第32話 楽しい勝負の時間だよ
遅くありましてすいません。
パソコンを変えて、調子をつかむのに手間取ってます。あと、学校の勉強、に少々。
合宿2日目。
生徒たちは早朝に、明らかに酔っぱらってる言動の教師陣に叩き起こされた。
眠そうな顔をこすりながら、彼らは何もない雲の上へ集まる。
「…くっ、一睡もできなかったじゃないか。いや、徹夜の一つや二つどうということはないが」
あくびを一つしたフィリアは、レオのボヤキを耳にして眉を寄せた。
「寝てないの?健康に悪いよ、レオ」
「問題ない。1か月ほど徹夜をしたことがあるが、体調に支障は出なかったからな」
サラリと放たれた言葉に、目を丸くした。
「1か月!?そんな、無茶なことをなんでしてるの」
「なんで、と聞かれても…寝る暇がなかったからだが」
「いやそうなんだけどそうじゃないよ?」
「まぁ、根を詰めすぎると効率が悪くなるから悪循環ではあったと思うが」
「冷静に分析することでもないし…レオは無理しすぎだと思うんだよね」
ため息とともに言われたことに、レオは心外だとばかりに切り返す。
「そうか?」
「無理してないって言うなら何かなぁ?そんなに仕事愉しいの?私といるよりも楽しいの?」
「…どこの面倒な女だ、お前は。それよりもライラはどうした?いつもならこの辺で何やら騒ぐだろう?」
仕事と私どっちが大事なの!?とでも言いそうな雰囲気のフィリアを見て、レオは露骨に話題を交換した。
「まだ寝てるよ?」
「は?」
フィリアの横に立っているというのに寝ているってどういうことだ?とレオはライラを注視する。
器用なことに、ライラは立ったまま寝ていた。
「なんか昨日寝れなかったらしくて…、ね?」
「何について同意を求められたのかわからないのだが…苛立たしいな」
「自分が寝れなかったからって理不尽ー」
「いいじゃないか、たまには」
「たま、には…?」
フィリアの疑惑の視線はさておいて、レオはライラのことを蹴り飛ばすのだった。
ライラは地面に倒れて数メートル吹っ飛ぶと、悲鳴を上げた
「なにすんの!?」
「何も。…風が強くて吹っ飛んだかなぁ?」
「テメェかレオっ!!」
ごまかす気のないレオの白々しい台詞に、慣れてきていたライラは騙されずすかさず反応した。
「さて、みなさん揃いましたね!?ではでは行きましょう!本日は、トーナメント戦を行います!!」
そんなのレオかフィリアが勝つじゃないですかーといった視線が教師に殺到する。
実力的に考えてまず間違いはないのだろうが、それでは困る。
やる気を出してもらわねばっ!という考えの元、編み出された商品は…。
「優勝者は敗者のだれかに命令をする権利を差し上げます!!」
負けられない戦いが始まるのだったっ!!
フィリアもしくはレオに命令できるとかどんなご褒美ですかっ!?と目が輝きだすものもいれば、怪しい光を放つ者もいる。
兎角、命を懸けた戦いになるだろうことは確実だ。それは、フィリアでもライラでもレオでも変わらない。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
さて、ライラの一回戦の相手は…
「ええと…棄権してもいい?」
「えー、遊ぼうよセノーテ!!」
「君と遊ぶとかシャレにならないと思うの」
両手を上げて、セノーテは早々と降参しようとする。
「いいの?勝ち残ってレンに命令とかしたくないの?」
「…ああ」
その発想はなかった。
ポン、と手を打ったセノーテに、ソフィーの隣でセノーテの奮闘を見守ろうとしていたレンから悲鳴が上がった。
「では、始めます。死なないでくださいね?」
なんとも無責任な教師の言葉で、ライラとセノーテの試合は始まった。
「《フローズン・フラワー》!」
気合いを入れて、セノーテは空気中の水分を凍らせて花の形にして、自身を守るような形でちりばめる。
対するライラは、大きく息を吸い込んだ。
「《ドラゴン・ぶれすっ》!!」
単なる空気の渦をライラは吐き出して、セノーテが張った氷花もろとも打ち砕いて見せた。
「ミシャー、戦闘不能!勝者クレイク!!」
「勝ったよ、フィリア!!君に捧げる勝利だよ!!」
意気揚々と勝利を掲げてフィリアたちの元へ戻ってきたライラがったが、出迎えたのは妙にぎすぎすしている2人の空気だった。
珍しくフィリアがレオへ敵意を見せている。レオの方も同じく、フィリアへと殺気のようなものを放っている。
「…負けない、からね」
「お前に負けるほど落ちぶれてはいないが」
「え、待って何この空気?」
あわててライラは対戦表を確認する。
2人は、次の対戦を控えている状態だった。
その対戦が問題なのであって、フィリアとレオのどちらかをさっさとつぶしたい教師陣の目論見なのか、フィリアVSレオというカードになっていた。
ライラの顔が引きつる。
更地にとかならない、よね?
