知らずの母に父が様々なものを与えるから、母の趣味の守備範囲は広がっていくんだ。

 あ、母が父にお礼のキスをした。何となく嫌な予感がするので、かわいいコルネリアを回収しに行こう。


 うん。大きなぬいぐるみにコルネリア。かわいい。













*月△日 晴れ

 まだコルネリアがクマのぬいぐるみを持ち歩いている。自分の背丈くらいあるのに。何だって父はあんなに大きなぬいぐるみを買ってきたんだろう。かわいいけど。でも、娘を見てでれっとする父はあんまり見たくないんだけど。

 そして、今日は母がリヒャルトが壊した時計を直してる。いつかやり方を教えてもらおうと思う。そして、それを見つめる父とリヒャルト。リヒャルトはいいけど、父は相変わらず

















「何を書いてるんだ?」


 日記を書くことに没頭していたフェルディナンドは、突然背後から声をかけられて驚きの表情で振り返った。背後に父ヴォルフガングが立っていた。とっさに日記を閉じる。


「日記を書いてました!」

「……お前のその几帳面さはニコラ似だな」

「呼んだー?」


 母ニコレットが時計を直しつつ顔も上げずに尋ねた。父は「何でもない」と母の方を振り返る。

「直りそうか?」

「ダメね。動くけど、ゼンマイが壊れてるから、止まったらいちいち蓋を開けて歯車を回さなければならないわ」

「それは面倒だな」

「まあ、部品を新しいのに直せば直るけど」

 さらりとした口調で言った母に、リヒャルトが「直りますか!」と嬉しそうな声を上げる。直るんだ。本当に何なのだろう、うちの母は。

「さすがだな、ニコラ」

「えへへ」

 父に褒められ、母は少女のように笑った。30代も半ばの女性に、こんなに照れる仕草が似合うとは驚きである。


「あと、私が取ってるのは日記じゃなくて統計だよ」

「聞こえていたのか……」


 フェルディナンド的には日記を書くより統計を取ろうと考える方がすごいと思う。本当にうちの母は何者なんだ。父は妻への愛が過剰である以外は普通に見えるのに。


 ふと見ると、何故とリヒャルトはコルネリアと編み物をしていた。コルネリアと目が合ったフェルディナンドも誘われたので、日記を持って彼女の方に移動した。ラブラブな夫婦を見ている気にはなれなかった。


「何作ってるんだ?」

「クマさんのお洋服!」


 コルネリアが元気に答えてくれた。さすがに服を作るのは難易度が高いので、母がマフラーに軌道修正させていた。リヒャルトはまだうまく編めないコルネリアの補佐役。こいつ、無駄に上手いな。


「クマさんねぇ。本物を見てみたいわね」

「お前、真正面から額を撃ちぬきそうだな」

「そんなことしないわよぉ」


 仲良く編み物を始めた子供たちを見て、ヴォルフガングとニコレットが眼を細めて微笑んだ。



 皇帝一家は今日も平和である。













ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


本編完結から約14年後の話ですね。うん。たぶん。だから、年齢的には、

父ヴォルフガング、46歳。

母ニコレット、36歳。

長男フェルディナンド、15歳。真面目。

次男リヒャルト、13歳。割とノリがいい。

長女コルネリア、7歳。母親に激似。

かな? もしかしたら年齢計算間違ってるかも。


たぶん、ヴォルフガングはコルネリアをめちゃくちゃかわいがるだろうな。


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