第3話
「ほ、本当にやるんですか生徒会長?」
「やる。離れてろ」
巻き込むぞ、とライは引っ付いてきた役員へ告げた。
ライの眼を見て、こりゃダメだと悟った役員は、フィリアをなだめようとする。
「っ、スィエルムーンさんも、ほら」
「うるさい邪魔」
完全に戦闘モードに入ったフィリアは役員を押し返すと、ライをにらみつける。
先手を取ったのはライ。いきなりフィリアめがけて雷を落とす。
「《落雷》」
「せいっ!」
それをよけて、フィリアは剣を顕現させて、ライへ切りかかる。
「《防御陣:対物理》」
「《凍りつけ!》」
ライは、結界を張って剣をはじき返す。それを見通していたフィリアは、チャンス!とばかりに氷雪魔法を使い周囲ごとライを凍りつかせようとする。
「《燃え上がる愚者の炎。呼び出すは地獄の豪炎。絡み付け、燃やし尽くせ、埋め尽くせ》」
凍りついていく周囲に、ライはあわてず炎魔法を発動させて、炎の大地を作り上げる。
少しでも動けば、炎が襲い掛かる。そういう仕組みの魔法だ。
それを知っていたフィリアも、落ち着いた対処を見せる。一瞬の迷いもなく指を鳴らし、大きな凛とした声をあげた。
「《ウィンディーネっ!!》」
精霊を呼び出した。
ぼんやりとした青い姿の精霊は、フィリアを守るように浮かび上がり、雨を降らせて炎を消し去った。
炎が蒸発していき、湯気が出て、視界を白く染め上げる。
想定外の出来事に、フィリアはライの姿を見失ってしまう。
「甘いなっ」
そんなフィリアに接近したライは、背負い投げの容量で、フィリアを地面へたたきつける。
「くっ、てい!」
ただでやられるフィリアでもなく、すかさずライへ蹴りを放った。
ライが蹴りを防いだその一瞬で、フィリアは跳ね起きて、距離をとる。
「ちっ…《来い、グングニル!!》」
舌打ちをすると、ライは槍を顕現させた。そして、構える。槍の切っ先には電気がまとわりついていて、当たったらシャレにならないことになるだろう。
「《その身を現せ、竜王リルナントゥリア!》」
それに対して、フィリアはドラゴンを呼び出した。
ドラゴン、というのは別の大陸にいる知能ある生物で、その力は人間よりもはるかに高いとされている。
彼らとは《契約》という魔法を結ぶことで、ドラゴン側がそれを了承すれば、呼び出せるようになる。
フィリアの横に出現した、金色の鱗に黒い瞳をしたドラゴンを見て、ライはいやそうな顔をする。
『よっしゃいいタイミング!フィリア、助かったぜ!』
大きく口を開けて、ドラゴンはケラケラ笑う。
リルナントゥリアを縮めてリィ。フィリアはドラゴンをそう呼ぶ。
「リィ…目標は、生徒会長。はい、ぶれすっ!!」
フィリアは、ライを指さしてリィにブレスを吐くよう頼む。
楽しそうなことやってるな!と、リィは了承して金色の炎を噴きだした。
『おお?なんか楽しそうだな!』
「っ、殺す気か!」
寸でのところでブレスをよけたライは、フィリアをにらみつけた。腕を組んでフィリアは知らんぷりをする。
『このくらいで死ぬような奴じゃねぇしなー。なぁなぁ、喧嘩?喧嘩?』
「喧嘩…、そう喧嘩」
「《召喚ゲート、閉鎖》」
雷属性を持ち合わせているドラゴンであるリィが非常に邪魔だったライはすぐさま彼を送り返す。
ライは、右手を横へ降り払い、フィリアとリィをつなぐ魔力の糸のようなものを断ち切った。途端、リィの姿が掻き消える。
『おおお?え、えげつねぇ』
「何する、の」
キッとフィリアはライをにらみつける。
いつの間にか、2人の喧嘩を聞きつけてたくさんの生徒たちが野次馬として集まってきていた。
フィリアがリィを呼び出したのを見て、感心の声が上がる。ドラゴンと契約を結ぶのは難しく、最高学年の生徒でもそうそうできないことだからだ。
更に、ライと戦って3分も持ちこたえていることも、また感心の対象となっている。
彼は、雷魔法を得意としている。そして雷魔法はなによりも速度に優れている。
そのために彼と戦闘をした人たちはみな、1分近くで倒されることが多いからだ。
「今度はこっちの番だな。《火花を持って我が怒りを体現せよ》」
空気が振動する。そして、フィリアのまわりに雷でできた槍が12本現れて、切っ先を向けた。
「しまっ」
雷製の槍は無防備なフィリアへ一斉にぶつかった。
煙が立ち込めて視界を奪う。
「ほら、俺には勝てないだろう」
「そう、思ってれば、いい」
辛うじて防御魔法を張れたフィリアが、油断をしたライへ煙が消えないうちに殴りかかる。
「ばか、だな。おとなしく言うことを聞いていればいいのに」
連続して放たれるフィリアのこぶしを片っ端から逸らしていきながら、ライは反撃をしていく。すさまじい速度で2人はなぐり合う。偶に、蹴りも混ざっているようだ。
「息、上がってる」
「お前もだ」
「…ッ」
足払いをくらいフィリアは地面へ倒れこんだ。その隙を逃すライでもなく、マウントポジションを取られてしまう。
「傷口、開いたんじゃないのか。血」
フィリアを押さえつける傍らで、白い制服のブラウスににじみ出る赤い染みを見つけたライは、溜息を軽く吐き出して治癒魔法を施す。
白い光が彼の手を多い、フィリアの腹部に走った傷を癒していく。
「うる、さい」
「治ってないじゃないか」
「大丈夫、だから」
「どこがだ」
「痛く、ない」
「…じゃあそれでいい。とにかく、まだ俺に勝てないようじゃ単独で、だなんて許さない」
俺の勝ちだ、とライはフィリアの上から退き、彼女の手を引っ張って立たせる。
「いやだ。裏切られる。つらいのはもういや」
いやいやをする子供のように、フィリアは首を横に振った。
「人間不信もほどほどにしておけ」
「人間不信じゃない」