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真・蒼国物語  作者: 松谷 真良
第3章 日常、そして夏休みだよ!!
18/34

第18話 細かい!すごく細かい!

 7月1日の朝。


「セノーテ!!ソフィー、おはよう!!」

「おはようウィーズリー、ミシャー」


今日は、ライラが早起きしたようで、フィリアとそろって食堂へ姿を見せた。


「おはよ!」

「おはよう、フィリアさん。あの」


謝ろうとしたセノーテの口をフィリアは手でふさぐ。


「気にしてない。そういうの、嫌い」

「よっ、ツンデレ!」

「ウザイ」


ライラをにらむと、フィリアはセノーテの前の席に座る。

待ち構えていたようにポラルが現れて、フィリアへ突っかかろうとする。


「ごきげんよう、スィエルムーンさん」

「え、と…おはよう、クルクルコロネ」

「フィリアフィリア、ポラルだよ、ポラル」

「クルクルコロネ、じゃダメ?」


ちょっとだけ首をかしげて、フィリアはライラを見る。

キュンキュンしたライラはコクコク首を縦に振る。


「わたしくはポラルですわ!なんですの、クルクルコロネって!!」


プンスカ怒るポラルは後ろから肩に手を乗せられて強引にフィリアの横から退かされた。


「まぁ、そう怒るな。おはようフィリア」


制服を纏ったレオに、フィリアはビックリしてかける言葉を探す。

予想外すぎて言葉が出てこない。


「無礼者!!誰です、…か?」


振り返ったポラルの目がハート型になるのを見たライラは、色んな意味でご愁傷様と空中へつぶやくのだった。


「この間ぶり、だな」

「えと、うん。…なんでいるの?」


とりあえず一番の疑問のそれをフィリアは尋ねる。面白そうに笑みを浮かべるとレオは肩をすくめた。


「いたらだめか?」

「そんなことないよ!あの…じゃあ、一緒にいられる?」

「だろうな。フィリアが嫌じゃなかったら」

「いやじゃない。あ、えと…制服、似合ってるよ!」

「フィリアもな。…フィリアは何着てもかわいいけど」


惚気やがった!コイツ、堂々と惚気やがったっ!!

ライラは下唇をかんで悔しがる。なんだか、空気のような扱いしかされてないっ!


「レオ、勝手にどこかへ行くなと…おい、テメェ」


早朝からレオを案内していたらしいライが遅れてやってきた。レオがフィリアにさりげなくキスしようとしているのを見つけ、低い声を出す。


「チッ、あと少しだったのに」

「させるか、クソ野郎。お前はこっちだ」


レオのうでをつかんで無理やり引きずっていく。


「またあとでな」

「うん!」


元気よくフィリアは返事をすると、幸せそうにへにゃりと笑った。


「フィ、フィリア!いまの、今の貴重なデレをもう一度っ!!」


ライラが懇願してきたのを無視して、ご飯を食べ始める。さっさと食べてレオに会いたい、というのが丸わかりだ。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



