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七曜の物語

七曜の物語 木曜日の働き者

作者: 白波

 毎週木曜日。その男はどこからともなく現れ町の人々の仕事を手伝っていた。

 ある人には感謝され、ある人にはねたまれるといった不思議なその男がどこに住んでいるのだとか、本名がなんなのだろうかということは誰も知らない。


 そして、なぜ毎日ではなく木曜日だけなのかというのも大きな疑問の一つだ。


「おやっさん! 今週も来てくれたのかい?」

「まぁな」

「よお! おやっさん! 元気かい?」

「あぁ」


 人々からおやっさんと呼ばれ親しまれている男は、あまり多くをしゃべらない。

 ただ無口であるが無表情ではない。むしろ感情表現は豊かな方だろう。


 おおらかに笑いながら仕事をこなして夕日が沈み始めたときにはいつの間にかいなくなっている。


 彼は本当に人間なのだろうかとまで言われたが、魔法使いにこっそりと調べさせたところまぎれもなく人間だという。

 だったら、彼は何者なのか。そんな疑問を持つものも多かったが、悪人ではないとわかっていたため深く追及する者もいなかったし、答えにたどり着いたものも多くは語らなかった。


 ただ、彼がここに通い続けるのが信じられないと語るだけでそれ以上は何も言わない。


 そのせいか、彼はどこかの貴族ではないかとうわさが立った。

 しかし、彼はそれを笑顔で否定する。自分は貴族の出ではないと。


 だったら彼は何者だったのか。


 皆は最近になってようやく理解した。半年ほど前に王宮で反乱がおき当時の国王が逆賊に討たれてしまったのだ。

 その日以降、街では男の姿を見ることはなかった。


 また、反乱の中心を担っていた宰相は“王は(まつりごと)に関心を持たず町に降りて遊びほうけていたから反乱を起こしたまで”と語り、彼の息子を国王に据えた。

 本当に国王は町で遊んでいたのだろうか? いや、それらしき噂は一切聞かない。いくら隠したとしても金を持っている人物が盛大に遊んでいたら少なからずその手の話を聞くはずだ。


 しかし、それは全くなかった。


 だからこそ、人々はこう噂していた。

 “おやっさん”が週一回しかこれなかったのは、自らの本業が忙しくてこれなくてもこれなかったからではないのかと……


 もちろん、おやっさんがだれかなんて誰も言わない。

 この国において前国王のことを語るなどご法度となっている。


 賄賂が当然のように横行し、政治が徐々に腐ってきてしまっている。

 崩壊を始めたこの国を見て本当に前王が愚王だったのかと聞かれれば皆、間違いなく否と答えるだろう。

 むしろ、今の国王こそが愚王だというのが本音だ。


 町の人々は、おやっさんを懐かしみながら崩壊する国の行く末を見守るしかない。

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