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2人目、クリスティーナ。3人目、レティシア。(16)

みなさん、あけましておめでとうございます!

今日から3日間、この作品を連続投稿です! よろしくお願いします!


そこ、新年からテンション高いとか言わないでください。










 それから、ヴォルフガングは時々ニコレットに昔話をするようになった。ヴォルフガングが昔話をすれば、ニコレットも同じように、修道院時代の話をしてくれる。彼女も、過去を語って思い出にしたかったのかもしれない。


 結果として、ニコレットは拒まなかった。それをうれしく思うと同時に、ヴォルフガングは彼女に無理をさせているのではないかと思うこともあった。


 だが、彼女はからりと笑って、


「ヴォルフ様の髪を三つ編みにさせてくれたら、それでいいよ~」


 などとのたまった。ヴォルフガングも拒まなかったので、1日三つ編みで過ごす日が何度かあった。もちろん、三つ編みは2本ではなく1本だ。三つ編みは似合わないので、ニコレットなりの嫌がらせなのかもしれない。


 リーゼロッテの話に続いて、ヴォルフガングは2番目と3番目の妻の話もした。これはニコレットの方から尋ねられたため、語ることにした。あまり気分の良い話ではないからだ。







 ヴォルフガングの2人目の妻は、カンビアニカ王国の王女だった。王女と言っても、ハインツェル帝国の東に隣接するカンビアニカ国王の孫娘だ。

 カンビアニカ王国の孫娘はクリスティーナと言った。この時、ヴォルフガングはすでに皇帝位を継いでおり、クリスティーナは皇妃となった。


 話は変わるが、クリスティーナが嫁いできたとき、ハインツェル帝国とカンビアニカ王国は戦争中であった。カンビアニカ王国が少し押され気味であったため、帝国と好を結んでおこうと言う策だったのだろうが、明らかに人選が間違っていたと思う。


 22歳で嫁いできたクリスティーナは確かに妖艶で蠱惑的な女であったが、祖国から愛人を連れてくるような女だった。


 クリスティーナはハインツェル帝国と言う国自体を軽んじていたのだろう。確かに、歴史で言えば、カンビアニカ王国の方が歴史が古く、過去を見れば文化的にも発展していた。


 しかし、過去と現在は違う。カンビアニカ王国の最盛期はとうに過ぎ、今はハインツェル帝国の時代と言ってよかった。


 だが、ハインツェル帝国にとっても、カンビアニカ王国と縁を結んでおくのは都合の良い話であった。ロワリエ王国が盟主となっている対帝国連合軍は、確実にハインツェル帝国を囲んでいたのである。カンビアニカ王国が抜ける、もしくは進軍してこないと言うのであれば、それはありがたい話でもあったのだ。

 カンビアニカ国王は、そう言う意味では最善の一手を打った。攻め込んでこなければ、ヴォルフガングも攻めるつもりはなかった。

 しかし、クリスティーナは、あろうことか、連れてきた愛人の子を身ごもった。それ以前から所構わず愛人といちゃつき、苦情が上がっていた。彼女の腹の子が、ヴォルフガングの子ではないのは明白だった。彼はクリスティーナと一度も同衾したことがなかった。


 ヴォルフガングは、抵抗するクリスティーナとその愛人を姦通罪で処刑した。








「……どっかで聞いたような話だねぇ」

「そうだな……」


 ニコレットのつぶやきに、ヴォルフガングも同意した。ニコレットがヴォルフガングに嫁いできたのは、本来嫁ぐはずだった彼女の妹アレクサンドリーヌが身ごもったせいなのだ。しかし、結果的にニコレットと会うことができたので、ヴォルフガングは彼女に感謝したいくらいだった。

「それはヴォルフ様は悪くないと思うよ~。そのクリスティーナ様が悪いよ。と言うか、愛人連れてくるとか、その人の常識どうなってんの」

「お前に言われたらおしまいだろうな……」

 ヴォルフガングは苦笑して後ろから抱きしめているニコレットを抱く手に力を込めた。ニコレットは、嫁ぎ先に愛用の銃を持ち込もうとした女だ。しようとしただけで、持ち込まなかったのがニコレットとクリスティーナの違いであろう。

 ニコレットは自分を抱きしめているヴォルフガングの腕に触れ、肩ごしに振り返って自分を抱きしめている相手の顔を見上げた。


「それで、クリスティーナ様を処刑した後、カンビアニカ王国はどうしたの?」

「もちろん、攻め込んできた。クリスティーナを処刑したことを理由にな」

「明らかにあっちが悪いのにねぇ」


 馬鹿なのかしら、と言わんばかりの口調である。誰の影響かわからないが、ニコレットがだんだん辛辣になりつつある。

 カンビアニカ国王は、クリスティーナを処刑したことを理由に帝国に侵攻してきた。しかし、ヴォルフガングは王国軍をすべて返り討ちにし、カンビアニカ王国に勝利した。カンビアニカ王国がハインツェル帝国に投降したことで、国王は代替わり。今はクリスティーナの叔父がカンビアニカ国王である。