食べ終わった4人は教室へ移動した。目をハートにしたポラル?そんなのもいるね、状態だ。


「そういえば、セノーテさんよぉ」

「何?」


厄介なのにからまれたぞ、とセノーテは眉を顰める。


「レンに告られたんだって?」

「あ、ああ…そうだけど」

「よかったじゃん。両想いだったねー。つきあってんのかい?リア充滅べ」

「ま、まぁ」


密かにソフィーと独り身同盟を組もうとライラは考える。

チャイムが鳴って、担任がレオを連れて入ってきた。

黄色い悲鳴が上がる。耳をふさいでやり過ごすと、溜息を吐いてから担任は続けた。


「さて、出欠をとる…前に、だ。転入生の紹介だな。じゃあ、しばらく時間あげるから好きにしろ」

「…俺の名前は、レオ・緑葉。緑国の皇太子だ」


実に簡潔な単語を並べてレオは一度言葉を切る。

女子たちから、玉の輿を狙いたいのかぎらぎらとした視線を向けられたが、飄々と流す。

面白くなさそうにフィリアがプクリと頬を膨らませているのを見て、レオはニヤリと口角をつりあげるのだった。つまりは確信犯。


「婚約者はいますか!?」


さっそく女子から質問が浴びせられる。かなり現実的なものが。


「います」

「…政略結婚ですか!?」

「そういうことになっています」

「じゃあ、チャンスはありますか!?」

「ありえません」


きっぱりと断言をしたレオに、胡乱下な質問が投げかけられる。


「なんで?」

「彼女を愛しているからです。はい、この手の質問は終わりな。俺からも質問をしたいんだが、いいか?」


直球に言ったレオに、うっとりとラブロマンス―とか言って頬を染める女子を放置して逆に質問し返す。


「どうぞ!!」


クラスを見回すと、男女交えて何人かの名前を呼ぶ。呼ばれた生徒はわけがわからずに首をかしげる。どちらかというと男子生徒の方が多い。


「俺にされたことは覚えているかな、諸君?」

「レオ様に?」

「いや、だってこれが初対面…」


戸惑ったような声が上がる。

レオがしたいことの意図がわかったフィリアが噴出して、机に突っ伏した。肩がフルフルと震えるから、笑い転げているらしい。


「ああ、そうだ。緑の悪魔だとかいうたいそうな名前がつけられていたかな?」

「ヒッ!?」

「ヤベッ」


入学当初、果敢にもフィリアへ告白をして玉砕していった男子たちは、顔色を悪くして椅子に深く座り込む。

ガタガタと震えだす生徒も数名。阿鼻叫喚になりかける。


「ってことは、婚約者ってスィエルムーンさんですか?」

「あたりだ」

「はい、そこまで。1限が始まるからな。そんで、皇太子殿下の席だが…」

「フィリアの隣だろう?」


そこ以外座る気ないけれど、というレオの表明に担任は引き攣った笑みを浮かべて了承する。


「じゃあ、スィエルムーンの隣な。えっと、仲良く?うん、まぁ仲良くしろよ!」


そそくさと教室を出ていくのだった。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



担任がいなくなった途端、フィリアの隣に座るレオへ生徒たちがおしかけてきた。

イケメン、だとか玉の輿だとかいうわずかながらに不穏な単語も聞こえてきた。

それらをすべて、彼は無視する。


「フィリア」


突然名前を呼ばれたフィリアは、きょとんとして首をかしげてレオを見る。


「フィーリーアー!!先に私と話してたでしょ?どぉしてそっちむいちゃうの」


フィリアと話してたライラは、面白くなさそうな顔でレオをにらみつけて、フィリアの気を引こうとする。


「レオの、ほうが大事」

「ひどいっ!!」


突如、サイレンが鳴り響いた。


「何事ですか!?」

「サイレンだな」

「サイレンだね」

「それはそうだけど!!いきなり何かなって!」


真顔で言わないでぇ!!とライラは2人へ泣きつく。

サイレンが鳴りやむと、放送へ切り替わった。


『緊急の連絡です。魔物が侵入してきました。ただちに講堂へ集合してください。結界の穴を探します。なお、講堂にいなかった場合、犯人とみなします』


ざわめく生徒たち。


「ねぇ、レオ」

「なんだ?」

「レオさ、この間結界破ってなかった?」

「それとこれとは問題が違う。そもそも、俺はきちんと張りなおしてやった」

「ならいいんだ」


レオは無実を主張し、それにフィリアはうなずく。


「…まぁ、あの結界何で破れるの、とかそういうのは聞かないことにしてさ。講堂ってどこ?」

「そこからかよ!いいか、講堂ってのは校舎の隣にあるでっかい建物だ!!お前、入学してから何か月たってんだよ、使ったことあるだろ!?」


とある生徒によるツッコミを受けて、フィリアたちは移動する。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