「うわぁお」
「レオ、ハンデ!」
「よし来た。魔法は使わない」
「言霊も、ダメ」
「こんなことで使いはしないから心配するな」
というわけで、おそらく最強である2人の対戦が始まるのだった。
「じゃあ、フィリアいっきまーす!《わん、つー、さん、しっ!遊ぼうよ、精霊さん!今日はお祭りだ!!》」
「自由すぎないか、お前」
呆れたレオの言葉は無視をして、フィリアは現れた風の精霊と戯れる。スカートが翻った。
それに反応したライラのカメラがうなる。激写。
「あ、今日のチョイスは私だよ!ミニスカ!ミニスカッ!!絶対領域!!ちらっと見える真っ白な肌がたまらんっ!!いいよ、フィリアいいよっ!!もっと動いて!!パンチラ、サイコ―――――!!」
「滅べ」
「【銀月】、モード双剣」
「今日は…そうだな、これにしよう」
しばし悩むと、レオは空間をつなげて、剣を引き出した。青い刀身の大剣だ。
「精霊さん、ちょっと纏って」
双剣にした【銀月】へと、風精霊を纏わせて見えない刀身!!みたいなギャグをフィリアはやってみる。
一回でいいからやってみたかった。
「穿て、フィリア」
「え?」
え、待ってその剣の名前フィリアなの!?的な視線が寄せられた。が、レオは気にしない。
大剣が振るわれたのを見た瞬間、フィリアはガードの態勢に入る。
それは正しくて、次の瞬間遠くの方の大木が真っ二つに折れて倒れる音が響き渡った。自然破壊、ダメ、絶対。
後ろの惨劇を恐る恐る見たフィリアは、すぐにレオへ抗議をする。
「ちょっと!!シャレにならないでしょばかぁ!」
「問題ない、裂けても治せる」
「そういう問題じゃない!」
「そうか?わかりやすいように態々詠唱してやっているんだ。これで避けられないようなら俺の婚約者の資格はないと思うが」
「……ふぅん」
お遊び気分でいたフィリアのスイッチが入ったようだ。目が据わった。
ニィイとレオの口角が吊り上るのだが、お前その顔主人公sideの人間がする笑顔じゃないよ!
「《極寒の息吹、白き世界で埋め尽くせ》《凍てつく冷気の衣は覆いつくす。大気に満ちる空気は凍て尽くし、永久に光なき氷に閉ざされん》《蒼き水の波紋、我が足元に広がれ》《大気に満ちる空気よ、凍れ。氷の刃となりて、切り刻め》」
フィリアは、普段はフェカの助けも借りて抑えている魔力のリミッターを少し緩めると、4つの氷系魔法を同時展開して見せた。
銀髪が、体からあふれる魔力に乗ってゆらゆらと広がる。
最初とその次の呪文で試合を行っている場所が氷で覆われる世界へと創りかえられ、3番目と最後の呪文で攻撃魔法が発動した。
氷のフィールドとなったそこら中から、氷柱や氷でかたどられた武器等が予測できない動きでレオへ襲い掛かる。
「それでこそ、俺のフィリアだ」
愉しそうな笑みを浮かべたまま、レオは飛んでくるそれらを大剣一本でさばききる。
「《穿て氷点!凍える息吹は天をも冷やし、我が心にくすぶる炎を永遠に閉じ込めた》」
追撃とばかりにフィリアは、まわりの氷を盛り上げて檻を作りレオを閉じ込めた。
「が、甘い」
レオの持っていた剣がいつの間にか真っ赤な宝石が柄にはまった双剣になっていた。
それを一閃させて檻を力技でぶち壊す。
「…魔力で作られた檻だから普通は壊れないはずなんだけど」
「レオ様は普通じゃないと思うんだよ、ライラ」
外野の声は聞こえなかったことにして、2人は続ける。
「っ、重!!」
そのまま突っ込んできたレオが振り下ろした剣を手に持ったままだった【銀月】で受け止めたフィリアは、一撃の重さに悲鳴をあげる。
「今更いうことか」
「…《炎神の炎は絶えることがない》」
轟、と氷を解かす勢いで噴き出した炎を、レオは後ずさりして避ける。
再びフィリアとレオの間に距離ができた。
「魔法が使えないのは面倒だったか…」
ぽつりと漏らされた言葉に、フィリアはまなじりを上げた。
ここまで自分が負けていないのは、強くなったからではなく…。
「手、抜かないで」
まぁ、そういうことだった。
明らかに遊んでいるのだろうレオを、責めるように見る。
本気になるようにあおっておいて、自分は本気じゃないってどういうこと?
「抜いてないぞ?」
「バカにしないで!」
「…本気でやったらすぐに終わっちゃうじゃないか」
「《穿て氷刃》」
ふざけたレオの台詞にフィリアは問答無用で仕掛けた。
どっちみち、舌戦でレオに勝てるとは思っていない。
「走れ、煌焔刀」
すかさずレオは新しい刀を抜き放って、フィリアの手のひらから発射された氷の刃へとぶつける。
真っ赤に燃え上がる炎の刀身をした刀とぶつかって、氷が蒸発し視界を奪った。
刀の炎で、フィリアが作り上げた氷の世界が融けていく。
「《生命よ、燃え上がれ》」
「…ふむ」
視界を奪った一瞬で、フィリアはレオの足元の植物を成長させて拘束する。
「ふっざけるなああああ!!」
「愉しいな」
「レオのバカあああ!!」
フィリアはレオへ切りかかる。それをレオは癪なことに手首を動かすだけでさばいていく。
「…当たらぬ」
「そうやすやすとあたるわけないだろう。当たったら痛いじゃないか」
「レオの鬼畜っ…鬼畜?あっ」
つばぜり合いにまで何とか持ち込んだフィリアは、ギリギリと押し合っているうちに足をもつらせてこけた。
いつもの習慣でか、咄嗟にレオが受け止める。
「あ」
「あ」
マズ、と顔をゆがませてレオはフィリアを放そうとする。だがしかし、それを見逃すほど馬鹿ではないフィリアは瞳を輝かせた。
「この勝負、勝った――――!!」
レオの首へ小刀へと変化させた【銀月】を押し当てると、フィリアは意気揚々と勝利宣言をするのだった。