 ヴォルフガングが26歳の時の話だ。ちなみに、リーゼロッテとは2年持ったが、クリスティーナとは半年しか持たなかった。


 カンビアニカ王国が敗戦してすぐ、ヴォルフガングは3人目の妻となるメサ王国のレティシアを娶ることになった。彼女も王女である。メサ王国の第1王女であり、嫁いできたとき、現在のニコレットと同じ19歳で嫁いできた。だが、雰囲気はまったく違った。


 外見としてはクリスティーナに近いと思う。豊満な体つきの女性で、しかし、クリスティーナのように美女ではなかった。


 だが、駆け引きのうまい女だった。ハインツェル帝国の南に位置するメサ王国は、事実上、ハインツェル帝国の属州であったから、交渉がうまくなるように育てられたのだろう。メサ王国は小さい。事実上、保護してくれている皇帝の機嫌を損ねれば、国ごと滅ぼされてしまう可能性が高い。

 そのため、なのかはわからないが、レティシアはヴォルフガングを籠絡しようとしてきた。交渉がうまいだけあり、レティシアは話がうまく、おそらく、今まで娶った三人の中では一番気が合ったはずだった。

 だが、レティシアは、というかレティシアの父、メサ国王は、自分の娘が生む子を皇帝にし、自分が帝国を内部から操ってやろう、と言う野望を持っていた。これが、ライヒェンバッハ公爵より頭がきれるため、厄介だった。実行者の方もリーゼロッテより気が強いため、そのもくろみはなかなか露見しなかった。


 ヴォルフガングの父は、メサ王国の王族のほとんどを皆殺しにしている過去がある。そのため、メサ国王が帝国を恨んでいても不思議ではなかった。


 結婚から1年近く経っても懐妊の兆しもないレティシアに、メサ国王が怒った。2人の面会中の怒鳴り合いで、ことが露見した。なんとも間抜けな話だ。少し呆れつつ、ヴォルフガングはレティシアを国外追放にし、メサ国王には帰国後すぐに王位を返上するように命じた。


 しかし、ことが露見したせいで逆に開き直ったのだろうか。メサ国王が帝国に反旗を翻した。レティシアとその兄である王太子も戦争には参加した。レティシアを打ち取ったのはヴォルフガングだった。彼は、周辺諸国との戦争を抱えながら、メサ王国の反乱鎮圧に向かったのだ。

 レティシアを愛していたのかと言われれば、愛してはいなかった、と言うしかないだろう。彼女は気の合う友人のような存在だった。かけがえのない友人を失った気がして、ヴォルフガングは泣いた。

 その後、メサ王国の反乱は帝国軍によって鎮圧された。城に戻ったメサ国王と王太子は自らの居城に火をつけて爆破し、自害してしまった。その思い切った行動に、ヴォルフガングは心の中で、彼らを称賛した。


 メサ王国は、すでにない。国王とそれに連なる人間がいなくなったため、王国が解体されたのだ。今はすべての領地がハインツェル帝国に編入されている。


 メサ王国を併呑した勢いのまま、ヴォルフガングは、他の対帝国連合国が投降した後も、最後まで抵抗を続けていたロワリエ王国に攻め込み、敗北させた。そして、ロワリエ王国の王女を1人嫁がせるように要求したのである。


 こうして、対帝国戦争は終結したのだ。


「そっ、か。悲しかったのね」


 ニコレットはヴォルフガングの腕をぎゅっと握り、甘えるように彼の胸に自分の頬を押し付けた。同情している様子はなく、ニコレットはただ事実を述べるだけのような口調でそう言った。

 同情するのではなく、ただ事実として受け止める。だからだろうか。ニコレットには話しやすかった。聞き上手、と言うやつなのかもしれない。


「不思議な奴だな、お前は」


 彼女に話していると、楽になる気がした。もちろん、ただの気分の問題だが、彼女は肯定も否定もせずに話を聞く。ただ聞いてもらうと言うだけで、こんなにも違うのか。

 もちろん、皇帝であるヴォルフガングが、他の誰にもこんな思いを吐露できなかったということもあるが、誰も真剣に彼の話を聞こうとしなかったということもあるだろう。みんな、ヴォルフガングを一個人ではなく皇帝として見ているのだと思う。


「私は面白くて不思議な変人と言うわけね」


 ヴォルフガングを見上げ、ニコレットは笑った。おそらく、ヴォルフガングがニコレットに今まで言ったことを集約したのだと思うが、我ながら全部合わせるとひどい。それでもにこにこ笑っているニコレットのメンタルは一体どうなっているのだろうか。彼女のメンタルの強さを研究すべきではないだろうか。


 ニコレットに言うと、「えー、そう?」などと言われそうな気がしたので、口に出すのはやめておいた。









ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


果たして新年一発目にさらしていい内容なのか微妙なところでしたね。とりあえず、ヴォルフガング回想編はこれで終わりです。


次は明日の投稿になります。


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