セノーテ、ソフィー、レンの3人が途中合流し、6人という一見大所帯で移動することとなる。

すごくいやそうにレオがほか4人のことを一瞬にらんだのだが、それは伏せておく。


「レオ様って、ランクいくつなの?やっぱり、フィリちゃんと同じチームに入るんでしょ?」


レンのこの質問はレオに無視されることとなった。

流れる気まずい雰囲気を打ち消すように、セノーテがフィリアへ話しかける。


「フィリアさん、よかったね!」

「…フィリア、で構わない。あと、うん。うれしい」

「フィリア!?そんなっ、私のときにはにらんだのに、あっさり!酷い!!」


浮気者―――――!!と叫んでライラは一足先に講堂へ入っていった。




「…あいつ、面白いな」

「でしょ?」


後姿を見送ったレオがぽつりと漏らし、フィリアがそれに同意する。


「うわぁ…一番面白い認定下されたくない人に認識されてるし。ライラドンマイ」

「どうなるんだろ、ライラ…」

「絶対からかわれて遊ばれるよね」

「さすがにそこまではしないよ?ただ…ふふっ」


微笑を浮かべるフィリアの頭をレオはなでてやる。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



講堂へ一歩足を踏み入れたフィリアとレオは沈黙する。


「フィリア?どかした?」

「あ、と…なんでもない」


いぶかしげなライラに、あわててフルフルと首を横に振ってごまかすと、フィリアは困ったような視線をレオへ向ける。


「フィリア。俺は思うんだが…コミュ障はどうにかしたほうがいいんじゃないか?」

「レオとはしゃべれるもん」

「そうだな」

「それじゃ、ダメ?」

「ダメではないが、将来困るんじゃないか?」

「大丈夫、レオが助けてくれる」

「そこまで信頼されているのはうれしいが…俺も万能ではないからな?」


2人がいちゃついていると、どこからか何かがキレる音が聞こえてきた。




「くらえ、《ライジング・ボルトッ!!》」


舞台にいたライが、レオめがけて雷撃を放つ。雷と言われると思い浮かべるジグザクの形の光はまっすぐに進んできた。

レオにあたる直前で向きを直角に変えると、それは何もない空間で爆散した。講堂内が一気に明るくなる。


「やっぱりいるのか…」

「ぼさっとしてねぇでさっさと倒せこのバカが」


校長の手からマイクを奪い取ったライが、レオを罵倒した。ハウリングが起きて、耳をふさぐ。

らしくない生徒会長の姿に生徒たちはわが目を疑う。品行方正なライさんの言葉遣いがっ!嘆く声が上がった。


「言葉づかい悪いですよ、ライさん」

「ハンッ」


電撃がはじけたところから、巨大な猿っぽい魔物の姿が現れた。電撃でやけどでも負ったのか苦しそうなうめき声をあげている。


「ねぇフィリア。アレ何?」


よっぽどフィリアがライラと話しているのが嫌なのか、フィリアがしゃべろうとするのをさえぎってレオがそれにこたえた。


「人食い鬼だな。この大陸にはいないはずなんだが」

「はい?」

「名前はカガラルト、だ」

「いや、あの人食い鬼って、は?」


そんなもん危険すぎて近寄りたくないんですけど間近にいるんですけど!!

声にならない悲鳴がライラからあげられる。

そしてそれはサラリと流され。


「カガラルト…19,97mというのが一般に伝わる大きさ。極稀に30mのものが生まれるらしい。伝承によるとその姿猿の化身にて力は壮大なり。魔の物の中、中の強さを誇りたり。裏大陸の魔物図鑑参照」

「こまけぇ!フィーちゃん、それ細かい!」

「でも、書いてあった」


ソフィーのツッコミにフィリアはむくれてすねたように言う。近くにいたお姉さま方から、かわいい!と悲鳴が上がった。


「小数第2位までとか…よく覚えてるねフィリアさ…フィリア」

「でも、なんでそんな魔物がこんなところにいるの?フィリちゃんわかる?」

「そうやってすぐ私に聞いてくるのやめてほしい」

「あ…ごめん」


現実を直視しようとしない彼らにライから罵倒が飛ぶ。


「いいからサッサと倒せ」

「俺、命令するのは好きだけどされるのはちょっと…」


この期に及んでもグダグダ抜かそうとしたレオにライはガンを飛ばす。低い声でどやしつけた。


「聞こえないのか?」

「聞こえてますよー」


舌打ちをすると、レオは腰に下げていた刀を抜き放つ。


「《ライジング・ボルト》」


さり気無くレオにもあたるような軌道でライはもう一度雷撃を放った。

刀に魔力を流して、それをはじき返すとレオは立ち上がったカガラルトの方へ歩を進める。


「構えなくていいの?」

「そこから、一閃!レオ、かっこいい!!」


黄色い歓声をフィリアは上げる。レオはまだ何もしていない。


「まだ、何もしてないよ…フィーちゃん」

「恋する乙女は盲目…」

「うわああああ!?」


レンから上がった悲鳴はさておいて、ブラリと手に持った刀をカガラルトめがけて一閃した。

一拍ののち、カガラルトの胴体が轟音を立ててきれいに2つに割れた。


「キャー。かっこいいー」


大分棒読みに近いが、フィリアは一人歓声を上げる。


「…これ誰」


あまりにも違いすぎるフィリアの姿に、ライラは唖然ともらすのだった。


さて、ストックもそろそろ切れ始め…頑張ります。

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